引き戸の家が大人気だそうな

筆者の世代が育った家では玄関、間仕切りなど引き戸がポピュラーだった。引き戸は日本式家屋の定番だったし、国内に建つ多くの住宅に取り入れられていた。それがいつの間にか開閉式のドアに淘汰されていった。緩やかに居住空間を区切ってきた引き戸の生活から細かく部屋が区切られ、ドアが境界線のように個室のプライバシーを守る生活へ移行したのだった。しかし、ここにきて引き戸が見直され復活してきている。

日本経済新聞によると引き戸が高級ホテルやマンションのような和室とはかけ離れた洋の室内空間に採用されているのだ。例えば、「全戸に引き戸を採用」と謳ったマンションが販売中である。2009年11月完成予定の「エルグレース神戸三宮タワーステージ」は玄関を含め全部屋に引き戸を取り入れた。といっても昔ながらの和室空間が再現したわけでなく、和室のない洋風の部屋にも似合うように半透明のおしゃれな製品やブラウン系の玄関といった具合にデザインされた引き戸が採用された。住宅にとどまらず外資系の高級ホテルにも引き戸が採用されている。07年開業のザ・ペニンシュラ東京は全室に高さ2m60cmのトチノキ製の巨大な引き戸を入口に採用。ホテルの「洋」に伝統的な「和」の技法を融合させたデザインを意図した。

なぜいま引き戸なのか、日経紙は高齢化、家族のあり方の変化、間取りと育児の関係から引き戸が評価されているとしている。高齢化で考えると引き戸はバリヤフリーを実現しやすい。車いすの場合、開き戸は車椅子を動かしながらでなければ開け閉めが難しいが引き戸なら楽にできる。家の中の家族の在り方の変化と引き戸だが、個室志向から仕切りの少ない空間を求めるニーズが増えている。例えばハウスメーカーの家のなかには仕切りが少なく、可変的な空間と家族に目が届く家をウリにするケースも増えている。間取りと育児で見ると住宅コンサルティング会社スペース・オブ・ファイブの調査では首都圏の有名中学に合格した子供の多くは個室よりリビングなど家族と同じ空間で勉強していたらしい。同社は引き戸を多用した「頭の良い子が育つ家」を提案している。

引き戸の技術革新も進んでおり、引きずる音の解消や断熱性も高められている。引き戸がいま風の生活に適合するようにデザインされ、技術革新されて快適な居住性を実現できるように進化しているのである。

日本人が長期間にわたり伝承してきた生活様式や文化の多くが廃れ、顧みられることなく消えていくなかで、引き戸という和を象徴する建具が見直され、現代に復活したのだが、立ち止まって再考してみると消えていくもののなかには人間の英知で残すべき大切なものが数多くあるのではないだろうか。

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