東京都心オフィスビルの賃料先安感
ここにきてこれまで堅調といわれてきた東京都心部のオフィスビルの賃料動向の雲行きが怪しくなっている。クレディ・スイス証券が、「業界環境としてオフィスビルの空室率は上昇傾向にあり、現在の新規募集賃料の上昇率がゼロになる可能性がある」と述べ、「マクロ景気の動向次第では、物件によって賃料の下落リスクも想定する必要がある」と指摘した上で、JREITのジャパンリアルエステート8952の投資判断を「Neutral」(中立)→「UNDERPERFORM」(弱気)に格下げした。~以下略~」(日本証券新聞9月2日)
また日本経済新聞夕刊(8月27日)は、「東京都心で、上昇が続いていたオフィスビル賃貸料(募集ベース)に一転して先安感が広がってきた。大手仲介業者2社がまとめた東京都心5区の7月末の平均賃料は前月比で下げに転じた。下落幅は小さいが、前月まで最長で2年11ヶ月続いた上昇が途切れた。」と報じている。
景気の後退が本格的になっており、4~6月期の国内実質GDPも年率でマイナス2.4%となった。世界経済も金融危機、住宅市場低迷、商品相場高から成長率が下振れしてきている。勢いが良かった新興諸国も対米輸出の鈍化と資源高によるインフレで内需も減速しており、デカップリング論の雲行きも怪しくなってきている。日本国内に目を転ずると、輸出とともに国内景気を牽引してきた設備投資が2四半期連続のマイナス。消費者もガソリン、食料品の高騰で生活防衛に走り、縮む消費が企業業績を圧迫している。
これまでオフィス需要を牽引してきた外資系金融機関もサブプライムローン問題以降、撤退や移転が急速に表面化、国内企業は、業績悪化で増床や新規賃借、オフィス賃料値上げにシビアになっている。オフィス仲介大手の調査では、東京のオフィス空室率は、2月以降、上昇しているが、この原因は、 企業業績が低迷気味のテナント企業が増えるなか賃料負担力が低下しているからだ。とはいえ、東京のオフィス市場は、空室率3%台にとどまっており、2011年頃に供給のピークが来るという懸念材料はあるが、現状では、それほど悲観的な状況に陥っていない。
一方、大阪、名古屋、福岡などは、近年の不動産ファンド等によるオフィスビル投資過熱の余波に加え、大型ビルが大量に供給されるため、供給過剰感から賃料下落局面に入る可能性が高まっている。例えば、三鬼商事の調査では、福岡市のビジネス地区では今年前半に完成したビルは11棟。今後も大型供給が続く見通しだ。需給が緩んでおり、既存ビルの平均空室率も9%台後半に上昇。ファンド物件の中には割高な賃料設定のものが多く、テナントの賃料負担力、移転動向が縮小しているので今後の賃料動向が懸念されている。
JREITでいうと運営母体、財務指標、運用力を外して物件だけ見れば、東京都心部のオフィスをポートフォリオの主体とする銘柄は堅調、地方都市や中小規模オフィスの銘柄は軟調で、レジ系は総じて低迷というのがこれまでの見方だった。今後、この基調にどの程度の影響があるのか、国内の景気動向との連動性が高いオフィス賃料の今後の動向は、日本経済の行方次第だが、予想以上に景気減速が進んでおり、今後が注目される。
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