商業地の価格 / 看板の効用

目的の店を探すときにわかりやすい店、ぶらぶら歩きのショッピングで入ってみたくなる店、車でロードサイドを運転中に意識するともなく自然に知覚される店、こういうときに人間の意識作用に絶大な効果を発揮しているのが看板である。看板の視界性が悪いといくら立地が良くても繁盛点になりにくいというマーケッティングの鉄則が存在する。

看板には「7秒法則」がある。「看板偏差値 7秒集客のルール」の著者である小山雅昭氏によると、歩行者が看板に興味を持って店に入る決断をするのに約7秒かかる。7秒を歩行速度から距離に直すと10m、店の10m手前で看板が視認できなければ店に入ってもらい難い。車を運転しているときは看板を見てから停車するまでには「知覚→判断→ブレーキ→効き時間の総和が必要。一般に5~7秒かかる」時速40kmで走行中なら7秒で約80m、その手前から誘導を始める必要があるので100m手前で運転者に看板が自然な形で見えなければならない。

店の売り上げを伸ばすには、客に来店してもらわなければならないのは、当たり前であるが、それには店が直前で見えては遅すぎる。7秒法則でいうと歩行者10m、運転者100mで店を見せなければならない。さらに人間にはいつも見慣れているところほど抵抗が少なく買い物をしやすいという習性があるらしい。常日頃から看板で人間の意識下に自店の存在を植えつけておくと買い物の抵抗感を解きほぐしてくれる訳だ。

看板の効用が認識されるにつれ潜在顧客に看板を見せるための数々の研究が生まれた。そのなかで「視界退行」と「視界融合」を紹介する。

視界退行は、自店の看板の周りに目立ったり、派手な看板があるとそちらに注目してしまい自店の看板が気づかれないという現象である。この辺に目的の店があるはずと思っていてもつい気づかずに通りすぎてしまうということがよくあるが、こういうときは視界退行か次に紹介する視界融合のケースが多い。

視界融合は、ロードサイドや繁華街で似たような色彩や形の看板が通りの両側にひしめき合っていると人間は、それらを個別に分けないで全体で認識してしまい自店の看板が判然と識別できてないという状況をいう。周りの看板だけでなく、空や建物、町並みというべき背景と色や形が混然となって自店の看板が気づかれ難いという状況も含まれる。

元日本マクドナルド調査部チーフで「これが繁盛立地だ!」の著者である林原安徳氏は同著書で繁盛店の看板の条件として「何の店か瞬時に解ることが大切で看板と店舗はイメージが連続していないといけない。」と書いている。その立地と周りの背景などから看板の形や色彩、文字数、デザインが決定されてなければ看板効果が発揮できないことになる。

商業地としての価値は、看板の絶大な効用から看板を見てもらう可能性や頻度が高い場所ほど高いという結論が導かれる。つまり歩行者や車が多く発生する場所や施設、並びにそこから人や車が多く流れる動線上に店舗があることがポイントになる。そしてその流れの大半が単なる通学や仕事目的だけでなく、買い物や飲食もするような動機を持った人の動線上に店舗が存在すれば自店の看板を見てもらい顧客になる確率は飛躍的に高まる。

そのような場所や施設がTG(トラフィック・ジェネレーター)と呼ばれる強力な顧客誘引施設、場所で具体的には駅や大型商業施設、インターチェンジなどになる。店舗はTGの周辺、TGとTGを結ぶ動線上にあれば看板や店舗を見てもらえる確率が高く、さらに7秒法則に適っていれば売り上げを増やし、収益性が高まるので家賃や地価も高くなるという理屈になる。

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