不動産関連専門職業の21世紀展望
例年、年末になると専門アナリスト達の各業界の将来展望が新聞紙面などを賑やわす。本コラムも不動産関連専門職業(以下「関連専門職」と呼ぶ)の将来展望をしてみよう。
関連専門職は、不動産鑑定士、司法書士、土地家屋調査士、建築士(公認会計士、税理士も一部の業務部分はこの範疇に入る)が該当する。今までは、資格さえあれば、余程気難しいか、無能な人物でない限り、誰でも仕事は、生活を維持できる程度はきていた。
しかし最近、各専門家も依頼者にシビアに選択される時代になった。生き残りをかけた熾烈な競争社会が始まろうとしている。生き残れるための条件とこの業界の将来展望をしてみる。
これらのキーワードとして不動産市場の構造変化とこれによる地価予測、不動産の証券化などの動向、規制緩和に関連する動向、インターネットの急速な普及が挙げられる。
●不動産市場構造変化・地価予測との関連
関連専門職の取り扱い業務量は、不動産市場の全体量、取引頻度に原則的に相関する。不動産市場の今後の予測については、
- 日本の人口は07年頃から減少し、都市圏への人口流入も鈍化、ファミリー所帯数が増加しないためファミリータイプ住宅をはじめ住宅需要が減少する
- 住宅ローン控除によるマンション供給も陰りが見え始め、長期的には供給戸数の低下予測が多い
- 不況による企業倒産、個人破産の増加、所得の減少、先行きの不透明感で住宅は不動産市場に大量に放出されているが有効需要が低下している
- バブル崩壊による金融機関の不良債権処理は都市銀行から地銀、ノンバンク系、生保に移行しているが、その後の景気低迷で二次的不良債権が増加している
- 土地神話時代は企業は所有資産の含み益を期待して土地購入をしたが、経済のグローバル化により含み益よりキャッシュフロー重視になった
- 定期借家権による良質戸建住宅の供給増加
以上、不動産市場の要因変化により、その量、取引頻度ともに今後は、減少傾向で、一部の優良商業地以外、地価は長期的に低迷すると思われる。地価の低迷は、キャッシュフローに基いた不動産投資へと不動産市場を変質させている。次に述べる不動産の証券化である。
●不動産の証券化などの動向との関連
国内では投資信託の対象が有価証券に限定されていたが、先の国会で証券投資法が改正され、投資信託や98年に解禁になった会社型投資信託の対象に不動産も含まれるようになり、わが国でもリートが可能になった。不動産投資信託の上場市場が、来春にも東京証券取引所に誕生する。
不動産投資信託の成立により、不動産鑑定業者への評価需要は高まるが、投資家に不測の損害を与えないため、デューデリジェンス業務(対象不動産の全てを包括した詳細調査)を行う必要がある。証券化、ファンドの価格などのリスクを考慮すると専門的に特化した鑑定士、ゼネコンその他専門職で構成される業務グループ単位での対応とキャッシュフローや不動産価格を予測するための高性能のソフトとデータウェアハウスが必要となる。
●規制緩和に関連する動向
現在、社会の複雑化、国際化の状況下で経済界などの要請もあり規制緩和の動きや、司法制度改革の動きがあるが、これが司法書士制度や土地家屋調査士制度に大きく関わろうとしている。本年3月に閣議決定された「規制緩和推進3ケ年計画(再改定)」では司法書士、土地家屋調査士などの業務独占資格について具体的見直しの視点、基準及びそれに対する措置内容が掲げてある。つまり司法書士制度や土地家屋調査士制度に市場原理を導入し、従来の横並びに保護された護送船団方式を止めると言うことである。
●インターネットの急速な普及との関連
ネットで営業展開する場合、求められる要件はスピードと価格競争である。司法書士、土地家屋調査士の場合、依頼された登記の完了、実測数量の提示などが主な業務で、業務成果に対し依頼者が求める内容、精度は業者により多様に変わる性格のものではない。また業務遂行の工程もほぼ一定している。つまり価格競争に弾力性がないため大幅な価格破壊は生じ難い。
不動産鑑定の場合、依頼者が求める価格、価格根拠の精度に関するレベルは多層である。簡単な価格水準の査定から詳細なデューデリジェンス業務を要する数十億のファンドの投資物件の鑑定評価まである。ネットでの営業展開は、価格水準査定や、簡易価格査定などの価格情報サービスが主体でレスポンスの速さと、そのためのシステム構築が差別化の決め手となるだろう。
●結論
以上、関連専門職の将来展望と生き残りのための条件となる諸要因を述べた。今後の不動産市場の縮小と地価低迷により、従来は業務上の瑕疵も地価上昇で補完できたが、市場の縮小化と相俟って、業務能力の向上がより厳しく求められる。不動産の証券化などの動向は、新規のビジネスを生むが、従来の業務のレベル以上の専門性の深化と関連業種とのネットワーク化が必要とされる。規制緩和やインターネットの急速な普及は、業者間の競争を激化させ市場原理でユーザー利益を追求する結果、社会のニーズにあった新たな業務サービス形態を創造するだろう。21世紀初頭、5年後にこのコラムを回想するとき業者とユーザ共に歴史の進化を共有し得たという感慨を持ちたいものだ。
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