減築という発想
「減築」をご存知だろうか。「増築」が家の面積を足し算で増やすのに比べ、「減築」は、文字通り家の面積を引き算で減らすことである。不要になった子供部屋を取り払ったり、今まで2階建てだったものを老後に備え2階部分を取り払い平家にしたりする。
日本の住宅は、これまで増築されることはあっても減築されることは滅多になかった。しかし少子化で世帯の縮小の時代に入り、減築をして生活空間を再構築することが増えだした。特に定年を迎える団塊の世代に減築を検討する人が多いらしい。団塊の世代といえば不動産業界が熱い視線を送っている。比較的余裕資金が多いといわれているこの世代が、退職金でさらに家計が潤うと見ているからである。不動産投資やリフォーム、都心回帰でのマンション購入の有力な購買層になると狙っている。
余談だが、団塊世代の懐具合は、不況時にリストラにあったか、バブル期に不動産を購入したか、子供がニートでないかで決まるといわれており、不動産業界のターゲットになってくれる層はどれほどのものかは不透明でもあるのだが…懐具合に関係なく、リフォームなどに比べ低コストで実現できる減築は、お薦めなのかもしれない。
余談はさておき、日本経済新聞(07年6月15日)紙面に掲載された減築を紹介すると、
鎌倉市の邸宅街に住むHさんは、木造2階建てで7部屋あったものを、今は居間と和室、寝室の3つだけに減築した。119㎡の床面積が66㎡に半減した。きっかけは同居していた母が亡くなり、子供たちも独立したからだ。売却も考えたが、長年住んだ土地の愛着が強く、足の痛みで階段の上り下りに苦労していたこともあり、「年を取っているのだから最小限のスペースでいい」と決断した。1階の骨組みを残し、バリヤフリーにも配慮、「目と手が届く範囲で暮らせる。こんなに快適とは」と笑顔で話す。
減築をしてそのスペースが家庭用菜園になったり、中庭になったりして、家の中に光と風が入るようになり、生活空間の佇まいが生き生きとなったという思わぬ効果もある。
減築をするとき気をつけなければならないのは、引き算して取り払う部分と残部との構造的配慮だ。柱や梁、壁の位置や強度を検討することを忘れてはならない。
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