2010年、賢いコンピュータへの誘い
コンピュータが人間の知能の役割を果たす。この試みは1980年代後半から1990年代にかけて研究されたAI(人工知能)が代表的である。チェスの世界チャンピオンにIBMの並列コンピューターが勝ったなどのニュースは人工知能(AI)の研究の成果の身近な例として知られている。国内でも世界一の生産を誇る産業用ロボットから産学官の連携で、家事代行、医療福祉、防災・人命救助などの非製造業向けロボット開発へ急進展しているが、非製造業用ロボットの開発にはAI(人工知能ソフト)が欠かせないと言われている。2010年にはAI(人工知能)を超越し、より人間の頭脳に近似した賢いコンピュータへ進化すると予測されている。
「日経コンピュータ」は、2010年に情報システムは、3つの段階でコンピュータは進化すると予言している。
- セマンティックWebによりインターネット上の膨大なデータ全体を一つの「知識」として扱えるようになる。この段階では検索エンジンが少し賢くなるに過ぎない
- コンピュータが人間の意図をくんで、的確な情報を提供してくれる
- 人間同士が暗黙のうちに共有する言葉にしにくい知識、即ち暗黙知をコンピュータである程度扱えるようになる
1、2の詳細は同誌を読んでいただくとして、3の人間の暗黙知の領域まで踏み込んだコンピュータとはどのようなことが可能となるのであろうか…
例えば企業の業務システムなど開発するとき、そのシステムを必要とし、関わる人や組織が多くなるほど、立場によって業務の捉え方が違うし、業務改革の具体像が見えにくく、結果として、企業が本当に必要とするものとは違うシステムを構築してしまうケースが多い。不動産会社の物件管理と顧客管理を連動したシステムを構築するケースを考えてみると、営業マン、管理部員、企画開発部員ではシステムに対して期待する思い入れは微妙に違うため、システム開発者は、統合された組織の総意という暗黙知をどう捉えるか、悩みが尽きなくなる。
システム開発には要件定義が必要だが、ここでSSM(ソフト・システムズ方法論)を要件定義の前に使うとアコモデーションを関係者間で形成し、有用なシステム構築が可能となる。アコモデーションとは「言葉では言い表せないがなんとなくお互いを理解した状態」と説明されている。いわゆる暗黙知がメンバー間で共有された状態である。SSMを行う作業は7つのステージからなり、最終ステージでアクションプランを作成する。アクションプラントは定義した概念をより良い状態にするためには何が必要かを洗い出すことである。
「日経コンピュータ」によると日立製作所は02年から社内の有志でSSMの勉強会を始めており、将来的には顧客との間でSSMを適用し、アコモデーションを形成することを狙っているなどの動きが出ている。
今後、さまざまな分野で人間同士が共有する思いという暗黙知を形式知に変換するSSMの手法が導入されていくと、アコモデーションの形成でより一体感が深まり、個々の価値観や考えを組織の中で共存させることにより、より緊密な業務変革が可能となり、システム構築と企業ユースの振幅が解消されていくことになる。
企業経営と言う視点に敷衍して考えると、近年の行き過ぎた成果主義はともすれば企業を特定の個人の能力に依存する体質に陥いらせがちであったが、SSMの導入で個人の力を統合し、無形の能力をシステマテイックに組織という目標に落とし込むことにより、さらに高次元の経営管理を実現可能にするとも言える。
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