上場直前の不動産投資信託

1、市場創設準備が整った不動産投資信託

昨年11月30日法改正による投信法の整備、東証による「不動産投資信託証券に関する有価証券上場規定の特例」の3月1日施行、3月16日投資信託協会がJ-REITの自主規制ルールを理事会で承認するなどJ-REITを巡る市場開設環境は整った。

日経新聞報道によると本年4月いよいよ東証に不動産投資信託が市場開設される。業界の見方では実際の市場開設は夏場近くになるという観測もあるがいずれにしても不動産市場の流動化、活性化の起爆剤になるという熱い願いを担っての登場である。米国のここにきての景気急減速、森総理辞任ドタバタ劇など政局の混迷、不良債権問題の重石などに影響を受けた国内景気の失速で地価下落がさらに拍車がかる懸念が深まっただけによけいにその登場が期待されている。

2、大手不動産各社の動向

①不動産投資信託市場への参入動向

現時点でメインプレイヤーたる不動産大手各社のJ-REITに対する温度差が明確になっている。

三菱地所、三井不動産の各社は積極的事業展開を進めている。金融庁は3月7日、三菱地所、三井不動産などが申請していた上場型不動産投資信託の運用会社2社に投資法人資産運用業を認可した。認可したのは三菱地所系の「ジャパンリアルエステイトアセットマネジメント」と三井不動産系の「エム・エフ資産運用」の2社である。さらに日本経済新聞によると「三菱地所は4月メドに約1000億円規模のファンドを設立、三井不動産も6月末までに約2000億円規模のファンドを接定上場予定」と報道している。つまり三菱地所が1,000億円で第一号上場、三井不動産がやや遅れて市場参入するシナリオが明らかになっている。

両社がJ-REITに積極的事業展開を進める背景として三井不動産で1兆6,000億円強、三菱地所で1兆2,000億円強といわれる連結有利子負債の圧縮という背景があり、今後、アセットマネジメント、プロパティマネジメントなどのノンアセットビジネス、さらには上場した自社系列のファンドに開発物件を供給するデベロッパー事業の出口戦略(エグジット)なども視野に入れての総合不動産ビジネス構築の狙いがあると思われる。

森トラストは、昨年の不動産投信法解禁時点では、REIT運営要件の情報開示で個別の家賃等の詳細情報公開にテナントサイドの強い抵抗が予測されるため、これに配慮し、上場を約2年程度延期するとしていたがここにきて積極展開に転換している。

今までのオフィスビル偏重を脱却し商業施設部門の強化と事業領域の地方拡大、事業の安定化を視野に入れ、セゾングループのファツションビル運営会社パルコと資本業務提携することで合意した。パルコが森トラストを対象に第三者割り当て増資を実施。森トラストは、パルコの筆頭株主となり共同で商業施設の運営、開発に取り組む。森トラストはさらに中外製薬本社ビル5棟などをJ-REIT用物件として拠出することを決め、年内にも800億円規模のファンドを組み上げ10月に不動産投信として販売するとしている。

東京建物は、大成建設、朝日生命保険、安田生命保険の3社と共同で不動産投資信託向けファンドを8月にも設立すると発表した。都内のオフィスビルを中心ファンドを構成し、ファンド規模は当初500億~600億でスタート、年内にも1000億円に拡大させ東京証券取引所に上場する方針である。

東急不動産、野村不動産はしばらく市場の様子見で市場立ち上がり当初には参入を控えるようだ。

②定期借家契約の導入動向

離陸する不動産投資信託を視野に入れた定期借家契約の導入が大手不動産会社を中心とし急速に進んでいる。事業用の建物賃貸借については中途解約を予定しないため契約期間内のキャッシュフローが計算でき収益が確定しやすくファンドの商品価値を高める効果があるからだ。

日本経済新聞によると、「森ビルは01年度以降に供給するビルには定期借家を全面的に適用、三菱地所も新規供給ビルを原則として定期借家契約に切り替える。三井不動産も01年度中に提供する商業施設の定期借家契約比率を現在の30%から50%強に引き上げる」と報道している。

オフィスビル、商業施設では、不動産事業の構造的変化に伴う賃貸部門へのシフトと、不動産投資信託の離陸などの要因で投資ファンドに定期借家がビルトインされた型態が急速に普及することは間違いない。

3、不動産投資信託周辺環境と課題

●J-REITの市場環境

不動産市場は、イマイチ盛り上がらない。J-REITに当初のような成長のシナリオが描ける環境ではいまのところないからだ。米国の90年代後半のREITの成長は、賃料上昇、不動産価格の上昇、低金利という背景があった。現在、国内の不動産を取り巻く経済環境は厳しい。

まず各投資ファンドによる優良オフィスビルの取得競争で取得価額の高騰を招き利回りの低下が懸念され、また適性採算価額で物件を集めファンドの規模を拡大していくシナリオがかなり困難な状況になっている。さらに01年にはいって外資系企業、NTT系列を中心とする国内IT関連企業のオフィス需要に一服感が見られ、03年の都心部オフィスビルの大量供給などで先行きの賃料動向にも不透明感がでてきた。

また地価の構造的長期低迷に加え早ければ03年3月期決算から減損会計が導入され企業の不動産放出が急増するなどさらなる地価下落要因が積み重なる懸念が投資ファンドのキャピタルゲインに陰を落としている。地価の二極分化で都心部の地価が底打ちをしたという見方がある反面、金融機関の不良債権問題など構造改革をミスリードした場合、国内景気と連動し土地価格全体が急激に下落する可能性がある。

●情報開示

J-REITに当初から指摘されていた金利上昇時の商品魅力劣化のリスクや、投資家に対する賃料情報などの情報開示については国内の契約慣習から公開に制約が多いため不透明性が懸念されている。市場開設後、投資家は、各ファンドの運用者から証券会社に提示された資料を見ることになるだろうが、どの程度まで詳細で解りやすい資料が提示されるか今のところ不透明である。特に既存ビルを取得したファンドの場合、膨大な修繕費などの将来コストや賃料低下懸念など建物老朽化に対する将来のスキ-ムを明確にしないと投資家は離れるだろう。

●J-REITのプレイヤー

プロパティマネジメントは、テナントを戦略的に入れ替え賃料収入の増加や安定を図り、ビルの管理コストを削減しファンドの価値を上昇させる重要なマネジメントである。米国の場合、高度な能力を有する独立したプロパティマネジャーが存在するが日本では、人材に乏しく育ちにくいといわれている。雇用面の流動性の保証や発注者側からのインセンティブ付与、プロパティマネジャーの評価システムの確立が今後の課題である。

アセットマネージャーには、戦略的に物件の入れ替えを行いファンドの成長性を高める能力が常時要求される。市場環境の変化が急速であるため先見性と精緻な分析力が投資家のために欠かせない。

J-REIT専門の証券アナリストは、各証券会社の不動産専門アナリストや外資系証券のREIT専門のアナリストが担当すると思われるがJ-REITの市場の成長は彼らの力量にもかかつてくる。

●税制の課題

REITへ譲渡した場合の収益について課税繰り延べができず、譲渡時の登録税も免税されないなど米国のJ-REITのような不動産保有者に対する税制のサポートがない。また投資家にとってJ-REITは株式並みの総合課税ができない不利益がある。

●利益相反

米国では、REITがその内部に管理、運営会社を保有するが、国内では大手不動産会社が事業母体のREITは関連会社が運用し本体や子会社が業務受託するため利益相反の可能性が懸念されている。

●不動産インデックス

投資対象不動産に関連する諸データ(価格、賃料、利回りなど)を用途、地域、期間別に指数化したものがJ-REITの活用に欠かせない。不動産インデックスは、ファンドの組成時の指標となり投資家の運用パフォーマンスの判断などに利用される。しかし国内では実用に耐えられるものが少ないため不動産インデックスの整備が急務となっている。国土交通省は01年中に不動産インデックスのガイドラインを作成する予定である。

4、今後の見通し

各投資ファンドは、当初は、リスクの高い不動産開発物件は取り扱い外として東京都心部のオフィスビル、地方中核都市のオフィスビルを中心に組成し、賃料収益の安定した物件に絞ってポートフォリオを組むためあまり成長性は期待できないが、株価のキャピタルゲインの変動は比較的少ないと思われる。年3~5%程度の配当利回りが見込めそうで現在の低金利の中では、人気となることも考えられるが、不動産市場がより不透明化する現状にあって中途半端な枠組みでスタートしたという感があるのは否めず、J-REITの銘柄数も当分の間は少ないため、当初は機関投資家の買いがはいるだろうが一般投資家に幅広く利用される市場の醸成には、ある程度の時間がかかるのではないだろうか…。

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