緊急経済対策 / 不良債権処理と不動産対策
先日行われた日米首脳会談の席上、ブッシュ大統領は日本の長期低迷は、金融機関の不良債権にあるという観点から、不良債権処理という「苦い薬」を早急に飲むよう森首相に要請した。政府も内外の厳しい指摘に今までの先送り政策が通用しないと覚り、4月6日不良債権の緊急な処理を中心とする緊急経済対策を決め、従来の公共事業重視型から脱却し、国内の構造的欠陥というべき金融システムの再生、強化に乗り出した。
本コラムでは、緊急経済対策のなかで不良債権処理と土地対策に関連する部分にふれてみる。
1、不良債権処理
日本経済が長期低迷する最大要因は不良債権処理問題にあることはいまや国際的常識となっている。97年秋から98年に襲った金融危機、98年の金融国会を経て出された金融再生対策は、不良債権の抜本処理というべき最も重要な原則である銀行経営者の責任を明確にせず、金融機関の甘い審査を厳格に資産査定し引き当てを課すことがなされなかったため、不良債権処理は不十分にしか行われなかった。
過去10年間、9度にわたる利下げと膨大な公的資金を投入してきたが不良債権は減らず、逆に増えている。不良債権処理策が実効性を挙げ得なかった原因は当然に政治・経済・行政のあらゆるシステムを検証しなければならないが、最大要因として依然として続く地価下落があげられる。
地価下落により、担保価値が下がり、新たな不良債権が累積されている。全国銀行ベースでは過去3年平均で7兆円の不良債権が新に発生したといわれている。最終処理を求められる主要行の破綻懸念先債権など不良債権は約13兆円、全国銀行では24兆円になる。しかし金融機関のかかえる不良債権の全体像は諸推定値があって実際のところ明確に把握されていない。実はこれが最大の問題点である。株や不動産のマーケットは正体が不明な場合、最悪を想定して動くためより下方に振れてしまう。金融庁は早急に厳格な審査を課し不良債権の全体像を正確に把握することが急務である。
政府は緊急経済対策で銀行の株式保有制限の導入と株式取得機構の設立、不良債権のオフバランス化の促進策を盛り込んだ。この方策として、主要行が抱えている破綻懸念先以下の不良債権は2年以内、新規分は3年以内にバランスシートから切り離すとし①不良債権売却②融資先企業の法的整理による直接償却③企業の再建計画を明確にしたうえの債権放棄などを促進する。
直接償却へのシフトは、中小企業を中心に企業倒産を増加させ、今まで以上に雇用不安が広がる恐れがある。不動産も大量に放出されるため地価がさらに下落する可能性がある。直接償却を促進するには、債権を流動化させる政策が必要だ。債権が機動的に売買できる市場の整備が急務である。共同債権買取機構や整理回収機構、民間の債権回収業(サービサー)など不良債権を買い取り回収する機能はある程度整備されてきているがまだ受け皿としては不十分である。
2、緊急経済対策不動産関連
緊急経済対策のうち不動産関連では、「都市再生、土地の流動化」「土地関連税制」を対策に盛り込んだ。
「都市再生、土地の流動化」では、まず「都市再生本部」(仮称)を内閣に設置し、21世紀型都市再生プロジェクトと土地の有効利用などの都市再生施策を推進する。東京と大阪の大規模プロジェクトの促進で都市再生を実現する方針で、東京都の環状道路整備や資源循環型の都市を再構築する「エコタウン構想」などが浮上している。俗にいう虫食い土地の整形・集約化や短期賃借権など法制度の不備で諸権利が錯綜した都市部の不動産関連の権利を調整する基盤整備から都市再生を進めるため、都市基盤整備公団などが蓄積してきたノウハウを活用し、土地有効利用事業、防災公園街区整備事業について要件緩和、国による支援の充実などを促進する。
土地の流動化については、国土交通省は01年中に不動産インデックスのガイドラインを作成する予定である。不動産インデックスは、J-REITなどファンド組成時の指標となり投資家の運用パフォーマンスの判断などに利用される。しかし国内では実用に耐えられるものが少ないため不動産インデックスの整備が急務となっていた。また建蔽率、容積率緩和、さらに地方公共団体に都市計画の運用基準を柔軟運用するよう要請する。
土地関連税制については、土地流通を阻害してきた土地税制の改正の方針を明確にした。登録免許税、不動産取得税の軽減、居住用資産の買い換え損の繰り越し期間の延長(3年を5年程度)、居住用資産の譲渡損の繰越制度の創設、個人事業用資産のローン減税の損金算入などの検討を行う。昨年末の自民党税調では、含み益をもつ優良な不動産の課税を繰り延べて、市場に放出させるための仕組みとしてUPREITというスキームを提案し、継続的な検討課題となっている経緯がある。
これらの土地対策で、融資担保分も含め総額約50兆円といわれている金融機関が抱える土地の大量放出により予測される地価下落事態に対応できるとはとても思えない。現段階では政策の具体性に乏しく、少子化、企業の生産拠点の海外移転、不動産版時価会計といわれる減損会計の導入、資産のオフバランス化などの社会、経済の構造的不動産需要低下を防止するグランドデザインを描けていないからだ。
4月8日のテレビ朝日「サンデープロジェクト」の自民党若手議員の発言などを観ると、政府は、不動産の大量放出による地価下落防止のセフティネットとしてJ-REIT(不動産投資信託)による不動産市場の流動化の仕組みに相当の期待を託しているようだ。
3、不動産の証券化
不動産市場低迷の要因として間接金融の機能不全があげられる。現在、銀行からの借り入れ(間接金融)で不動産購入を希望しても膨大な不良債権を抱えている銀行は不動産融資に消極的にならざるを得ず、従来の間接金融を前提とした不動産市場は機能不全状態になっている。そのため投資家の資金をもとに不動産を購入する直接金融機能を拡充することが急務であるが不動産の証券化を促進すると企業の保有不動産による資金調達が可能になり直接金融を実現できる。
改正SPC法、改正投信法、不動産投資顧問業の登録制度など不動産の集団投資スキームの整備が進み、昨年11月に施行された不動産投信法は不動産の投資信託を解禁した。金融庁は3月7日、三菱地所、三井不動産などが申請していた上場型不動産投資信託の運用会社2社に投資法人資産運用業を認可した。認可したのは三菱地所系の「ジャパンリアルエステイトアセットマネジメント」と三井不動産系の「エム・エフ資産運用」の2社である。東証による「不動産投資信託証券に関する有価証券上場規定の特例」の3月1日施行、3月16日投資信託協会がJ-REITの自主規制ルールを理事会で承認するなどJ-REITを巡る市場開設環境は整った。
東証に不動産投資信託が実際に市場開設されるのは夏場近くになりそうだが1,400兆円近い預貯金に偏在する個人資金や法人の資金が直接不動産市場に向かうことによって、不動産市場が活性化することが期待されている。しかしJ-REITには課題も多く個人投資家の市場参入はしばらく時間がかかりそうだ。
また多額の有利子負債を抱え不動産を運営管理している不動産会社などは不動産の証券化により有利子負債を圧縮でき、資産の分母が小さくなることでROAも改善される。不動産の証券化が進行することにより不動産会社はアセットマネジメント、プロパティマネジメントなどのノンアセットビジネスの可能性が広がり、上場した不動産投資信託に開発物件を供給することも可能となるため不動産ビジネスの多様化が進行し不動産市場が活性化することが期待される。
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