東芝不動産を買収する野村不動産HDの深謀遠慮

野村不動産ホールディングスは、11月末に東芝の子会社「東芝不動産」を1,500億円で買収した。東芝不動産は東芝の連結対象から外れ、12月末日までに譲渡を完了。この結果、東芝本社が入居する東芝ビルや梅田スカイビルなど約150物件を野村不動産HDグループが保有することになる。新社名は野村不動産が親会社となる「NREG東芝不動産」でスタートする。東芝グループの出資比率35%、野村不動産HDの同比率は65%となった。

日経産業紙(09.1.5)によると、「東芝本社が入居する東芝ビルディングをはじめラゾーナ川崎プラザ(川崎市)、梅田スカイビル(大阪市)など都心部を中心に約150物件保有することになる。安定した賃料収入があり、2008年3月期は売上高420億円に対して営業利益は120億円。この優良会社を傘下に収めることで、野村不動産は09年3月期に20億円の増益効果を見込む。」

そして野村不動産HDの照準は東芝グループの1兆円超といわれる資産に向けられている。東芝本社とのパイプを作り、将来はオフィスや工場を含めた東芝グループ全体のCREマネジメントを展開することが狙いだ。

不動産の証券化を軸としたJREITやファンドビジネスは、不動産各社に開発から周辺フィービジネスにまで、上流から下流にあまねく収益の雨を降らせ、吸い込んできた。しかしこのビジネスモデルも未曾有の金融危機で躓いた。またこれまでの安定的な収益基盤であったオフィスビルの賃貸収益も賃料や空室率に先行き不透明感が強まり、好調だった分譲マンション事業も、販売価格と購入可能限度額との乖離が拡大、低調に推移している。

このような厳しい経営環境の到来で浮上してきたのがCRE(コーポレート・リアル・エステート)である。CREとは、企業が保有するビル、工場、店舗、社宅、遊休地などの企業不動産を経営資源と位置づけて企業価値向上の観点から、経営戦略的視点に立って見直しを行い、有効活用や効率管理して不動産投資の効率性を最大限向上させていこうという手法である。再開発や証券化、売却、賃貸で収益を上げることも含まれる。

企業サイドにとってもCREを必要とする経営環境が醸成されている。固定資産の減損会計、M&Aの際のパーチェス法(時価評価)の一部導入、棚卸資産(販売用不動産)の低価法の強制、リース会計基準変更に伴うファイナンス・リース取引のオフバランス化基準の厳格化など今後予定されているものも含め、CRE戦略の早急な取り組みが企業の至上命題になってきているのだ。

日本の不動産の資産規模は、約2,300兆円。そのうち企業が所有する不動産は、金額規模では約490兆円、面積規模では国土の約14%を占めるといわれており、CREビジネスの眼下には巨大なマーケットが広がっている。そしてCREを事業戦略として展開できるのは不動産、ゼネコンのなかでも大手に限られる。企業不動産と呼ばれるオフィスや工場など業務用固定資産・不動産の施設・設備のコストの一元的管理や適正配分、効率化を実現できるデータベースを基幹とするITシステムとCREマネジメントを遂行できる人材を抱え、すでに各マネジメントの実績がなければできないからだ。ITシステムはレディメードのASP方式を活用できるが、CREマネジメントを遂行するには人材の幅と層の厚さがなければ無理だ。野村不動産HDのような総合不動産会社が大手企業とパイプを結び、その企業不動産を軸に開発から仲介、建設、コンサルティングと総合不動産会社ならではの事業展開を図るビジネスモデルは、三菱地所をはじめ他の競合各社も参入しており、不動産業は新たなフェーズに入ってきている。

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