大手不動産など減損会計に備え土地再評価活用
日本経済新聞の調査では、賃貸ビルや工場など事業用土地を時価で洗い直し、その際に生じた含み損益を貸借対照表に反映させる「土地再評価」を01年度に実施または表明した企業が30社、前年度までに利用した企業を含めると計210社に達した。大手不動産は、減損会計導入に備え含み損処理前倒しに土地再評価法を活用している。三菱地所は明治時代から受け継ぐ簿価の低い土地を評価替えし顕在化した1兆円近い含み益でバブル期に取得した土地の含み損を埋めた。三井不動産も連結ベースで3,500億円強の含み損を含み益で相殺する計画だ。鉄道会社も地価下落で膨らんだ不動産子会社の含み損を事業再編と組み合わせて一括処理するケースが目立つ。
企業が土地再評価法を使い保有資産の簿価を時価に近づけるのは資産効率を重視した経営に加え財務諸表の透明性を高め投資家にわかり易くするという狙いもあるが、早ければ04年3月に導入される減損会計対策という側面が大きい。
土地再評価法
土地再評価法は、「固定資産についてはその取得価額」という商法上の資産評価の原則にかかわらず、法人の事業用土地について再評価を行い、再評価差額金をもって株式消却をすることを可能とする。土地の再評価及び株式消却の期限が02年3月31日まで延長された。駆け込みで再評価法を利用する企業が増加すると見込まれている。
減損会計は、含み損だけをあぶりだすが、土地再評価法では含み益のある土地を保有する企業では、簿価が切り上げられるため、自己資本の充実が可能となる。土地再評価法を適用する場合の時価には用途別に公示価格、都道府県地価調査基準地価格、路線価、固定資産税評価額などがあり、再評価を利用する企業はこれらの価格を自由に選択できる。
公示価格を10とすると路線価8、固定資産評価額7という価格水準に通常はなるためどの価格を基準にするかで損益の額は変動する。また土地再評価法を利用して含み益と含み損を相殺しても、今後さらに固定資産の評価額が下落するとその分を改めて処理しなければならなくなる可能性がある。
減損会計導入の影響
減損会計とは簡単な例でいうと10億円で買った土地がその後の地価下落で売れずに利用もされず時価2億円になっている場合、減損会計では将来キャッシュフローを産み出せなくなった資産についてはゼロ評価、産み出すにしても取得価格より低ければその低い時価で減損し、損失発生が確実になつた時点で保守主義の観点から損失処理をせまる。
減損会計は米国規準や国際会計基準(IAS)ですでに導入され日本も国内の会計基準に基いた財務諸表の国際信用力を回復するためその導入が国際的に要請されているのだが、減損会計は、帳簿価額の「切上げ」は認めず、「切下げ」だけを求める制度であり、全体では含み益のある企業であっても、自己資本の減少、赤字決算を招く恐れがあるなど、企業の財務諸表へ大きな影響を及ぼす可能性が高いなどその影響の大きさを懸念して先送りされてきた。
導入をめぐり地価下落による影響を緩和するため「激変緩和措置」や先送りの政治的動きもあるが、減損会計が導入されるとバブル期に不動産を大量に抱え込んだ不動産、ゼネコン、商社、流通業界はもとよりに半導体メーカーなどでは多額の資金を投じて建設した最新鋭の工場設備の稼働率が市況の低迷などで悪化しているため時価で評価し直せば、巨額の損失が発生し過剰設備の実態が明らかになる可能性がある。他業界でもバブル期に土地を購入し本社ビルを保有した企業に影響が出る。
企業が全体でどれくらいの損失処理を迫られるかは不明だが、日本経済新聞によると、上場企業(新興市場上場企業と銀行証券保険を除く2,078社)の「土地」勘定だけでも50兆円を超えることを考えると、影響は小さくない。
不動産の時価は、欧米では原則として収益還元の考え方が適用されており、日本でも将来キャッシュフローなどに基く収益還元法になるのではなかろうか、土地再評価法と同様に、固定資産税の評価額や公示価格や路線価などを基準として利用する方法も検討されている。
減損会計導入に対応するには遊休地の有効利用で最大限キャッシュフローをあげる。不可能な場合は売却にならざるを得ない。土地再評価法を利用し含み益のある資産、含み損のある資産を組み合わせて証券化して、両者ともオフバランスして含み損を処理する。
いずれにしても減損会計の導入は、不良資産の売却など供給圧力を増加し、企業は、地価が下がりつづけるためリスクの高い不動産所有を志向せず不動産をオフバランスし賃貸で利用するということになるだろう。企業の不動産所有のインセンティブはますます弱まり地価下落は加速する。
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