見えてきた不動産流通の未来 / エスクローサービス、バイヤーズエージェント

インターネットの常時接続、高速化の一般家庭への急速な普及は、不動産流通において売主と買主をインターネットを媒介にして中間排除で直結してしまうため、業者中抜きの個人間取引CtoCを増加させている。不動産の個人間取引の専用サイトも増加している。

不動産取引の場合、不動産個々の個別性が強く価格の妥当性が検証し難く、取り巻く法律も民法、建築基準法、都市計画法など多岐にわたり税制、建築土木などの知識も広範に要求されるためこれまでは専門業者にまかせ売主、買主が個人間で直接取引することはまれであった。不十分な知識からもたらされる将来の紛争などを考えたときは当事者間のみの取引はリスクが多かったからだ。

しかしインターネットの普及で不動産の物件情報ならびに取引に必要なさまざまな情報がネット上に流れ、ネットオークションなどの進行で不動産についても個人が業者抜きで参加しやすい、もしくは業者に支払う高額の手数料を考えると直接取引きを選択する環境となってきている。米国などでは直接取引は全不動産取引量の20%程度に達するといわれている。日本でも今後、急速に普及すると思われるが、個人間の直接取引市場を醸成するためには取引により予測されるリスクの解消と円滑に取引が進行するための情報提供の整備が必要である。

不動産業者サイドも個人間の直接取引に対応したサービスを提供している。エスクローサービスとバイヤーズエージェントサービスである。インターネットの普及により仲介業者の物件を探す手間が省力化され、また個人間の直接取引きが進行する可能性が高まっているため、いままでのように取引金額の3%プラス6万円の手数料を売主、買主の両者から取ることが困難な状況になりつつある。このような業界の背景も新サービスに移行させる要因となっている。

①エスクローサービス

エスクローサービスは、米国では不動産の個人間取引で一般化した制度である。米国ではわが国のような登記制度がないためエスクロー・エージェントが譲渡証書、担保証書、支払いなどを契約どおりに当事者に代わって行う。国内ではこれを定めた法律はまだない。一般に代金を一時預かるため、銀行法による為替取引に該当するとも見れるが大蔵省や法務省では正式な見解を示していない。

現在、国内の不動産流通業者が提供しているエスクローサービスは、個人間取引に不安を感じるユーザーを対象に通常の手数料より低額にして概ね下記のようなサービスを提供している。

▼売主への提供サービス

  1. 物件の境界、その他の物的、法的調査
  2. 物件の行政的規制(都市計画法、建築基準法、その他の規制)調査
  3. 買主の信用調査、資金内容の確認
  4. 相続など所有権登記、抵当権抹消などの登記整理
  5. 契約書の作成・打ち合わせ、契約立会
  6. 金銭授受立会から現地立ち会い

▼買主への提供サービス

  1. 住宅ローン手続のアドバイス
  2. 物件の調査や法的制限調査
  3. 物件重要事項の調査報告書交付
  4. 契約書の作成・打ち合わせ
  5. 売買代金の支払い、登記・現地確認立ち会い

エスクローサービスは、売り主・買い主の不動産の直接取引を安全・確実にする不動産取引の仲介サポートサービスで、業者に依頼される時点ですでに売買当事者、物件が確定しているため業者側では広告するなどして買主や物件を探す時間、費用が節減できる分、手数料も通常手数料の半額~取引額の1%程度に設定しているケースが多い。

②バイヤーズエージェントサービス

バイヤーズエージェントサービスは、買主サイドに立って売買物件を仲介し、売り主及び業者との交渉・折衝を行い、不動産取引を安全・確実にするサポートシステムである。インターネットの発達により、売主、買主の直接取引や買主側業者不在の取引並びに不動産取引の電子化の進行が予測されるため複雑な法律、税制、建物等の瑕疵から契約予定価格の妥当性の検討など情報不足の買主を保護するため業者が買主側の要請で不動産取引に参入するシステムである。取引の安全性、確実性を高めるには、直接取引よりもコンサルテイングアドバイザーの存在が必要とされるからである。

▼バイヤーズエージェントサービスの内容

  • 法務局では物件の登記内容は当然として物件隣接地の登記調査(物件の位置、範囲を確定するため)字図、建物図面、地積測量図を徴求し問題点がないか検討
  • 市町村役場、土木事務所などで、用途地域、容積率、建蔽率、道路の種別、再建築可能な道路か否か、土地区画整理の有無、進捗状態、都市計画道路予定地の有無その他自然公園法、河川法などの規制の有無など物件に関連する諸規制を調査
  • 現地では字図、建物図面、地積測量図、実測図と現況を照合し、境界確認、増築、未登記建物の有無、隣接地の状況などを調査。ライフラインの確認
  • 売主と協議事項の接衝
  • 重要事項書類の調査・作成・説明
  • 契約書の作成
  • 住宅ローン手続きの銀行への折衝、登記料減税措置の書類申請手続き・取得、登記事項の打ち合わせ
  • 現地立ち会い引き渡し、入居後のアフターフォローサービス

③個人間直接取引と仲介業者の関係

直接取引を前提としたウェブサイトは売主による売り物件登録、買主の購入希望条件などを登録させマッチングにより双方がメールなどで交渉を進めていきやすい環境を提供している。同じサイト内に業者もしくはサイト主宰者によるエスクローサービスとバイヤーズエージェントサービスの提供広告が出されており、売主、買主は必要に応じてこれらのサービス提供が受けられるシステムとなっている。個人間の直接取引の促進環境と業者による仲介サポートサービスがウェブサイト上に併存している。業者にしてみればネット化によりもたらされた今後の直接取引の流れを無視できないためこれらのニーズをウェブサイト上に積局的に取り入れる反面、それにより派生する業者のビジネスチャンスを確保したいという苦肉の策といえる。

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