積水ハウス5本の樹キャンペーン
かつて都市や集落の近くには、蝶やトンボやメダカなどが人間世界と折り合い隣接して共生できる「里山」と呼ばれる空間があった。しかし、高度成長、人口が増加する時代を迎え、経済優先の人間たちが、里山を宅地造成し、瞬く間に雑木林は、剥ぎ取られ、自然の生態系を無残に破壊した。そして宅地造成された団地にのなかには、積水ハウスの家も建っていたかもしれない。
いま、里山の保護が叫ばれ、次世代に雑木林の緑や昆虫などの生態系を伝えていく大事さが認識され始めているが、積水ハウスは、家づくりに共感できるテーマを掲げている。それが「五本の樹計画」だ。「3本は鳥のために、2本は蝶のために」をスローガンとして、日本を気候により5地域に分け、地域に合わせた日本の在来樹種を庭に植えるというキャンペーンである。日本の原種や在来種を植えることで、庭に生態系が再現されることになるらしい。
筆者も仕事柄、住宅が建ち並ぶ造成団地を見る機会が多いが、街並みや家並みに樹木などが計画的に配置され、緑で彩どられると高い付加価値となって、人気が高くなる。例えば、福岡市に積水ハウスが1989年に販売した「シーサイドももち」という住宅団地がある。日経産業紙の記事を引用すると、「シーサイドももちは、アジア太平洋博覧会の跡地にある住宅地だ。2000年頃、この古い宅地が突然脚光を浴びる。バブル崩壊後も資産価値の値下がり率が周辺よりも小幅だったからだ。分析の結果、周辺より緑が豊かなことがわかってきた。」
シーサイドももちなどの成功体験が、デベロッパーやハウジングメーカーのインセンティブになったのだろうか、近年、造成され販売される住宅団地は、団地全体が家並み・街並みの視点からレイアウトされた「統一外溝」で、家と庭や門扉などの調和に配慮したものが多い。
庭に樹木を植えるのは、それ自体は新しくも珍しいことでもない。積水ハウスの「五本の樹計画」の着眼点の優れたところは、地域に生育が適した日本の原種、在来種を選択しており、手入れが容易で、病気で枯損が発生しにくいという点だ。さらに、生き物が好む樹木を選んでいるので、鳥や蝶が集まりやすく、害虫が自然駆除され、植樹の生命力が活性化し、そして生態系が保全されるという循環が生まれる。付加価値の向上という経済的メリツトと自然保護や生態系の維持を同時に実現している訳だ。
積水ハウスのWebSiteによると、この取組みは2001年より、展示場などの積水ハウス所有地から開始し、現在では団地や分譲地など街づくりにも5本の樹計画を導入している。このほか同社は、伝統的な日本家屋のもつ自然に対する調整力のような奥深いパワーの研究も進めている。例えば水、光、風を家に上手く取り入れることにより、空調のコストを軽減したり、家に差し込む日差しや日当たりを調整し、暮らしの快適性を増したり、付加価値を高めるなどの研究である。
欧米の家に比べ日本の家は、永らく無個性で短命なスクラップ&ビルドといわれ続けた。やっと日本の気候や伝統、風土に根ざした「サスティナブルな家」の発想がメーカーに根付いてきたことは歓迎すべきであろう。
■関連記事
行列ができる分譲住宅団地