ユーザー向け建物総合評価サービス

マンションを購入するときやオフィスビルや工場を事業主が建てようとするとき、建物の性能を総合評価するシステムがないため、つい素人判断で建築コストの安さ、外観の見た目の良さや設備の充実度などの表面的な評価で判断してしまいがちである。

耐震強度偽装やアスベスト、土壌汚染などマスコミで取り上げられて事の重大性に気がつく人が多いのは、近年の社会や生活態様の複雑化に起因し、健康や環境面での建築のチェック項目の増加がある。また建築というのは限られた専門家だけが、その性能を評価できるという半ばブラックボックス化された業界の体質に加え、一般ユーザーの勉強不測もあって性能評価をより困難にさせていた。

ここにきて建物の性能を具体的な数値で総合評価して、購入者や建築主に定量的に提供するサービスが登場してきている。日本経済新聞5月10日によると、清水建設が自社で施工するオフィスビルや工場などほぼ全ての建物について建物を総合評価する指標を使い合計100点で評価するシステムを導入することにした。

新指標は、「シミズ・グリーンコード」という名称で下表の11項目からなる。

  1. 室内環境
  2. サービス性能
  3. 室外環境
  4. エネルギー
  5. 資源・マテリアル
  6. 敷地外環境
  7. 地震対策
  8. 異常気象対策
  9. 生態系配慮
  10. 長寿命化
  11. モニタリングシステム

法基準に適合しただけのレベルでは40点未満になるというこのシステムは、施主が建築コストと性能評点のバランスを見ながら、性能要求水準とコストバランスの合意点で建築を発注できるという点が注目される。評価内容は施主だけに伝えられ、料金は無料になっている。

マンション購入者も、これまで候補マンションの総合的評価が解る客観的な指標がなく、購入時に迷うことも多かったが、新築マンションに格付けをするサービスが登場した。日経産業新聞5月16日によると建物診断を手がける日本不動産格付と大成建設系シンクタンクは、共同で新築マンションの格付けシステムを開発した。建物の構造、耐震、権利形態、内装など140項目のデータを入力後、「構造・耐震」、「床の遮音性」、「駅近」など9項目につき10段階で点数が表示される。6月から試験運用するサイトを開設し、会員登録を受付る。閲覧は当面無料で利用者が購入したときに、開発会社から分譲価格の約1%が成約料として徴収するというビジネスモデルだ。登録会員は、1級建築士、不動産鑑定士の資格を持つ担当者のコメントも読めるようになっている。

すでにファンドやリートなどによる不動産投資の世界では、デューデリジェンスの一環として建物のER(エンジニアリングレポート)が発行され、建物の遵法性やPML値による地震時の被害額、緊急、短期の修繕コストや長期修繕コストが定量的に分析されたレポートが提供されている。

このように建物のリスク判定や性能評価を定量的に数値にして提供するサービスは、今後も社会的要請が高いので増加していくと思う。本コラムで紹介したようなサービスが登場してくる背景として、一般人にとって建築は難解で、ましてや建物性能など複雑多岐にわたっておりその全体像が把握できない、知識や情報面でマンション業者とかゼネコンと対等でないという側面が、ビジネスモデルのベースになっていると思える。いずれにせよこの種のサービスが、一般ユーザーにとって有用であることは間違いない。今後、ユーザーの支持を得てどこまで普及していくかは、評点の合理性と客観性の保持にある。業者側の都合で評価がなされているとユーザーが感じたときは、説得力をなくし、ビジネスモデルが崩壊するであろう。

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