不動産投資信託で不動産市場は活性化するか
不動産投資信託が不動産市場は活性化する要因として、
1、不動産投資信託は不良債権最終処理による破綻企業の法的処理などで発生する不動産の大量供給の受け皿として期待されている
●整理回収機構も証券化活用へ
整理回収機構は担保になっている日本長期信用銀行(現新生銀行)の旧本店ビルを証券化し約400億円回収する。整理回収機構は5月17日証券化のアドバイザーとして大和證券SMBCを選定、正式調印した。回収機構は同ビルのの保有者向け(元本ベースで千百億円)を不良債権として四百億円を下回る価格で買取、回収方法を検討してきた。証券化の仕組みはまずビルを特定目的会社(SPC)に譲渡。SPCが総額四百億円の社債などを発行して国内の生損保などの投資家に販売する。投資家への元利払いはビルの賃料収入などを充てる。証券化により回収機構は不良債権を回収することができる。
整理回収機構は、累計約20兆円(元本ベース)の買取を実施し、競売や任意売却を主体に不良債権処理をすすめてきたが今後は複数の担保物権をまとめた証券化や不良債権そのものの証券化を検討している。
●サバイバルファンドの創設案(石原伸晃衆議院議員ホームページ)が注目
今後の国内の金融機関の不良債権最終処理で大量に放出される不動産の受け皿の一環として政府は「サバイバルファンド」を創設する。ファンドはそれらの不動産を取得して証券化することによりマーケット・メカニズムを機能させ我が国のABS市場を育成・形成し不良債権の抜本的処理を促進する。
2、現在、都心商業地の大部分は外資系投資ファンドによる取引である。外資系投資ファンドは購入物件の受け皿として不動産投資信託を予定している
外資系ファンドは巧みなプロパティマネジメントを駆使し購入不動産のキャッシュフローを改善するノウハウを持っている。設備管理業者の選定で競争入札を導入するなどして管理費用を削減し、IT対応、外壁・ロビーの改修、個別空調などへ改善などを積極的に行いオフィスビルの品質・イメージをメリハリを利かせて向上させキャピタルゲインを上昇させる努力を怠らない。
外資系投資ファンドによる活発な取引の背景として昨年からの大手金融機関によるノンリコースローンの急速な普及がある。ノンリコースローンは融資に伴う求償権(right of indemnity)の範囲を物的担保に限定するため担保物件以外は遡及されないローンで、担保物件を売却して債権額に満たない場合でも、それに対する一切の債務から免責される。金融機関はリスクの一部を負担する見返りに通常金利より高めに設定するはずだが大手金融機関間の過当競争で金利水準は約2%下がったといわれている。また大企業は直接金融などで資金調達するため銀行離れが進み、金融機関は優良融資先の減少で外資系投資ファンド等に融資が向かわざるをえない。過剰ともいえる融資合戦の結果、ファンドの購入不動産価格はバブル化し適性利回りの確保が困難な状況を呈している。
主要な外資系投資ファンドの今後の動向として、
- 米不動産大手ケネディ・ウイルソン・インターナショナル(カリフォルニア州)は日本で不動産投資を本格化する。米穀物メジャーのカーギルや年金基金などの投資家と共同で01年中に約500億円を投じオフィスビルを買収していく計画を打ち出した
- 米国大手の不動産投資銀行モルガン・スタンレーは不動産投資信託解禁で日本の不動産市場が活発になると読み01年度から3年間で不動産投資6,100億円を投入する
3、大手不動産会社を中心に有利子負債圧縮、ノンアセットビジネスの拡大
多額の有利子負債を抱え不動産を運営管理している不動産会社などは不動産の証券化により有利子負債を圧縮でき、資産の分母が小さくなることでROAも改善される。不動産の証券化が進行することにより不動産会社はアセットマネジメント、プロパティマネジメントなどのノンアセットビジネスの可能性が広がり、上場した不動産投資信託に開発物件を供給することも可能となるため不動産ビジネスの多様化が進行し不動産市場が活性化することが期待される。
J-REITで土地下落は抑止可能か
日本の不動産証券市場規模は、民間調査機関が米国のREIT市場を参考にした試算では、5~10年後には10兆~20兆円となっている。米国の90年代後半のREITの成長は、賃料上昇、不動産価格の上昇、低金利という背景があった。現在、国内の不動産を取り巻く経済環境は厳しく長期的地価下落予測が強いため不動産投資信託による不動産市場の活性化のシナリオには懐疑的な見方が多い。
国内における地価下落は当サイトコラム「地価下落の構造分析」で当分続くと筆者は予測した。「日経ビジネス」では、今後のグローバル化の進行は「土地の輸入」を引起し地価下落はさらに深刻化すると指摘している。
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