2003年問題より深刻、オフィスレス時代の到来

1、2003年問題と2010年問題

国土交通省が19日発表した7月1日時点の基準地価は、これまでの地価下落と異なるトレンドの兆候を見せた。利便性、収益性が地価に反映する2極化傾向は依然続いているが、今回の地価調査で外資系ブランドの出店や高層マンションの建設ラッシュで一時期底入れ気配だった都心部の地価も再び下落に転じる懸念が出てきた。

2003年問題で大量のオフィスビルが開業し、供給過剰で賃料が下がる2003年問題に加え、団塊世代がリタイヤする時期と重なるため2010年問題が浮上している。今後の都心部の地価動向に与える影響が懸念される。

「ニッセイ基礎研究所などの調査では、東京23区のオフィス就業者は00年から10年で5%減少する。団塊の世代の定年退職が続くことが主因で最悪のケースでは、丸ビル23棟分に当たる370万平米オフィス需要が減る可能性がある」(日本経済新聞)。

現時点では、殆ど指摘されていないがオフィスビルについては2003年、2010年問題以上ともいえる需要を押し下げる構造的問題が、IT化の急激な進行により進んでいる。オフィスそのものを不要にする、もしくは分散小規模化するオフィスレス時代の到来である。

2、eワークスタイルの増加

モバイルコミュニケーション環境を導入し、営業所を無くしたり、直行、直帰体制を導入する企業が急増している。単に通信インフラを整備したりワークスタイルを変革し、社外で情報を送受信するだけでなく、業務プロセスの改革まで踏み込んでいる点が従来のモバイル利用のレベルを超えている。

導入企業の狙いは事務処理など付加価値の低い業務を本社に集約し、利益を生み出す業務に現場社員を専念させることである。従来、オフィスの機能は、顧客・取引先など社外に対する窓口の役割と社内で社員同士がフェイス・トゥ・フェイスで会議、会話を行い業務資料を交換する物理的空間としての役割を担ってきた。

eワークスタイルでは顧客・取引先など社外に対する窓口の役割は社員が担い、問い合わせ、見積もりなどの営業事務機能を本社の営業センターに集約する。営業センターは在庫を一元管理するため顧客は電話で即座に発注できる。

eワークスタイルの導入でミシュランジャパングループは今年2月、全国に60ヶ所あった営業拠点をすべて廃止、旭硝子は硝子事業部の支店6ヶ所を廃止した。キリンビールも営業担当者に直行、直帰体制を導入している。

管理者と営業担当者の報告は、システムを介して行われるため管理者がオフィスで報告を受け、それを現場にフィードバックする仕組みが、社内で情報が水平共有される仕組みに移行する。この仕組みでは部下は欲しい情報に直接アクセスできるため、管理者はある部分不要になり、部下の管理から戦略立案へと主力業務が変わる(日経情報ストラテジー)。

以上がeワークスタイルの現状であるが、リアルタイムの社外業務への重点移行とそれをサポートする本社内のデータベースとのシステム連携が進むと物理的容量としてのオフィスや人員はよりコンパクトになっていく。減損会計により企業は本社ビルを保有しない傾向が強まり賃貸を志向するが、オフィスの規模・形態・機能も経営環境の変化が速いため可変的であり、より縮小の方向へ向かうのではないだろうか。この傾向は全体的にオフィス需要を押し下げる結果となるだろう。

3、バーチャル型オフィスのVB増加

オフィスレスは、当然、小規模企業でも増加している。都心部のワンルームマンションといえば、SOHOのオフィスと相場が決まっていたが、「効率的で低コストの経営を目指すベンチャー企業が固定したオフィスを構える傾向は今後少なくなる(富士総合研究所シニア経営コンサルタント真崎昭彦氏)」。

社員同士の連絡は自宅からのメール・電話、固定したオフィスは持たないといったバーチャル型オフィスを活用するVBが増加している。広告デザイン、コピーライテイングなど専門性が高い仕事をする社員が全員同じ場所にいる必要はないと言うわけだ。

オフィス賃貸を手がける東京新宿のサーブコープジャパンは、バーチャル型オフィスを希望するユーザー企業と契約を結び、電話の転送サービスや全員会議、顧客との打ち合わせに必要なときはサープコープの貸し会議室を利用できる。月間40件以上の問い合わせがあると言う。

4、在宅勤務の増加

ITの進化で在宅勤務者が急増している。社団法人日本テレワーク協会の推計では96年度に81万人だった在宅勤務者の人口は02年度中には全労働人口6,766万人(00年)約5%にあたる300万人に達した。上場企業の2割、全体でも13%が在宅勤務制度を採用している。対象職種も従来の営業・事務職から最近は情報通信や食品など企画・調査職、ソフト開発職で増えている(日本経済新聞)。

企業が在宅勤務の導入を検討する背後には少子高齢化社会の到来に備え、有能な人材を確保する柔軟な勤務形態を構築する狙いがある。NECでは育児や介護などで通勤できない理由がある社員を対象に、自宅でソフト開発やウェブサイト構築を手掛ける在宅勤務を一部認めている。沖電気工業では98年から通勤困難な身体障害者を正社員として雇用し、インターネットを使って在宅でソフト開発などができる制度を導入。01年以降はグループ会社にも同様の雇用形態を広げた。
 
社員の在宅勤務が進む一方で、企業に正社員として就職せず、独立して複数の企業の仕事を請け負う在宅勤務者も増えている。企業はプロジェクトごとに最適な外部の人材を起用できるうえ、景気に対応した柔軟な雇用調整が容易になる。

5、オフィスレス時代の到来

デフレと景気低迷が長引くなか、右肩上がりの市場拡大は期待できない。リストラや経費削減も過剰にやると企業の体力を消耗する。本社のサーバーと通信機能を持たせた携帯端末、ノートパソコンなどでオフィスと現場、自宅を結ぶ情報システムはレベルにもよるが比較的簡単に構築できるし、IBMなどによりアウトソーシングサービスまで誕生した。

日経産業新聞によると日本IBMは6月から企業の社内情報システムと社員の自宅パソコンを結び、在宅勤務を容易にするネットワーク接続サービス事業を始めた。急速に普及しているADSL(非対称デジタル加入者線)など高速インターネットを活用する。在宅勤務制度を導入したい企業がシステム構築・運営をまるごと委託できる簡便さが特徴の新サービスで、同制度普及につながりそうだ。

同サービスを利用すると、社内の機密データに接続したり、電子メールの交換や電子会議にも参加したりできる。通常、社内情報システムは不正侵入を防ぐため社外から接続できないようにするが、通信手段を暗号化するなどして安全機能を高め、安心してデータの送受信ができるようにする。顧客企業の要望に応じて、日本IBMが同サービスのためのセキュリティーシステムを構築し、社員の自宅のパソコンに専用ソフトソフトを組み込む。ADSLなど高速インターネット接続に対応したパソコンであれば「社内LAN(構内情報通信網)と同様の環境で仕事をこなすことが可能」という。

金融工学が専門の野口悠紀雄教授は、その著書「日本経済 企業からの革命」でIT化の進展で小組織経済が優位になると指摘する。

従来の日本型経済システムはIT登場前の産業革命技術化では効率的であり、60年代の高度成長、70年代の石油ショック対応でいかんなくその力を発揮した。しかしITによる情報通信コストの著しい低下で分業を実現する手段としての組織の重要性が下がり、市場の重要性が高まる。つまり大組織の有利性が低下し、小組織の有利性が高まる。技術革新が早いので小回りの利く小組織の有利性をさらに高める。

対外的な顔としてあるいは社員同士の意思の疎通の空間として有してきたオフィスの機能は、ITの進化により、ワークスタイルやそれを取り巻く企業、社員、顧客の仕事の仕組みや意識変革の進行により、不要なスペースや部分が切り捨てられより効率化、低コスト化し、さらにその形態は企業戦略のスピードを反映し、常に可変的にならざるを得ない。成功企業の壮大な本社ビル保有志向は過去の遺物となるだろう。

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