住宅履歴書で中古住宅の復権を

国土交通省が「住宅履歴書」制度を創設し条件を満たした履歴書を有する物件を取得すると固定資産税、登録免許税、不動産取得税を軽減するといった方向で検討を進めている。住宅履歴書の内容は設計図、材料・設備、施工者名などからなる。新築、改修、修繕、点検時においてデータベースとして確実に蓄積され、いつでも活用できる仕組みとして整備していくことで適切なリフォームや点検、交換が可能となり、中古住宅の流通整備に寄与することになる。

住宅の平均築後年数は、英国77年、米国55年と比べると日本は約30年でその短命さが異常である。日本の場合、戦後の驚異的な高度成長と人口の都市集中でバブルが崩壊するまで永く土地神話が続き、土地価格が建物に比べ相対的に高かった。そのため家を建てても20年くらい過ぎると家を取り壊して更地にしたほうが優位に売却できた。地価上昇が地上の家の短期サイクルでのスクラップ&ビルドを可能にしていたとも言える。

しかしバブルが崩壊し、人口減少と少子高齢化が国内に忍び寄ってきた。これからは否応なく低成長時代になるので地価が右肩上がりで上昇することはなくなる。その結果、自然の成り行きで家の経済価値維持への関心が高まった。日本の中古住宅市場は、諸外国に比べボリュームといい、情報の透明性などで極めてお寒い。例えば、不動産業者が提供する中古住宅物件資料(レインズの物件広告など)に建物の地盤調査レポート、竣工図などの図面、修繕やリフォーム箇所が解る図面・仕様書や工事見積書などが添付されることはないし、要求しても満足できるレベルでの情報開示は殆どなされないのが現状だ。このような中古住宅の情報の不透明性から当該建物本来の価値を市場価格に反映させることができず、経年だけで機械的に減価したり、市場価値無しの判断をしてしまいがちだ。

建て替えや新規の住宅取得が減少していくなか、危機感を持ったハウスメーカーが独自に住宅履歴書を整備し、中古住宅の買取や再生事業の拡大を図り始めた。09年3月5日の日本経済新聞によると大和ハウス工業が東京大学と共同で設備の型番や設計図、仕様書、地盤調査書や修繕記録を「家の履歴」として閲覧できるシステムを開発し、住宅購入者がこれらのデータを閲覧できるサービスを始めた。将来の中古住宅再生事業に参入するための布石である。また同紙によるとパナホームも住宅履歴情報を基に柱や梁など丈夫な構造体はそのままにして内外装を中心に改修。自社が建築した中古住宅を買い取って新築並みに再生する事業に参入する。

これらのハウスメーカーの動きは業界内で拡大していくと思われるが、中古住宅を保有する一般ホルダーも住宅履歴として新築時の工事図面、仕様書、地盤調査書と点検、修繕、リフォームの履歴がわかる図面、工事仕様書、保守・点検調査レポートなどを保有しておきたい。修繕やリフォーム時に役に立つだけでなく、愛着のある自分の家の経済価値を維持し、売却時にはこれらの履歴書を保有していることが家のメンテナンスや管理への熱意を買主に伝え、自宅の価値向上への投資があれば有力な証明資料になるからだ。

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