家賃を自動的に増額する特約は有効か

例えば、「毎年10月にその年に発表された前面道路路線価の増減によって家賃を改定する。」とか、「2年おきに5%ずつ値上げする。」とか家賃改定の特約を契約で付けたらこの特約は果たして有効か?

このような将来家賃を自動的に改定する特約は、結論から言えば、借地借家法32条(賃料増減請求権)に反する特約は一切無効とする見方もあるが、制限つきで有効と解されている。つまり借家人にとって著しく不公平で不利益をもたらしたり、その特約自体が不合理であったりしない以上は一応有効と考えられている。

ちなみに借地借家法32条は賃料の増減請求ができるケースとして

  • 土地・建物に対する租税その他の負担の増減
  • 土地・建物の価格の上昇・低下その他経済事情の変動
  • 近傍同種の建物の家賃との比較

を列挙している。これらの事情変更により改定前の現行賃料が不相当になったことや、直近の改定時より相当と思われる期間が経過していることが賃料増減が可能な要件として付け加えられる。

賃料の自動改定特約で決定される賃料が、32条の要件を充たす範囲内の相当賃料を乖離して借主に一方的な不利益をもたらさない場合、さらには賃料上昇が急激な事情下では自動改定の条件次第でむしろ賃料上昇が抑制的に作用する場合もあるため、このような特約を有効とすることに合理的な理由があると考えられている。

一方、サブリース契約で賃料を定期的に増額する特約や減額はしないとの家賃保証がなされてきたが、平成15年10月、最高裁判例でそのような合意は、経済事情の変動により減額請求が許されると判示されたことは記憶に新しい。

また借主の注文どおりの建築をして賃貸するオーダーリース契約では、建物の用途・使用形態が限定されるため汎用性がないので、営業者等により賃料に自動改定特約をつけるなどの工夫がなされてきた。このようなオーダーリース契約についても平成17年3月の最高裁判決で「汎用性を欠く事情はあるものの通常の賃貸借契約に該当し、法32条1項の規定は強行規定であり改定特約で適用を排除できない。」とサブリースと同趣旨の判決がなされた。

定期借家契約では賃料改定特約を結ぶと法32条の適用はない。従って「2年おきに5%ずつ値上げする。」というような特約は、近傍の賃料や土地・建物価格が下落していても特約に基づき増額可能となるので、証券化がなされた投資用不動産などで盛んに活用され始めている。しかし法32条の拘束から完全に離脱したともいえないようだ。

賃借人が何らかの理由でこの値上げに応じず、従来の賃料額をそのまま供託することもあり得、また今回のバブル崩壊のように経済事情が著しく変動した場合、事情変更の原則に基づき賃料改定特約そのものの効力が問題となる場合も考えられる。(「借家の法律相談」澤野順彦 有斐閣)

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