株価がミニバブル?日経平均1万円突破

日経平均株価が6月12日終値で遂に10,000円を超えた。昨年の10月7日以来8ヶ月ぶりの1万円回復である。各国の経済指標が改善しており、特に中国の景気回復が力強く、5月の製造業購買担当者指数(PMI)は3ヶ月連続で製造業の拡大・縮小の分かれ目となる50を上回った。中国国内のマネーサプライや固定資産投資も伸びている。中国の急回復は内陸部の鉄道・道路などの公共インフラ整備期待からコマツや日立建機が買われ、資源需要から商社株が上昇、原油や銅などの商品相場も押し上げている。

昨年来の株価急落で傷を負った個人投資家もかなりの数が株式市場に帰ってきた。しかし今後も株価の上昇が続くかについては弱気派と強気派が拮抗する。強気派は、年末には日経平均12,000円程度を予想する。企業業績の見通しでポジティブな見方が広がり、市場の空気の好転に注目し、リーマンショック以後、巣こもりしていたリスクマネーが商品市場や株式市場に回帰しており、株式市場でアナリストが個別銘柄についての投資判断を引き上げる動きも広がっているからだ。一方、弱気派は、実体経済の改善が殆ど見られないなか2011年の企業業績改善期待まで織り込んでの株価上昇の危うさに対する懸念が強く、この先7,500円程度まで反落を予想。なかには実体経済の回復を伴わず期待先行で上昇してきた今の株価をミニバブルと指摘する声もある。

今回の株価下落を振り返ると、リーマンショックで一斉にリスク資産から世界中のマネーが逃避し、株価の下落が加速した。各国を挙げての金融緩和や財政出動で、今年に入り景気に底打ちが見え始めた。思い起こせば昨年の10月7日に続き2番底をつけた3月10日の東京市場の株価が反騰を開始したのは、米住宅価格のエコノミスト予測を上回る改善の僅かな兆しや製造業の景況感指数である米ISM指数や中国のPMI指数の改善などから景気回復期待が膨らんだからだった。

米政府は米金融機関の不良資産切り離しのための官民ファンド構想が「抽象的」として市場に失望を与えるやスキームの具体案を提示した。米大手銀行のストレステストの実施と結果公表など矢継ぎ早に未曾有の金融危機の対応を進めた。ストレステストの進行中はその内容の一部をリークさせ、結果公表までの株価の下落を抑制する配慮も見せた。そして公表結果は市場に安心を与え、株価上昇を加速させた。懸念されたクライスラーやGM問題も破産スキームでまずは乗り切った。日本経済も景気の底は1~3月期で4~6月期には国内のGDPもプラス成長になるというのが現時の市場のコンセンサスになっており、景気底割れ懸念が遠のいた。

今後の株価の動向だが1万円回復までは深刻な金融危機不安の沈静化と景気回復の方向感が牽引したが、1万円からさらに株価が上昇していくには景況感の改善だけでは材料が乏しく、実体経済の水準の上昇を示す具体的な指標が必要になる。しかし景気や企業業績の回復についてはV字回復でなくダラダラとした底這いが続くL字型回復を予想する見方が強い。

日米に共通するリスクは長期金利の上昇と雇用悪化だ。金融の超緩和による過剰流動性に起因した商品価格の上昇がもたらすインフレ懸念と加速度的な国債増発で長期金利が上昇し、8ヶ月ぶりに一時4%台に乗り、米国の住宅ローン金利も再び上昇してきた。長期金利上昇は住宅ローン金利と直結するため回復基調にある住宅市場を再度冷やしかねない。

雇用は景気回復に通常は遅行するが、今回の景気の戻りでも生産の絶対水準が低いため固定経費である設備投資や雇用は抑制される。景気指標の一部が改善するなか米失業率は9.4%となり、1983年8月以来、25年9ヶ月ぶりの水準に悪化した。

日本国内も 5月29日発表の完全失業率はこの3ヶ月で0.9ポイント悪化。約5年ぶりに5%台に上昇した。失業者数は1年前から71万人増加し、総数300万人超と過去最大の増加を記録。有効求人倍率も4月は0.46倍と過去最低水準を記録した。完全失業率の悪化スピードは過去に例を見ないスーピードで2009年末には6%に近づくという見方もある。雇用・所得の悪化は個人消費を下振れさせるため、内需が低迷し、景気回復の足枷となる。

このように見てくると景気回復や企業業績が不透明なか一本調子で株価が1万円から上昇していく展開は予想できない。現時の株価はPER40倍前後と海外の収益指標と比較しても割高で、テクニカルでも東証第1部の騰落レシオは過熱警戒水準の120%を超えている。当面は1万円を挟んだレンジ相場が続くだろう。

このような相場環境下では、資源、エネルギー・環境などの材料や業績に注目した銘柄選別が一層強まると思われる。株価が上昇したとしても長期金利上昇や雇用悪化、個人消費低迷で不況が長引くようだと景気対策効果が息切れしてくる年後半か2010年には再び8,000円を割り込み反落するリスクを孕んでいる。

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