平成15年地価公示価格の傾向

国土交通省は3月24日平成15年地価公示価格を発表した。

1、全体的傾向

平成14年度の地価動向は、住宅地・商業地とも12年連続の下落となったが、住宅地は下落幅が拡大し、商業地は下落幅が縮小した。三大都市圏においては、住宅地の下落幅は横ばい、商業地は東京圏、大阪圏、名古屋圏ともに下落幅が縮小した。一部中心部では上昇した地点も見られる。特に東京は都心商業地を中心に価格が横ばいや上昇に転じた地点が増えた。丸の内や汐留・六本木等のエリアで優良プロジェクトに集中的な民間投資が行なわれ土地の利便性や収益性が向上し、さらに開発の周辺への波及効果も表れた。また住宅地においても下落幅が横ばいになるなど、地価下げ止まりの兆しも見える。全体的傾向としては、利便性・収益性の差や個別の地点のおかれた状況を反映した地価の個別化がより進行している。

2、三大都市圏

東京、大阪の中心部で住宅地の下落幅がさらに縮小した背景には、需要側の値頃感や再開発等による利便性の向上から、マンション等の住宅需要の都心回帰の動きが続いたことが挙げられる。しかし郊外部の通勤遠隔地等では、最寄り駅からの交通利便性が劣る地点を中心として依然として大きな下落が見られる。商業地については平成14年の上半期を中心に経済動向に一部持直しの動きが見られたことが三大都市圏で下落幅が縮小した背景にあるが、東京・大阪・名古屋における都心の高度商業地等において都市再生の取組等により再開発や海外ブランド店舗等の立地により集客力が高まった地区は上昇、横ばい、あるいは僅かな下落にとどまる傾向を示す地点が多かった。

3、地方圏

産業空洞化、地方公共工事の削減、支店、営業所の統廃合など全用途にマイナスに作用する要因は、地方の地価を下落させており、全体としては住宅地、商業地ともに下落幅が拡大した。人口10万人以上の地方都市では、商業地で1割以上の下落となったところが引き続き多く見られた。ブロック中心都市の商業地では、高度商業地や駅周辺において展開される再開発の効果で、横ばいに転じた地点、引き続きわずかな下落となった地点が見られる。また、住宅地についても、都心回帰現象と同様に、利便性の高い都心部で、需要側の値頃感等からマンション等の住宅需要がある地区では、上昇又は横ばいの地点が見られる反面、遠隔地で利便性に劣るところは下落が大きい。

人口10万人以上の地方都市の中心商業地では、地域経済が低迷する中で、郊外型量販店の進出等もあり、従来集客力の中核を担っていた大規模商業施設の撤退や商店街を構成する中小小売店舗の閉鎖の影響で、大きく下落している地点が多い。

4、九州

九州・沖縄八県の商業地は全県で前年を下回り、福岡、大分、沖縄で下落幅がさらに拡大した。福岡・天神など一部の中心繁華街で下げ止まり傾向があるものの、核店舗の収益力低下を背景に各地で値下がりに歯止めがかからない。住宅地も消費者の住宅買い控えや大規模住宅団地の供給過剰感で、全県でマイナスとなった。

(1)住宅地

九州・沖縄の住宅地の平均価格は前年比3.3%減の71,500円、福岡県内で地価が上昇したのは、マンション建設ラッシュが続く福岡市中央区今泉二丁目(上昇率2.8%)だけで、九州全体でも下落傾向はさらに強まった。下落が目立つのは都心からやや離れた既成住宅街。都心部でも比較的安い住宅の建設が進んでいるためだ。熊本市では従来価格が高かった新屋敷、水前寺といった地域で下落幅が拡大。福岡市でも城南区や南区などが大きな下落となった。

景気低迷の影響も大きい。ソニーなど情報技術(IT)関連企業の工場が集まる鹿児島県「国分市」の下落率は4.8%で県内最大の下げ幅。バブル期に農地を従業員向けの住宅地に変えたが、リストラで宅地需要が減退したことなどが響いた。

(2)商業地

九州・沖縄全体8県の商業地の平均価格は199,200円で前年比6.6%減。福岡市天神は集客力が安定。地下鉄の延伸工事や百貨店、岩田屋の移転など再開発への期待感から下げ止まりの気配が見られる。1平方メートル当たり4,050,000円と最高価格だった天神コアビル(中央区天神1丁目)は変動率ゼロ。二位のDADAビル(同2丁目)の下落率も0.4%と小幅にとどまった。

熊本市で若者が集まる上通など中心街で「アーケードの改修などで商業価値が上昇」し、マイナス幅が縮小。鹿児島県でも九州新幹線の開業を控え、複合商業施設の建設が進む鹿児島中央駅(現在は西鹿児島駅)周辺で下落幅が縮小した。しかし、このほかは郊外型店舗の増加に核店舗の撤退、閉鎖が重なり、中心市街地は地価下落に拍車がかかつている。福岡県久留米市では久留米駅東口で商業施設の運営会社が経営破たんしたことが響き、10.5%下落。県庁所在地でも大分市や佐賀市などが大幅に落ち込んだ。県別に見ると、長崎、沖縄両県はともに下落率9.5%と九州・沖縄で最も落ち込んだ。長崎では佐世保市や諫早市なども商店街の集客力低下などで大幅な下落となった。沖縄では、宜野湾市など中部地域で2ケタの下落が目立った。

5、福岡県

公示の対象は、全24市と42町の1,109地点。唯一上昇したのは、福岡市中央区今泉2丁目の住宅地で、プラス2.8%の上昇率は全国3位。県平均下落率は住宅地が4.2%(前年下落率3.2%)、商業地は7.2%(同6.7%)で、ともに11年連続で下落、すべての用途で下落幅が拡大した。また住宅地は71年の公示開始以来、初めて県内すべての市町の平均が下落し、住宅地、商業地の平均価格が11年連続でマイナスとなった。住宅地は71年の地価公示開始以来初めて、66すべての市町で下落した。福岡市・天神の商業集積地や中央区大濠公園、早良区西新周辺の高級住宅街では、下げ止まりの傾向が見られ「福岡市一極集中」の進行を証明した。用途別平均価格は次の通り(単位は1平方メートル当たり)。

住宅地8万4,800円、宅地見込地2万7,900円、商業地28万1,400円、準工業地11万3,600円、工業地4万8,500円、市街化調整区域内宅地3万8,900円、全用途12万7,900円

(1)住宅地

住宅地は中央区を除く福岡市全域、北九州市全域で下落幅が拡大した。下落率の上位10地点すべてが10%以上の2ケタ。最も大きい大野城市平野台が11.9%、次いで前原市潤の11.1%、久留米市櫛原町の11%となっている。大野城市平野台、前原市潤は早い時期に造成されたベッドタウンの住宅団地で、平野台は、1画地当たりの面積が大きく、敷地総額が大きくなるので人気がなく、周辺の新しい造成地に比べて市場性が劣る。平野台のような特性をもつ住宅団地は県内でも下落幅が大きいのが特徴である。

地区別では、福岡市は前年より1.2ポイント下げ幅が広がって6.1%で、中央区を除く6区で下落幅は拡大、北九州市も2.2%(前年下落率1.4%)と全区で下落幅が広がった。福岡市中央区今泉2丁目はすべての用途の中で唯一上昇しており、上昇率2.8%は全国3位、住宅と商業施設が混在する商住混在地域である。若者の高い人気スポットとなった大名に近く、近年、分譲マンションが並び民間主導で街路などがで整備され街区の付加価値を高めたことが上昇の要因といえる。

価格の上位10地点は福岡市内で昨年とほぼ同じポイントが並んだ。今泉2丁目が上昇したほか、九州・沖縄の住宅地で最高地点の「同区大濠一丁目」(一平方メートル当たり39万3,000円)は、11年ぶりに前年比横ばいになった。社宅跡地などでマンション建築が相次ぐ「早良区西新二丁目」「同七丁目」も、前年並みと下げ止まった。

住宅地は依然として買い手市場の様相で、下がり続ける地価と低金利政策が続いているため先安感が強く、買い控えが続いている。しかし注目すべき兆しもある。「住宅価格は、まだ先安感があるものの、最高価格地が下げ止まった意味は大きい、今後も下げ止まりの範囲が広がるか、注目している」(中村秀紀代表幹事談)

(2)商業地

県内全体で下落幅が拡大し、甘木市・八女市の11.5%を含め7市町村で10%以上の下落となった。下落率が高い上位10位には福岡市は消え、地方の下落幅拡大が進んだ。北九州市、久留米、大牟田、直方などの商店街が目立つ。特に、5地点は久留米市六ツ門町の16.5%(前年下落率14.9%)、大牟田市新栄町15.7%(同16.5%)など筑後・県南地域である。六ツ門町の16.5%の下落(前年下落率14.9%)は、大型商業施設の郊外進出や買い物客の天神一極集中による購買力の流出、商圏の崩壊が地価に大きく影響し、下落を招いてる。

一方、価格上位10地点のうち、天神1丁目が11年ぶりに横ばいに転じるなど、天神の一等地では下げ止まり傾向が出始めた。九州・沖縄で最高額の「天神コアビル」(福岡市中央区天神一)が、一平方メートル当たり405万円と、前年比横ばいになった。建設が進む岩田屋新館そばの「DADAビル」(天神二)は、下落率が前年の0.8%から0.4%に縮小した。首都圏の一等地などを除き、全国的に地価下落が続く中で、九州・沖縄の最繁華街・天神も地価下げ止まりが一段と鮮明になった。

県は、福岡・天神への一極集中の進展や地方都市での郊外型商業施設の進出で中心商店街が空洞化しているなどの背景があるとみている。「百貨店が全国的に厳しいなか、天神地区は売り上げが安定している。ただ、先行きは読めない」(中村秀紀代表幹事談)。アパレル関連店舗が入っている複合ビルは好調だが、東京1極集中で空室率が上昇しているオフィスビルは下落の傾向にある。

その一方で、北九州市の中心街は、地盤沈下に歯止めがかからない。「小倉そごう」跡に「伊勢丹」の出店が決まったものの、店舗が閉鎖したままのJR小倉駅周辺はおおむね二けたの下落。 また、「黒崎そごう」跡に「井筒屋黒崎店」が移転増床、別の新商業ビルもオープンしたJR黒崎駅の周辺商店街なども二けた減。「客が駅付近に集中し、人の回遊が生じるに至ってない」(中村秀紀代表幹事談)ためだ。大学などの立地が進む北九州学術研究都市の周辺地価にも大きな変化は見られない。

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