都心高級マンションへシフトする大手業者
マンションが売れない!なぜならマンション販売価格が一般ユーザーが買える価格帯を超えたからだが…。東京カンテイが5月8日にまとめた新築マンション価格調査によると2007年に東京都内で発売されたマンション価格は平均年収の9.85倍になった。適正価格が年収の5倍以内という業界の常識から考えるととてもじゃないが買えない価格になってしまったのだ。
建築費高騰がマンション価格上昇の主な原因だが、マンション各社は、急増する在庫を減らすため値下げをしようと思っても用地費がこのところの地価高騰で高値で仕込まれているため、販売価格を引き下げられない。マンション業者の粗利とされる20%を吐き出し赤字になるからだ。これまで好調だったマンション業界に昨年から逆風が吹きだした。しかし富裕層を狙った都心の高級マンションは比較的好調な売れ行きを続けている。
マンション大手各社は、悪化するマンション販売に危機感を募らせ、富裕層の需要が比較的堅調な都心部の高級マンション路線を打ち出して起死回生、顧客開拓をすべくさまざまな戦略を練っている。
まず三井不動産レジデンシャル。これまで都心1等地を中心に「パークマンション」などのブランドを展開してきたが、あらたに可処分所得が高い富裕層をターゲットとした2ブランドを投入した。独身女性やディンクスなど都心居住型小所帯向けの高セキュリティなマンションブランド「パークリュクス」と団塊世代の富裕層向けブランド「パークシーズンズ」がそれだ。パークリュクスは、JR山手線内、駅から5分の立地で専有面積30~60㎡程度がメイン。共用部の2重ロック、玄関扉、窓部分の防犯センサー装備など独身女性の防犯や安全性に対するニーズに配慮した。パークリュクスシリーズ第一弾として「パークリュクス本郷」が6月販売開始した。
団塊世代富裕層向けのパークシーズンズは、週末の余暇を自然に恵まれたリゾートで過ごしたいという都心居住者のニーズに応えるため、都心から1~2時間の箱根や軽井沢などのリゾート地が中心で60~70㎡程度がメインとなる。「パークシーズンズ箱根強羅」を今夏販売開始予定。富裕層向けの追加投入2ブランドで富裕層のなかでも独身・ディンクスと団塊世代にターゲットを絞り込み、各代表世代のニーズを汲み上げようという訳だ。
野村不動産は、同社の富裕層向けマンションブランド「プラウド」でオーダメイド感覚を売りにした。マンションの構造ベースとしてロングライフマンションを実現するために高強度コンクリートやスケルトン・インフイル(SI)を検討し、間取りや内外装、住設機器などは購入者の要望に応えている。東京都渋谷区で販売した「プラウド神山町」は販売価格2億1300万円~4億6500万円で高額物件の8割はこのオーダメイドサービスを受けるという。
三菱地所の東京都杉並区で完成した「スタイルハウス南萩窪」も販売価格は5,730万~7,780万円で高級マンションの価格帯とはいえないが、「フルオーダーメイド」を打ち出したマンションだ。「1,200㎡の敷地に建設された地上3階建マンションの住戸内は100%顧客の嗜好に委ねられる。フローリングや家具は勿論、キッチンやバスなど水周りも基本的に自由設計(日経産業07.11.16)」という徹底ぶりだ。
住まい手のフルオーダーを実現するマンションとしてすでにコーポラティブハウスの取り組みがある。マンション入居を希望する者が自主的に集まり、建設組合を設立、組合が建築業者の選定、用地取得などを請け負う形式を取り、住まい手のニーズを取り入れ、設計の自由度は高いが、建設手順に時間がかかるというデメリットがある。野村や三菱地所のオーダメイドマンションは、住まい手のニーズを汲み取りつつ、コーポラティブハウスの煩雑さを解決したものとして今後の行方が注目される。
5本の樹キャンペーンなど植栽で戸建住宅の付加価値を高めている積水ハウスは、渋谷区神山町で「グランドメゾン松涛」を販売するが、総戸数16戸で最高価格5億8千万円。同社の戸建住宅と同様に植栽のノウハウを活かした庭造りで4季を楽しめる。建物外観は御影石張り、共用部分、専用部分にも天然石や天然木をふんだんに使い、エレベータ4基、駐車場140%とハイグレードマンションに仕上がっている。
大手各社の高級マンションは、いずれも都心部を中心に事業展開し、富裕層に訴求する付加価値を工夫している。マンション市況全体が失速し、銀行融資も厳しくなるなか、中小業者の中には破綻する者も増えそうな雲行きだが、大手は、財務体力に余裕があるので、事業規模としては、マンション全体の商品ラインから見ると小規模とはいえ、限られた需要層を取り込んでいる。その事業成否の行方は、今後のマンション市場の動向を占う上で眼が離せない。
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