抵当権の効力と付属建物登記の諸問題

1、抵当権と付属建物

付属建物は、民法87条1項の従物概念に該当し、主たる建物の従物となるので、主たる建物に抵当権登記をすれば、抵当権の効力は付属建物におよぶと思われるが、問題なのは未登記建物があり、それが付属建物に該当するか明確でない場合、所有者が独立の建物として保存登記をした場合、法定地上権などが成立し、換価価値が低下する可能性がある。競売手続上は、付属建物として登記された建物は原則として主たる建物と一体のものとして売却の対象となり、独立の建物として登記をした場合は原則として売却外建物とされる(建物が付属建物か、独立建物かの判断は、登記は単に表章にすぎないため社会通念を基準とすべきであるとする説もある)。つまり、抵当権設定時に付属建物と推定される建物がある場合、以下の考察が必要となる。

A、付属建物として登記された建物

競売手続上は、付属建物として登記された建物は原則として主たる建物と一体のものとして売却の対象となる。

B、付属建物として登記されてない未登記建物

この場合は、後述するが、下記の3類型のいずれに属するか判断を要する。

  1. 主たる建物の従物としての付属建物(類型1)
  2. 主たる建物との主従関係が必ずしも明確でない付属建物(類型2)
  3. 上記いずれにも該当しない付属建物といえない独立建物

建物が付属建物に該当するか否か、またいずれの類型に帰属するかは、抵当権の管理、実行に影響を及ぼし、重要である。まず付属建物の定義から述べる。

2、付属建物の定義

不動産登記法(以下「不登法」とする)は、一不動産一登記用紙主義を原則とする。付属建物については、別棟の建物であるが、主たる建物と一体となって取引され、取引に伴う権利変動も分離されないのが通常であるため一登記用紙に登載される。付属建物は、民法、不登法などに定義がない。判例、学説から考慮すると概ね2類型に分類される。

(1)主たる建物の従物としての付属建物(類型1)

この例示として母屋に対する別棟の物置、便所、浴室、納屋などがあり、これらは主たる建物の存在を前提として存在し、その効用を助けるためにのみ存在するもので、所謂、民法87条1項の従物概念に該当する従物的付属建物である。大判昭和10.2.20判例は、「所謂、付属建物とは、主たる建物の所有者が、その常用に供するため、自己の所有にかかる他の建物をその主たる建物に付属させた場合に、その付属させた建物を指称し、主たる建物とは常に同一の所有者に属することを要するものである」としているが、この判示は、まさに民法の従物概念である。従物的付属建物は他人の所有する別建物の付属建物とするため取引きされるような例外をのぞき単独では取引き対象となりにくい。

(2)主たる建物との主従関係が必ずしも明確でない付属建物(類型2)

この例示として母屋に対する離れ、店舗に対する倉庫、工場にたいする従業員寄宿舎、寺の本堂に対する僧坊などがある。この類型は、付属建物が、客観的にみても単独で取引きの対象となり得る。不登準則137条1項は「効用上一体として利用される状態にある数棟の建物は、所有者の意思に反しない限り、1棟の建物として取り扱うものとする」と規定している。効用上一体として利用される状態にある複数建物の関係は、従物的付属建物にみられる主たる建物と付属建物の所謂、主従関係より広範なため、いままで従物と明確に認められない付属建物の登記が認容されてきた経緯がある。以下この類型のポイントである効用上の一体性と所有者の意思につき述べる。

■効用上の一体性

効用上の一体性の意味は、複数建物が一体利用されることにより効用を高める場合を指し、複数建物が単に利用目的を同一にしている場合は該当しない。登記先例として、

  1. 集団的賃貸倉庫群のうち1棟の建物に対して同種の新築建物を付属させる登記につき「流通団地内に、集団的に建築され、同一目的(倉庫施設の賃貸)に供される数棟の建物は、それぞれ独立の建物として登記すべきである」と消極に解した。
  2. 数棟の社宅を合わせて1個の建物として登記する件につき「同一会社の社宅として利用されている数棟の中高層の集団住宅は、各棟ごとに1個の建物として表示の登記をするのが相当で、これをあわせて1個の建物として登記することはできない」と消極に解した。

■所有者の意思

類型2の複数建物の関係においては、主たる建物、付属建物をいずれの建物にするかの決定は、建物規模より所有者の意思にまかされることになる。つまり建物規模が小規模の事務所を主とし、それより大規模な工場、倉庫を付属建物とすることも可能である。

3、付属建物登記の要件

以上、付属建物登記の要件としては、以下の基準が考えられる。

  1. 主たる建物にたいする従物関係、効用上1体として利用されている関係が成立すること
  2. 主たる建物、付属建物は同一所有であること
  3. 主たる建物に付属する、効用上1体として利用されている関係が成立する程度に近接した場所的関係があること
  4. 所有者に付属として登記する意思があること

4、付属建物登記の諸問題

付属建物の登記する際の問題として、類型1に該当する場合、本来は付属建物と思われるものが、所有者の意思により主たる建物として登記可能かというケ-スがある。

登記先例として「月刊登記研究」掲載の実務座談会に「敷地が塀に囲まれ、母屋の入り口の正面から入り、かなり奥に行かなければいかない位置に勉強部屋を建築し、電気は母屋から引いていたケ-スで独立家屋としての登記を却下した」紹介がある。この例も当該建物の相対的位置関係、規模等によっては違う結論になったかもしれない旨のコメントがある。

競売と関連してこの問題を考える。司法協会「不動産執行事件等における物件明細書の作成に関する研究」、「付属建物に関する問題」から引用する。「抵当権設定当時、社会通念上、付属建物と認められる可能性が高い未登記建物が、差押登記後、独立の建物(乙建物)として登記されたうえ、第三者名義の所有権移転登記がされた場合、乙建物の取り扱い」とする例について、本書の見解を以下に要約すると、結論は、実務上、原則として、競売の対象としない。ただし、事案によっては、物件明細書に、買受人が訴訟手続により所有名義を回復する必要がある旨を記載して売却の対象とする場合もあるとし、その理由として、当該建物に抵当権登記がない以上、抵当権の効力が及ぶことを第三者に対抗できないとする説を採用すると競売の対象とならないし、付属建物か否かは登記ではなく社会通念を基準とすべきとする説を採用しても、買受人は所有権移転登記を受けられず、訴訟を提起する必要があり、勝訴は困難な場合も考えられる。また独立建物として登記を既に受けている者の利益も考慮する必要がある。ただし執行裁判所が付属建物と認めるときは、物件明細書に、買受人が訴訟手続により所有名義を回復する必 要がある旨を記載して売却の対象とする場合があるとしている。

このように類型1に該当すると思われる建物が、所有者の意思により主たる建物として登記された場合は、競売時に抵当権者としては困難な問題が発生するが、この登記の可否の問題については、現在、諸学説がある。「月刊登記研究」に「客観的に類型1と判断される建物は、民法87条1項の「主物の常用に供するため…付属させる」のは所有者の意思によるが、その場合、付属させる者の意思が客観的に表れない限り、積極的にも消極的にも影響しないと解されるので、建物の構造等に所有者の意思が客観的に表れる限り、当該建物はこの類型の付属建物でしかない」といった趣旨の見解があるが、具体的解釈、運用は微妙であり、明確な基準設定は困難といえる。

5、抵当権設定時の実務上の留意点

以上、付属建物の定義、その登記要件、登記上の問題点を概説したが、結論として、最後に抵当権設定時に付属建物と推定される家屋がある場合の留意点を述べる。付属建物として登記されていれば、競売時に当該建物は原則として主たる建物と一体のものとして売却の対象となるため問題になることは少ない。未登記の場合、当該建物が 、主たる建物の従物としての付属建物(類型1)に属する場合は、民法87条1項の従物概念に該当し、主たる建物の従物となるので、主たる建物に抵当権登記をすれば、抵当権の効力は付属建物におよぶと思われるが、問題点で紹介したように、この類型と思われる建物でも、差押登記後、独立の建物として登記された場合(この登記申請が却下されるか、否かは当該建物の従属の程度、規模、位置関係などによると思われ明確でない)、競売の対象としない取り扱いも懸念されるため、設定時に事前に付属建物として登記させるのが無難と思われる。主たる建物との主従関係が必ずしも明確でない付属建物(類型2)に属すると思われる場合は、主たる建物、付属建物のいずれの建物にするかの決定は、所有者の意思にまかされることになるため、抵当権者としては、事前に登記をさせることが重要と考えられる。

■参考文献

赤羽二郎著「解説表示登記法」、「月刊登記研究」、「不動産執行事件等における物件明細書の作成に関する研究」、永井紀明ほか共著「不動産担保上

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