郊外衣料店舗が都心出店へシフトの背景
日経紙によると東京都内で大規模小売店舗立地法に基づく大型店(店舗面積1,000㎡以上)の開設届け出が増えている。都がまとめた2008年度の届け出件数は38件で前年度より10件(36%)多く、2年連続の増加となった。都心部への出店コスが低下したとか従業員確保をし易くなったからで、これもリーマンショック以後の100年に1度の経済危機で都心不動産の空室や賃料が低下し、国内の失業率が増加している今の御時世のなせる業だろう。
大型店舗が都心部へ出店しても過剰店舗の構造的問題が解消するわけでもなく、折からの不況で雇用や所得不安が増大し、その結果、凍りついてしまった個人消費が簡単に溶解するわけでもないのだが、郊外店舗を主体に展開してきた衣料や外食各社が従来のビジネスモデルで苦戦しており現状では限界状態になっているという時代背景がある。
都心出店で最近、注目を集めたのがAOKIホールディングス(HD)の紳士服子会社、「AOKI銀座店」の5月28日開店だ。どこの局の番組だったか忘れたがTVのインタビューでAOKIの店長さんが「休日にお父さんが家族を連れて車で郊外の店に来店して買い物する時代でなくなった。」といった趣旨のことを答えていたのが印象に残った。AOKI銀座店は周辺のビジネス街のサラリーマンが昼休みや仕事帰りに気軽に立ち寄って買い物をすることをコンセプトに店舗作りや商品構成がなされた。
同店は八重洲や京橋などオフィス街に近い立地。AOKIHDの青木拡憲社長の「日本有数のビジネス地で、会社員に本当に喜んでもらえる店をつくる」という号令の下、品ぞろえ、陳列、接客と既存店とは違う発想で見直しを行った。入店後まず気付くのは豊富な商品量だ。同社標準店で扱っているカジュアル衣料は思い切って省き、ビジネス関連衣料に特化したことで、スーツで5,000着、ワイシャツで1万点と、いずれも標準店の5倍の品ぞろえを実現した。(日経MJ6月3日)
もともと郊外を主戦場としてきたAOKIだが、今後5年間で東京中心部約50店舗出店する予定で260~430平方メートルの小型店が主流となる。小型店は売れ筋商品の絞り込みの巧拙で勝負が決まる。AOKIは今後の小型店展開に備えて売り場面積1,000㎡有する「AOKI銀座店」に都心での消費動向を探るアンテナ店の役割を担わせる戦略だ。
紳士衣料の最大手「洋服の青山」の青山商事も千葉県の物流センターの来春稼働に合わせ首都圏都心部出店を強化する予定。さらに10年8月期から新規出店の半分以上を人口100万人以上の大都市に振り向ける方針を打ち出したユニクロも都心部での出店強化に転換した。4月24日新宿に都内最大級の大型店を「ユニクロ新宿西口店」を開店。女性向け小型店も百貨店内などでの多店展開を目指しており、都心部で集中的に店舗展開することでグローバル企業を目指すユニクロの海外認知度を高め、同社のブランド力を強化する。
このようにこれまで郊外店舗を主体に展開してきた衣料品各社の都心シフトには
- 折からの不動産不況で都心ビル進出がやりやすくなったことをビジネスチャンス到来と捉え積極的な都心出店を展開している
- 地方は景気変動の影響を受けやすく、不況時には商業価値の持続性を図れない
- 郊外部は人口減少時代の到来とそれを受けたコンパクトシティの流れでマーケットが急速に縮小している。また消費動向が車を中心とした郊外から都心部での消費に転換しつつある
といった時代背景があると思われる。
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