GIS(地理情報システム)を駆使した近未来の不動産鑑定評価
■GIS(地理情報システム)利用の現状と将来展望
GIS概念、システム構成、機能などは「GIS(地理情報システム)の概要と不動産鑑定評価への有用性」で紹介した。鑑定評価のGIS利用の代表例と言える比準作業は、ディスプレイに表示された地図上で規準とすべき公示地などを選択し、評価地の位置を同地図上でクリックするとそれぞれの属性データが表示され、駅、バス停、商業施設などへの2地点間の最短距離を探索、計測値を表示し接近条件を比較する。さらに街路幅員、連続性などの街路条件の比較、行政的規制による比較などの処理をし対象地の価格を自動算定する。
環境条件は主観的、メンタルな側面があるため比較処理するための評点付設の根拠となるデータに難点があった。しかしコンピュータの大容量データ高速処理の実現による3次元、4次元GISや公共機関などの空間データの情報開示の動向により、これまで不動産鑑定評価ではある部分、主観的判断に依存せざるを得なかった環境条件についてGISの利用により急速に当該データ解析が進行すると思われる。
例えば住宅地の場合、特定されたエリアの居住者の社会的・経済的特性(管理的職業従事比率、高等教育終了比率、老年人口比率、職種分類比率など)を変数として標準偏差を用い階級区分図をカラー表示すると、周辺の居住者の階層、社会的環境という要因がかなりの程度把握できる。周辺の土地利用度などは国勢調査の地域メッシュ統計による人口密度や後に述べる3次元GISによる建物の階層などの階級区分図によるカラー表示、あるいは建物データによる階数平均値、エリア内空地の占有率の計算処理で明確となる。
3次元分析はx、yの2次元座標に垂直方向の次元を付加することにより鳥瞰図的3D空間の表示が可能となる。例えば特定のエリアにつき敷地と道路の高低差、建物の高さ形状、道路状況、道路並木の高さ、崖の傾斜角、標高など写真を見るように現地の状況が画面に表示される。日照、通風、地勢や画地配置など平面的地図では見えなかった要因の把握が可能となる。
データの精度を保持するためには緯度、経度、高さ、建物形状など膨大な位置情報が必要となるため不動産鑑定業者レベルで構築するのは、外部委託するにしても膨大なデータ量や費用対効果よりみて現実的ではない。この点は後述する。環境条件の主観的側面は評点付設などの定量化を困難なものにしているが上記のように定量化可能な部分があり、定性分析の判断根拠として証明可能なデータをGISの利用により取得できる。さらに時間次元を加えた4次元GISは、現在、台風の移動観測、配車システムなどに利用されているが、時系列的要因データにより動態的表示されるためバーチャルリアリティの世界で価格形成要因の将来予測に応用可能となると思う。
■GIS利用環境の構築
不動産鑑定評価にGISを利用する場合、最大の問題は、システム構築、データの取得に高額な対価を負担することである。GISソフトウェア(基本エンジン)、鑑定評価を可能とするアプリケーションの構築、必要データの取得(例えば住宅地図の居住者、施設名などのデータは別途料金)など2次元GISの構築でも実務に利用可能レベルで1,000万を超える。3次元データは自冶体でも少数しか持たない。GISに必要なデータは多様で多量だ。地形図、航空写真、地質情報、標高情報、道路幅員、都市計画情報、家屋の位置・形状・規模、居住者の多様な情報などのデジタル化された空間情報を格納する巨大データベースをクリアリングハウスと言う。クリアリングハウスは原則として公開されるべきだという国家的方向性は見えてきている。クリアリングハウスや最近のインターネット技術を視野に入れた不動産鑑定業者にとって現実的なGIS利用環境の構築を次回で述べる。
■次回記事
GISの進化と不動産鑑定評価