不動産実務から見た改正不動産登記法の要点

■主な改正点

宅建業者や不動産鑑定士が不動産取引に携わるに際し押さえておくべき改正不動産登記法の要点と実務上の注意点について言及する。

まず主要な改正点は下記になる。

  1. オンライン申請の導入
  2. 書面申請で出頭主義を廃止
  3. 登記済証に代わる本人確認手段として登記識別情報の制度を導入
  4. 保証書の制度を廃止し、事前通知制度を強化するとともに資格者代理人による本人確認情報の提供制度を導入
  5. 登記原因証明情報の提供を必須とした

上記の特に3、4、5は売買契約後、取引のクロージング段階にきての登記・引渡しと代金決済のテクニックとして重要であるため不動産取引の実務ポイントを具体的に書いた。以下順を追って言及する。

1、オンライン申請の導入

画期的な変化は、インターネット上で登記申請することができるようになったことだ。電子申請処理組織を用いてオンライン申請ができるオンライン指定庁は、コンピュータ登記所のなかから法務大臣が指定する。オンライン指定庁ではオンライン申請と書面申請が併存することになった。またオンライン指定庁以外のコンピュータ登記所やコンピュータ登記所以外のブック庁(従来登記所)をオンライン未指定庁という。オンライン共同申請をオンライン申請でする場合には、登記権利者及び登記義務者が申請情報又は委任情報に電子署名を行い、そのうちの一人又は代理人が、申請情報及び添付情報を法務省オンライン申請システムに送信する。



2、書面申請で出頭主義を廃止

旧法の下では、権利に関する登記の申請は、当事者又はその代理人が登記所に出頭してしなければならないという出頭主義が採られていたが、オンライン申請の導入に伴い、この出頭主義を廃止し、申請人等の負担軽減の観点から、書面申請についても、申請人やその代理人が登記所に出頭することなく、登記の申請をすることができることになった。また登記申請書を郵送により送付することもできるようになった。

3、登記済証に代わる本人確認手段として登記識別情報の制度を導入

従来は、登記が完了すると登記所から買主等の登記名義人に登記済証が交付され、その後、その登記名義人が登記を申請する場合において、本人を確認するために登記所に提出しなければならないとされていた。しかし、オンライン申請に移行すると登記済証(権利証)は、書面のままでは、オンラインにより、登記所への提供や登記所からの通知ができないため、オンライン申請で利用可能な本人確認手段である登記識別情報制度が導入された。登記済証の登記が完了したことを証明する機能を代替するものとしては登記完了証が交付される。

なおオンライン庁として指定されるまでの間における登記申請には、希望すれば登記識別情報に代えて従来のとおり登記済証が交付され、登記完了証は交付されない。登記識別情報とは、前回の登記申請が完了した時に登記名義人となった者に対し、登記名義人であることを識別するための情報としてその登記に係る物件及び登記の内容とともに、登記所から通知される情報をいう。登記識別情報は、12桁のアラビア数字その他の符号の組合せからなる一種のパスワードのようなもので不動産及び登記名義人と連動して申請人ごとに固有に定められ管理される。登記識別情報は、次回登記から登記名義人本人による申請であることを登記官が確認するために提供しなければならない。

登記識別情報の管理を登記名義人が希望しないときはあらかじめ通知を希望しない旨の申し出をして通知されないようにすることができる(不通知制度)。またが不正な登記申請に用いられることがないようにするため、登記名義人又はその相続人その他の一般承継人は、登記官に対し登記識別情報についての失効の申出をすることもできる(失効制度)。登記申請に際してその登記識別情報が現在有効かを確認する有効性確認制度もある。

4、保証書制度廃止と事前通知制度、本人確認情報提供制度

従来は権利証がないときは保証書で登記申請を受理していたが、不正な登記を生む原因となっていたので保証書制度を廃止した。登記識別情報がないときとしては

  • 登記義務者が不通知、失効申し出をしている場合
  • 失念や粉失、盗難

等がある。この場合、法務局は、本人確認手段を欠くことになるので次の手段により本人確認手続を行う

  • 登記官による事前通知
  • 資格者代理人による本人確認情報提供制度
  • 公証人による本人確認認証制度

登記官による事前通知は、個人の場合は、本人限定受取郵便、法人の場合は原則として書留で本人確認を行う。また住所移転を利用した成りすましによる登記申請に対処するため、所有権に関する登記の申請がされた場合において、登記申請前に登記義務者の登記簿上の住所が変更されているときは、変更前の住所にも原則として登記申請があったことを通知する。

資格者代理人(弁護士、司法書士、土地家屋調査士)が適切な本人確認情報を提供し、登記官が提供された情報の内容を適正なものと認めたときは、事前通知の手続を省略することができる。

【不動産取引実務のポイント】

不動産取引の実務としては、登記識別情報は、英数字の組み合わせ情報であるため盗み見やコピーによる情報流出の可能性があるので登記義務者は不通知、失効申し出を選択することも考えられる。登記識別情報がない場合に登記官による事前通知を選択すると不動産売買契約後、取引のクロージングとなる決済が不安定なものになる。例示で考えてみよう。

▼売主の抵当権抹消、買主への所有権移転登記、代金決済と銀行融資の抵当権設定

売主A、買主B、AB間で不動産売買契約を締結。A所有不動産に抹消予定のC銀行抵当権があり、買主への融資銀行をDとする。登記識別情報がないケースではAの本人確認を行う事前通知の結果が判明するまでDは融資をその間保留するのが一般的だ。その結果、B→Aへの代金支払いができないのでCの抵当権抹消もできなく所有権移転登記申請が先行せざるを得ない。実務の流れは

  1. A→Bへの所有権移転登記を申請(Aが決済時までにCの抵当権を抹消できないときは抵当権が付着したままとなる)
  2. 登記識別情報がないので法務局が、本人限定受取郵便(個人の場合)を郵送し、本人確認を行うための事前通知がされる。登記申請前に登記義務者の登記簿上の住所が変更されているときは、変更前の住所にも原則として登記申請があったことを通知
  3. 登記申請の日から2週間以内に、登記義務者から申請内容が真実である旨を申し出る
  4. 3の申し出確認後、B→A代金決済、C抵当権抹消、D抵当権設定登記申請

となるが、C抵当権の抹消は、登記申請の流れから設定者AでなくBが登記権利者となる。いずれにせよ時間と手間がかかり、登記申請も抵当権が付着したままの所有権移転などイレギュラーとなる。これを登記手続代理することが一般的な司法書士が資格者代理人として本人確認情報提供するやり方だと事前通知が省略されてC抵当権抹消、A→Bへの所有権移転登記、Dの抵当権設定が同時に連件ででき、代金決済も同時に完了する。このため登記識別情報がない場合は、当該手法が主流になると思われる。

5、登記原因証明情報の必要的提出制度

改正登記法では、虚偽内容の登記を防止するため権利証の制度が廃止されたため、権利証を作成する元となっていた登記原因証書や申請書副本を廃止した。これに代わるものとして登記原因証明情報の必要的提出制度が採用された。登記原因証明情報とは、登記の原因となった事実又は行為及びこれに基づき現に権利変動が生じたことを証する情報を指し、原則として登記権利者と登記義務者が連名で作成するものである。共同申請の場合には、(電子)契約書等のほか、登記原因について当該登記によって不利益を受ける者(登記義務者)が確認し、署名若しくは押印した書面又は電子署名を行った情報が含まれる。

売買による所有権の移転の登記の場合に当該証明情報となるには、

  • 売主、買主の表示
  • 不動産の表示
  • 売買契約の成立年月日
  • 代金支払いの定め
  • 所有権の移転時期の特約があるときはその条件成就の事実を証する情報
  • 契約当事者の署名・押印

等の情報が提供されなければならない。

【不動産取引実務のポイント】

宅建業者が不動産取引を媒介するとき重説、契約書の作成、決済という一連のプロセスを宅建業法等の定めに従い善管注意義務をもって行うわけで当該物件の所有権移転時も登記原因証明情報の必要的提供情報の各内容の確認は当然として本人確認、権利関係の確認、代理権等の存否などについて十分な検証、吟味が行われているはずである。

近年の判例の傾向として宅建業者による取引不動産の権利者の真偽や代理人と称する者の代理権の存否確認義務は厳格に解されており、権利証、印鑑証明書、委任状のチェックにとどまらず、疑問の余地がないとといえる特段の事情がない限り本人に直接確認するまでを求めている。

所有権移転登記時にさらに司法書士が介在することで本人確認からはじまり登記原因となる事実、法律行為の確認事項が登記原因証明情報の聞き取り確認として重ねて行われる。特に登記識別情報がないときは本人確認が厳密に行われるので紛争等の発生が減少する効果が期待される。

また不動産取引の実務の注意点として従来までの申請書副本が廃止され登記原因証明情報の必要的提供制度が採用されたことで不動産業界で利用されてきた中間省略登記が事実上、困難となったことが挙げられる。

改正不動産登記法と中間省略登記の問題等については「第三者のためにする契約方式」の導入で事実上容認となった最近の動向を筆者のコラムで紹介。

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