都市部地図混乱地域の地図整備

小泉内閣のとき、東京都港区の「六本木ヒルズ」建設で、地権者約400人の土地買収に当たり境界が不明な筆が多く、境界や面積の確定に時間を費やした。買収を終えるまで約4年半かかったのは有名な話だ。億単位を要した費用は、事業コストとして想定を超えるものだったらしい。このことは、都市部の法務局の地図は、大部分が精度が低い公図と呼ばれる旧台帳附属地図であり、なかには現地と公図が合わない地図混乱地域も介在するという現状の問題点をあらためて浮き彫りにした。

国土調査による地籍図の作成が、国家レベルで進んでおり、地籍図は国家基準点を基礎として作成され、現地復元力もあり、精度も高いのだが、これまでは農村部を中心に進んできたため、都市部における国土調査の進捗率は2割にも達していない。都市部で放置された地図未整備は、さまざまな土地活用を阻害していた。

筆者も都市部の地図混乱地域で物件調査に苦労した経験がある。都市部の地図整備の遅れは、負の遺産として市街地再開発や土地の流動化のネックになっていた。内閣に設置された都市再生本部は、「民活と各省連携による地図整備の推進」の方針を平成15年6月に決定した。この方針は「平成地籍整備」と呼ばれ、全国の都市部の地図混乱地域を最優先に法14条地図の作成を推進するもので、5年で都市部の約5割、10年で地図整備を完成させる予定となっている。

法務局の公図と呼ばれる土地台帳附属地図は、概して精度が低く、筆者のような不動産に関係する業者は、高地価の都市部ほどより綿密な調査が求められるのに、高精度の地図が未整備なため、物件調査に要する時間やコストが多大となっていた(公図の精度が低いため、当該地だけでなく、場合によっては、隣接地から周辺地に至る地積測量図や建物図面、閉鎖地図、閉鎖登記簿、現登記内容の要約書まで必要になっていた)。業者でない一般人の不動産取引においても境界・面積確定の時間や費用がかかり、円滑な土地取引の阻害要因であった。都市再開発や土地区画整理事業など面的な事業を進める上でも境界確認の調査・調整のため多額の費用がかかつていたし、都市の大規模災害の復旧にも境界の正確な記録がないと復旧が遅れる懸念もあった。

小泉検地とも呼ばれる平成地籍整備の作業工程は、

  1. 基礎的調査
  2. 地籍調査素図の整備
  3. 登記所の正式の地図化

からなる。

「基礎的調査」は、国土交通省による直轄事業。地図整備の基礎となる測量基準点を整備し、街区の角の座標を調査・測量して当該座標を数値データベース化して現地測量結果の図面に表記する。当該図面と数値化された公図を重ね合わせて地籍調査素図作成の基礎的データ整備とする。「地籍調査素図の整備」は、実測結果の街区点の位置を基準に、既存の公図や地積測量図を重ね合わせて調整した図面である。地方公共団体による事業となっている。具体的には、全国都市部約12,000km2のうち、国土調査による地籍調査を完了した地域と法14条地図が備付済みの地域を除く約1万km2(全国786市町村)について平成16年から3年で公図と現況の関係の基礎調査を完了予定。そして基礎調査の結果、

  1. 公図と現況が概ね、一定程度一致する地域は、地籍調査素図の整備→登記所の正式地図化が行われる
  2. 公図と現況が大きく異なる地域は、①国土調査に基づく地籍調査、または②法務局による14条地図作成作業のいずれかが行われ、登記所の正式地図化となる

の工程が進められ、登記所の正式の地図化が実現すると、地図が電子化され、関係省庁で共有化されることになる。平成17年4月6日の不動産登記法の一部改正で法務局主導の「筆界特定制度」が導入され、境界紛争に長期間要していた裁判による解決が、短期間で迅速に解決される見通しも立ち、わが国の土地境界を巡る環境整備が一気に進んでいる。

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