不動産投資信託の最新動向
本年5月改正投資信託法の法制化、11月末施行で新市場に多様な業種が参入している。不動産、証券、金融、商社が先導している状況となっている。主要な参入予定企業は下表の通りである。
■企業の日本版REIT参入の現状
改正投資信託法による商品販売、上場は01年春以降になるが、ファンドはその前に不動産を取得する必要があるため、ファンド間の物件取得競争が過熱し、優良物件の品薄感から、ミニバブルの様相を呈している。
現時点で参入予定企業のなかでも参入に対する温度差がある。三菱地所、三井不動産は積極的な事業展開が目立つ。三菱地所の場合、2~3年以内にはファンドの資産規模を3,000億円、最終的には1兆円を目標とする。三井不動産は2本のファンド設立を予定し、そのうち住友生命など数社と構成する「三井不動産オフィスビルファンド」は11本のオフィスビルを取得、ファンドの資産規模はすでに現時点で1,500億となっている。反面、当面は積極的な展開を見せてないのが東急不動産、森トラストである。東急不動産の場合、長年蓄積してきた経営ノウハウがあるため、当面は、焦らず市場形成の成り行き見届けようという思惑が推測される。一方、森トラストは、REIT運営要件の情報開示で個別の家賃等の詳細情報公開にテナントサイドの強い抵抗が予測されるため、これに配慮し、上場を約2年程度延期した。
■日本版REITの予測市場規模、配当利回り
不動産投資信託は、東京証券取引所の1部、2部、マザーズに続く4番目の市場として上場される。米国のREITは株式時価総額で約1,300億ドルの資産運用型商品である。日本の不動産証券市場規模は、諸予測があるが民間調査機関が米国のREIT市場を参考にした試算では、5~10年後には10兆~20兆円となっている。将来的市場規模予測としては、00年3月24日付け日興ソロモン・スミス・バーニー証券の「将来、日本の不動産市場が米国並に証券化されれば約42兆円の新たな市場が形成され…」というレポートがある。不動産投資信託の利回りは、米国のREITの場合、10年もの国債利回り+1~2%程度であるため日本も国債利回を基準として3~5%程度になると予測される。当該利回りの類似モデルとして住友不動産による99年3月から運用開始の不動産小口化商品「SURF」があり、利回りは3.5%である。
■不動産投資信託の今後の課題
●不動産市場の構造変化
不動産投信商品充実のため下記の市場構造変化が必要。
- 不動産投信の対象商品層は収益を生む不動産であるためこれを充実するには、従来のキャピタルゲイン重視型の不動産投資からキャシュフロー重視型の不動産投資へ意識変革しプロパティマネジメントを強固にする必要がある
- 再開発ビルの場合、立体換地など複雑に権利が交錯しており、証券化の対象となり難い。欧米型の明確な共有者の協定などが必要
- 事業会社が本社ビルなどを所有するという日本型の不動産保有意識を変え、本社などは賃貸で、本業に投資を集中する米国型に変換する必要がある。これについては固定資産の減損会計導入、オフバランスにより自社保有不動産を証券化し貸借対照表から外すことでROA、ROEを改善できる点など企業経営環境変化が追い風になる
●情報開示
特定物件の家賃、空室率、建物の減耗程度、周辺類似物件の賃料・価格現状、将来動向などのデータが開示されなければ東証に上場する場合、年2回の投資不動産の時価評価があるが投資家を説得できない。家賃等の個々の契約内容の公開は日本の商慣習に馴染まないためどうクリアするかが課題である。また将来キャシュフローの予測、割引率の査定など鑑定機関の評価を含め投資家に評価の妥当性等を説明する運用会社、格付機関などが適切に機能することが重要である。
●利益相反の排除
米国での利益相反の前提は、不動産の売手と買手、不動産所有者とテナント、発行体と投資家などは常に利害が対立しているという認識である。米国の場合、機関投資家やテナントなどの当事者により、この点が特に強調される。米国の不動産投信の実状は未上場不動産会社の上場であり、当該不動産会社自体の運営、管理が多い。反面、日本の不動産投信は大手不動産会社による外部運営が想定されるので利益相反が生じやすい。つまり日本では不動産投信の多くは、既存の不動産会社が投資顧問を設立して、親会社である不動産会社から不動産を購入して運用することを前提としている。そしてその不動産の管理・運営は親会社か、その関連会社に委託することを前提にしている。現在、日本の不動産投信で懸念される利益相反は、不動産投信の運用を行う不動産投資顧問会社のレベルで親会社の介入が起きないか、そして対象資産の管理・運営を受託する業者のレベルで不動産投信よりも自らの親会社など優先するのではないかなどの懸念である。つまり投資家は、投資顧問が親会社から購入した価額は適正か、親会社などに業者としての能力がないとき排除できるか、優良テナントに対し業者は親会社と不動産投信のどちらを優先するのかなどの疑念を持つことになる。利益相反は、不動産投信市場拡大のネックとなるためこの問題を回避する下記のような手法が必要となる。
- 投資顧問の担当者がいずれ親会社に戻るローテーション人事では親会社の意向を排除することは難しいため、これを禁止するノーリターン制度を検討する
- ストックオプション等のインセンテイブの付与
- 不動産会社本体の事業を開発事業、マンション分譲事業など不動産投信が対象としない事業に特定し、これを明示する
- 徹底した情報開示。利益相反のリスクが投資家に事前に開示されていることは当然必要。設定後の情報開示を適切に行うと運用実績が開示されるため運用能力のない投資顧問は淘汰される。管理運営業者契約条件などを開示すれば他の業者とのコスト・パフォーマンスの比較が可能となり投資顧問は、対応せざるを得なくなる
- 不動産会社に不動産投信への出資比率を高め投資家と同じリスクを取らせる
●税制面での手当て
米国のUPREITのような投資法人(ファンド)に不動産を譲渡した際の譲渡益課税の一定期間繰り延べの適用により不動産を保有する企業、個人は売却の意志決定が容易になりその結果優良物件を集めやすくなるため不動産業界など参入企業もUPREITに類似した譲渡益課税の繰り延べの適用を政府に要望しているが現時点では実現のメドは立ってない。またファンドが物件を取得する際の登録免許税・不動産取得税の軽減、投資家の配当所得の源泉分離課税などの税制上の措置も要望されている。
●不動産鑑定評価の手法に関して
今後、不動産投資信託の施行により、投資対象不動産を鑑定評価する場合、DCF法の収益還元モデルに留まらず、資産運用手法、リスク管理手法を開発した金融工学的側面からの価格アプローチの併用ニーズが高まる。従来の鑑定評価における正常価格の概念は一物一価であった。即ち完全自由競争市場を想定し需要曲線と供給曲線の交点で価格が決定された。DCF法による収益価格も恣意的なシナリオに基き賃料、割引率、売却価格を一定に想定して算定される。反面、DDCF法とよばれる動態的DCF法は、オプション、デリバティブ、スワップなどに利用されていた金融工学における成果を活用し、投資タイミング、不動産買い増し、売却タイミングなどの選択肢(オプション)を、従来の感度分析のような単一オプションのシュミレーションでなく一緒に変動させれば全体がどう変動するかというリアルオプション・アプローチで価格試算する。つまり不動産価格の時系列データに基き不動産価格の確立過程モデルを設定、構造的モンテカルロシュミレーションと呼ばれる数万パターンの予測キャッシュフローなどを計算させる。このモデルで試算される価格は一物一価でなく分布になり、その確率分布の最頻値といった幅を提示する価格になる。不動産投資信託において不動産収益を基にした株価換算価値、投資に対するリスクマネジメントなどのニーズはこのレベルまで期待するだろう。DDCF法の精度の高い適用には不動産の多様なデータベースを必要とするため不動産契約の非公開性との絡みで投資関連データ整備がこれからの課題となる。
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