オバマ政権の住宅市場対策
先進国、新興国を問わず急速に進行している世界同時不況は、米国のサブプライムローン問題に端を発し、リーマンショックで急加速した。国内金融機関のサブプライム関連証券の保有が少ない日本では、その影響は先進国のなかで最も少ないだろうといわれたのだが、10-12月実質年率GDPがマイナス12.7%と外需に頼る国内経済構造の歪みと脆弱さを曝け出し、先進国のGDPマイナス幅と比べても際立って深刻な状況となっている。
サブプライム問題のスタートは米国の住宅価格の下落に行き着くのだが、米住宅価格は、依然として底なし沼のような暴落が続いており、米住宅価格が回復しなければ世界規模の不況の終息は来ないというのが共通の認識になっている。
オバマ大統領は「住宅の喪失は多くの場合、雇用の喪失から始まる。多くの企業が、業績悪化や資本不足で人員削減を行っている。住宅ローン担保証券市場の崩壊により市場が動揺し、信用状況がひっ迫している」と指摘。「住宅ローン危機、金融危機、そしてこの広範にわたる経済危機は結局のところ、相互に関連し合っている」と語った(ロイター)。
このような認識を踏まえ、米政府は、2月18日、最大2,750億ドル規模、最大900万世帯を対象とする住宅ローンの返済支援策を発表した。住宅市場対策は、大型景気対策や金融安定化策と並ぶ経済再生プランの柱と位置づけているが、政策の柱は4つある。その内容を要約したもののが以下である。
■米住宅対策
- 2つの政府系住宅金融機関を通じて、最大500万世帯に住宅ローンの借り手に対して条件を大幅に緩和することで、より低金利の住宅ローンへの組み換え・借りかえを支援する
- 政府系住宅金融機関に対する公的資金の枠を4,000億ドルに倍増し、資本増強などを図り、住宅ローンの貸し出しや金利引き下げを促す
- サブプライムローンを利用して住宅差し押さえに直面する最大400万世帯のために総額750億ドルの公的金を投じて返済を支援する
- 住宅差し押さえ防止へ向け破産法を見直す
上記の4つの柱についてもう少し詳しく紹介する。
住宅価格が下落すると自宅の価格がローン残高を下回り借り換えが困難になる。米政府は従来の借り換えルールを緩和して借り換えを支援する。借り換えができる対象者は、ロイターによると、頭金20%以上を支払い、政府系金融機関(GSE)による買取対象適格とされる期間30年の固定金利型住宅ローンを組み、現在も返済を続けている400~500万人の「責任ある」住宅保有者である。つまり米連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)、米連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)の2つの政府系住宅金融機関を通じて、最大500万世帯を対象として住宅ローンの借り手の条件を大幅に緩和する。その結果、より低金利の住宅ローンへの組み換え・借りかえが可能となる。政府資金のうち500億ドルは不良資産救済プログラム(TARP)から拠出する。政府系住宅金融機関を通じて低利ローンへの借り換えを進めていくと住宅金融公社の負担が増えるので、政府系住宅金融機関に対する公的資金の枠を4,000億ドルに倍増し、資本増強などを図り、住宅ローンの貸し出しや金利引き下げを促す。
民間ローン会社のサブプライムローンを利用して住宅差し押さえに直面する最大400万世帯に対しては、ローン会社へ借り手の負担が軽減されるように契約の見直しを半ば強制的に求める。対象者は、①所得に対するローン比率が高い、②ローンが住宅価格を上回っている持ち家に住む住宅保有者である。見直し後のローン返済が借り手の収入の31%以内の収められ、貸し手は条件変更後の返済額を5年間据え置きにすることをが求められる。これによる貸し手の負担増を政府が住宅ローンの貸し手、サービサーとともに金融安定化法の750億ドルの公的資金枠を活用して負担する。ブッシュ政権時の借り手救済の枠組みは、貸し手やサービサーへのインセンティブが乏しく、実効性が低かったため、この反省から関係者へのインセンティブ要因も用意した。ローン条件の変更に協力した債券回収業者には1件につき1,000ドルの報奨金を出し、借り手が支払いを継続した場合は3年間で最大3,000ドルの手数料が得られる。また破産法の見直しも検討する。裁判官が、破産裁判で住宅ローンの条件を変更して借り手の負担を軽減できるように法改正を行う。
オバマ政権が打ち出した住宅対策は、先に出した米景気対策法のコアである不良債権買取の官民共同ファンド構想が不良債権の買い取り価格の決定プロセスなどで具体性に欠けるという指摘が多かったのに比較すると、相当程度まで踏み込んでいる。ガイトナー財務長官は、「住宅価格の今後の悪い下落を防止することで、景気刺激になる」と表明。「ホワイトハウスの試算では今回の対策を実行することで住宅価格の下落を1戸当たり6千ドル(約56万円)抑制できる(日経夕刊09.02.19)」と見ており、「米ゴールドマンサックスの試算では、通常なら延滞債権の85%が住宅の差し押さえにつながるが、支援策を講じればこの比率を55-45%に引き下げられる(日本経済新聞09.2.20)。」と予測している。
当該住宅対策に対するマーケットの評価だが、現状の米住宅市場は、直近の市場指標から見ても極めて深刻なため、市場に対する即効性がないとしてNY株式市場の反応は盛り上がらなかった。しかし、政府主導で実効性が高い対策が具体的に盛り込まれているので、住宅価格動向が目に見えて改善するなどの政策効果が出るまでにしばらくの時間はかかるとしても、住宅の差し押さえは相当程度減少すると見込まれるので当面の住宅価格の下落抑制効果は期待できそうだ。住宅の差し押さえを制御して住宅価格の下落を抑止すれば、米国内の地すべり的な住宅価格の下落にやがて歯止めがかかり、金融機関の貸し渋りなどの改善に結びつく。その先には金融危機収束後の道筋も見えてくるのではないだろうか。
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