老後の移住
老後に移住したい都道府県はどこか。オリコンが2006年に20~40代の男女900人にたずねたところ、1位は男女とも沖縄県。自然と陽光溢れる田舎暮らし志向が浮かび上がったが、一方で対極にある東京や「都市文化圏」の神奈川も上位に入った。(日経07.2.13)
このアンケートでは特に女性の都会志向の強さが目立ったそうだ。子供も独立し、仕事もリタイヤした後の人生の過ごし方は人それぞれの価値観で多様なはずだ。ただ大きく分けると自然志向の田舎暮らし派と都会が生産する文化や情報、利便性を享受したい都会生活派に分かれるようだ。
自然志向派のなかでも沖縄のような温暖な南国が好まれるのは、積雪地帯の冬が憂鬱で年寄りには寒さがこたえるといった健康上の切実な理由があるのかもしれない。移住の条件として、ほかには生活費が安い、親類や友人が近くにいる、自冶体のサポートが充実などが並ぶのだろう。温暖な気候と空と海の青さが魅力的な沖縄は、いまちょっとした移住ブームが起きている。那覇の国際通りから北に約2キロの「那覇新都心」、米軍住宅跡地のこの地で3月時点の人口が14,500人に増加した。県外からの移住者が買っていることで注目を集めているのだ。
都会派の心のうちもわかるような気がする。なんといっても医療施設の充実である。名医や有名総合病院は都会に集中している。健康が衰え、病気の不安が増してくる年代としては、信頼できる医療施設が近くにあることも無理からぬ理由であろう。仕事を現役で続けるシニアにとっても再就職や知識・情報蓄積の場として都会居住を選択することになる。
筆者は、ITの発達で、都会に住まない情報ハンディは少なくなっている、例えば、どこに住もうがブロードバンド回線があればユビキタスで世界中の情報にアクセスできるし、読みたい書籍もAMAZONや紀伊国屋からネット通販で買える。それなら空気が良くて、海や山が近く、自然に恵まれた田舎暮らしがいいかなと思ってきた。長年の筆者の夢は、海が見える小高い丘に平家の家を建て、可憐な野の花に囲まれてボーツと海を眺めながら緩やかに流れる時間を堪能することであった。
最近になって考えが変わってきた。都心の真っ只中のマンションで暮らすのもいいなあと思い出した。散歩も田舎の畦道や山道よりも高層ビルが林立するなかの異空間、枯れ葉が積もる公園なんかを歩くのが心地よくなった。都会の喧騒と猥雑ともいえるエネルギーのなかに埋没したような生活を死を迎えるまで続けたくなってきたのである。