失速気味の株価と底を打たない地価
ここにきての株価は上値が重い。景況感の改善だけで期待が膨らみ、実体経済の回復が全くないのに景気回復後の株価風景の青田買いさながらで上がってきたことへの警戒感から投資家が慎重になっているからだ。この国の実体経済の現状は惨憺たる有様だ。今回の不況で何度も言い尽くされたフレーズだが「戦後最大の落ち込み」といわれる国内のGDPは09年1-3月期で前期比15.2%減になった。昨年9月のリーマンショック以後、未曾有の世界不況で米欧の消費が凍りつき輸出が大幅に減少し、外需依存型の経済構造を持つ日本への衝撃が余りにも大きかったからだ。しかし、4-6月期には5.4半期ぶりにGDPがプラスに転じるという見方が強まっている。企業の在庫調整が急速に進んだ結果、企業マインドが好転、生産、輸出も下げ止まりの兆候が見え始めた。3月の鉱工業生産指数は対前月比で1.6%上昇、先行指数である製造工業生産予測調査は4、5月の改善見込んでいる。
GDPを2%は押し上げるという政府の景気刺激策だが、バラマキと酷評されているが、それなりの変化は出ている。環境対応車への減税措置でトヨタのハイブリッド車「新型プリウス」の先行受注が8万台を突破した。先に販売開始したホンダの環境対応車「インサイト」も好調に売れている。家電量販店ではエコポイント効果でテレビの売れ行きが急伸している。ゴールデンウィークには「どこまで行っても1,000円」を謳った高速道路はこの国の善良な市民の車で溢れ渋滞。あれほど不評だった定額給付金も交付が始まると世論の批判も幾分は和らいだ。麻生総理は「してやったり」と思っているのだろう。
しかし、変化の風はまだ微風に過ぎない。4月から始まった企業の3月期決算発表で2010年3月期の企業収益の見通しは2期連続の経常減益と極めて厳しいものだった。3月の7,000円の安値から9,000円台まで急回復した日本の株価も割高感が出ている。5月21日時点の日経平均の予想PERは39.4倍だが、諸外国と比べ高い。日経ヴェリタス(2009年5月24日号)によると米S&P500種平均は12.2倍、英、仏、独といった欧州市場は9~10倍、高成長国の代表的な株価指数でも中国16.4倍、インド14.0倍、ブラジル9.6倍、ロシア6.5倍であり、日経平均の割高さが際立つ。
PBRも21日時点で1.21倍でPBRの割安感に着目した物色も一巡感が出ている。この時期に株を買っているのは個人投資家が多く、国内機関投資家は利益確定売りの姿勢が鮮明で日経ヴェリタスでは年金勘定の信託銀行の4月の売り越しが株式先物も含め2,679億円の大幅な売り越しになっている。海外投資家も日本株よりパフォーマンスが高い新興国への関心が高く、市場の買いエネルギーがイマイチ盛り上がらない。
この先の株価だが、景況感の改善からさらに踏み込んだ実体経済の具体的な好転を示す指標が出てこないと株価が調整されていくのではないだろうか。
一方、国内の地価に目を転じると、収益用不動産では株式市場と同様に個人投資家の底打ち期待からの物色が見られる。首都圏のマンション市況も改善してきた。不動産経済研究所が5月18日に発表した4月の首都圏マンション市場動向調査によると、発売戸数は前年同月比8.5%減の2,621戸で、20ヶ月連続の前年割れだった。ただ減少率は18ヶ月ぶりに1ケタ台で、平均販売価格は不動産「ミニバブル」前の20ヶ月前の水準に下がった。同研究所は「市場にやや回復の兆しがある」とみている。また売れ行きを示す契約率は、前年同月より1.6ポイント改善し64.7%だった。5月の発売戸数は、21ヶ月ぶりに前年同月を上回る約4,500戸を見込んでいる。市況改善には違いがないが、国内製造業と同じで急速な在庫調整が進んだ結果、マンション価格の調整が進み、買える価格水準を市場が試行している段階ともいえる。買える水準を決定する家計の改善は企業の底打ちより遅行する。
雇用や所得の削減はこれからが本番。住宅ローン減税や贈与税減税効果は実需のマンションや戸建て需要に一定の効果があるが地価回復への道はまだ遠いようだ。
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