オフィス需要に影響を与える在宅勤務制度

少子高齢化、人口減少時代の労働力確保の切り札として期待されている在宅勤務がここにきて急速に増えている。まず政府の後押しも熱を帯びてきた。昨年9月の安部首相は、所信表明演説で「テレワーク人口を倍増する」方針を表明していたが、さらに日経紙によると今年5月28日の政府の行動計画で10年までを「集中推進期間」に設定。テレワーク人口を「05年に比べ2倍に増やし、就業人口に占める比率を2割に引き上げる」ことを明記した。行動計画によると現在、在宅勤務で雇用保険が適用されるのは、新商品開発や編集など特定業務に限定されるが適用業種を広げる。また労働基準法は、民間の場合、自宅で勤務した場合に所定時間を働いたとみなす「みなし労働時間制」を認めているが、これを公務員にも認める制度にする予定だ。テレワークを支える通信システム基盤整備も政府が独自にテレワークを試行・体験するシステムを構築し、今秋には100社規模が参加するモデル事業を開始し、中小企業のIT化をサポートしていく。

政府だけでなく地域活性化の一環として自冶体やNPO法人も協力して取り組み始めた。行政コスト削減と、雇用拡大により地域活性化を図ることが狙いで、高知県は06年に県庁などからテレワーカーに60業務を発注している。福岡県も今年中にテレワーカー推進を柱とするIT戦略を策定しており、同様の試みが全国各地に広がっている。

テレワーク制度導入に積極的なのは、今のところIT企業が多い。IBM、NEC、日本HPなどIT大手5社は、本格的な在宅勤務制度をすでに導入している。大手5社の半分に当たる約3万人が在宅勤務を利用できるようになる見通しだが、この動きは他業界にも広がっている。例えば、松下電器産業は、国内最大規模の約3万人を対象に在宅勤務制度を本格導入した。またテレワークを自宅だけでなく、自宅近くのサテライトオフィスでも可能にしているソフトバンクテレコムのようなケースもある。大手企業の社員だけでなく、在宅主婦をテレワーク要員として組織化する企業も登場してきている。ワイズスタッフは、米国など海外も含む約120人の在宅スタッフを抱え、スタッフはネットで連絡を取り、グループ単位で業務を行っている。

在宅勤務導入を成功させるポイントになるのが、在宅勤務時間、執務環境、通信システムのセキュリティである。特に企業が神経を使うのがセキュリティ対策。会社が貸与したPCに限定使用とか、パスワードを幾重にもかけるといったレベルから社員の配偶者、同居人が同業他社に勤務していないかをチェックしたり、家全体の見取り図を提出させ、執務する室を特定して、家族などが立ち入らず、1人で業務を遂行できるかなどまでチェックするケースもある。

通信インフラ構築のアウトソーシング企業も最近、増えてきたフリーアドレス制の導入や在宅制度のためのネットワーク整備を手掛けており、時代変化の対応へ抜かりがない。例えば、電子部品商社の日本ライトンは、自宅のPCで仕事をしてもデータが残らないように制御してファイル交換ソフト「Winny」による情報の外部流出対策をしたり、社員のPCの使用履歴をシステム管理者が把握できたり、起動時に指紋認証にするなど低料金で導入できる在宅特化のシステムを開発している。このように通信インフラ構築とセキュリティ対策は、急速に進んでおり、企業が在宅制度を気軽に導入できる環境が整備されてきている。

ITの進化と、国内の人口減少に伴う労働力不足など社会構造要因は、勤務形態を急速に変容しているが、フリーアドレス制や在宅制度の導入が進むと、オフィス内の席数の減少とオフィススペースの必要面積は当然に連動するわけで、今後のオフィス需要の制約要因になってくるのではないだろうか。

企業の固定費のなかで、人件費に次いで大きな割合を占めるのが、オフィスや工場などの業務用固定資産・不動産などにかかるファシリティコストといわれている。特に賃料の高い拠点での事務所賃借料は、企業の合理的なコスト意識であるCRE戦略の普及で、今後、洗い直しの気運が高まっていくと思われ、不必要なオフィススペースの削減が進んでいくと予測される。

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