効率的資本市場仮説と不動産価格

「不動産に出物はない」という株式投資でいう「相場格言」のようなものがある。「相場より2割は安い!買いたい」という衝動に駆られたとき、この格言を思い出し、よ~く調べてみると安いなりの理由が見つかることが多い。不動産の価格というものは価格のなかに駅が3年先にできるとか、不幸な出来事があった家だとか、再建不可だとかのニュースや材料が全て織り込まれていてそれなりに適正値になっているものだ。

しかし、不動産価格のなかには非合理なミスプライスもかなり存在する。例えば、Value-Up投資の黎明期ではコンバージョンやリノベーションをすれば、そのために投下する投資額を超えて市場平均以上の超過利潤を生みだす老朽ビルとかが数多くあったし、再建不可として値付されて出されている調整区域内の物件が、実は通達や各自冶体の審査基準を丹念に調べていけば、属人性の縛りがなくても再建が可能な要件を満たしていることが解り、売り手を出し抜けることもある。このように不動産価格は情報の非対称性や相対取り引きで公開市場がないといった理由で価格決定に非合理性が潜在しやすい。

投資理論の教科書に「効率的資本市場仮説」というものがある。ファイナンス理論の世界的権威で、インデックス運用の効用を説くバートン・マルキールが唱える投資理論だが、この理論では過去のトレンドからニュースや材料が全て瞬時に株価に織り込まれるような効率性が高い株式市場では、投資家の努力や才能でどんなに調査分析しても、掘り出し物の株を見つけることは困難なことになる。

株価がどう動くかをプロの機関投資家やファンドマネージャーをはじめ個人投資家までが、ありとあらゆる情報を集めて分析している。企業の情報開示も進み、コンピュータの技術革新であらゆる電子媒体に蓄積された株価の履歴データベースやマクロ指標を幾通りにも組み合わせてシミュレーションし、隠された法則性を見つけたり、インサイダーまがいの情報を集めて他人を出し抜こうと市場参加者たちが血眼になっている世界なのだ。

このような賢い投資家で市場が効率化された結果、市場平均以上に勝ち続けるのは極めて困難な状況になるので、株価の過去トレンドをチャート分析したり、決算短信でファンダメンタルズを分析したり、有料のウエブサイトで推奨株を探すなど儲かる銘柄探しに手間とコストをかけても投資成果が上がらない。そこで市場平均に連動させるパッシブ運用が一番効率良いという結論になる。パッシブ運用のインデックス型ファンドは機械的に万遍なく市場平均になるように銘柄を組み入れているだけなので調査費用がかからない分、ファンドに支払う手数料は安くなる。

マルキール氏は日経ヴェリタス誌のインタビューで「アクテイブ型運用(値上がりしそうな銘柄を選別して組み入れ、平均以上の運用成績を狙うタイプ)がインデックス型運用に勝つ確率は5割を下回っている。ある統計で米国ファンドの過去の成績を見ると、2008年末までの1年間でS&P500指数に勝った大型株ファンドの割合は4割程度。過去20年では3割程度にとどまる」とインデックス型運用の効用を説いている。

効率的資本市場仮説はその正当性を巡って反論も多いが市場が効率的か否かの2元論より相対的にどの程度効率的かといった見方のほうが現実的だという考えがあることを付言しておく。

話を戻して不動産価格だが、個別性が強く、もともとローカルな市場で相対取り引きがなされるなどの特性があり、株式市場のようにリアルタイムで取引されて株価変動が解るような市場がないため、本来は効率的資本市場仮説は成立しにくいといえる。今後の方向性としてはWEBでの物件情報が充実し、収益用不動産など全国的な規模で物件属性や利回りなどが参照できるといったレベルにはじまって、不動産の金融商品化やグローバル化が急速に進行しており不動産市場の効率化は進んでいる。不動産市場の効率化が進むと非合理なミスプライスに乗じて市場平均以上の高い成果をあげることができたプロにとっては「うまい話」を発掘できる楽しみが少なくなることになる。

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