不動産仲介の効果的EC(電子商取引)活用法
●はじめに
不動産仲介の中小業者もここにきてインターネット活用に本気になってきた。不動産流通業やハウスメーカーにとってインターネットによる成約率は飛躍的に向上しており、業者は益々、営業の比重をインターネットに傾斜させ、またネットビジネス展開を積極的にしないと今後、生き残れない時代を迎えたからだ。
各業者ともEC(電子商取引)を主体とした営業展開が必須になったが、これからeコマースを導入する新規参入業者は、ECを構築、導入した場合のユーザーのアクセス数、成約率が予測できないため「本当に儲かるか」という疑問を抱きその投資に慎重にならざるを得ない。高額の投資をしてECサイトを構築してもアクセスが1日1,000ページビューいかないケースも多い。膨大なコストを投じてECサービス提供に失敗するのは怖いし、かといって旧来のアナログ仲介では生き残れない、どうしたら良いかと悩んでいる業者が多いのではないだろうか…。
本コラムでは、不動産仲介業者が新規にECサービス提供などのネットビジネスに参入する手法とその活用法を述べる。
1、ECサイト構築の現状(コスト、効果など)
①不動産仲介業のECサービス提供の現状
●不動産仲介業者のWebサイトのレベル
- ホームページレベル
- 通常レベル
- 一部の大手業者レベル
物件一覧を分類・表示し、物件によって外観写真、間取りなどを表示する。予算、エリア、規模などの条件検索の機能はない。問い合わせフォームなどにユーザが入力し業者へメールが送信される
条件検索が可能で、ECサイトバックエンドの物件データベースからアプリケーションが該当物件を抽出しユーザー画面に表示するシステム構築がされている。該当物件の外観写真、間取り、周辺環境、その他のデータを表示する
上記の機能のほか顧客囲い込みのため顧客専用ホームページを用意し、顧客に希望条件をインプットさせ専用ホームページには希望条件にあう物件が毎日更新され表示される。同時併行で継続的に営業マンがメールなどでフォローしていくシステムを構築している。物件データ量も豊富である
●大手業者優位の現状
不動産仲介業のECサービス提供は、大手業者のサイトの優位性が目立ってきている。この要因として掲載物件量の豊富さがあげられるが、さらにSIPS(戦略的インターネット専門サービス)などへのアウトソーシング活用によるWebサイト差別化がある。SIPSは企業のインターネット事業の立ち上げを総合的に支援するサービスで、その内容は事業戦略の助言、情報システムの構築、ホームページのデザイン、マーケティング、ブランド戦略などのサービスの提供である。従来は戦略的経営コンサルティング会社、システム・インテグレーター、広告会社がこれらの業務を個別に受託していたが、ネットビジネスの迅速性のニーズによりワンストップ・サービスとしてSIPSが相次ぎ登場してきた。ホームページのデザイン面に注目すると人間工学、認知工学、心理学を応用しホームページ上のボタンの位置、形状、色などを決定する。また日本人の文字を読む目の動きに合わせたデザインなど科学的根拠で考案する。要はコストとWebサイトの効果が限りなく比例関係に近くなっているということだ。
いまやECサービス提供は、総合力勝負となってきている。Webデザイン・構成力、システムとしての使いやすさ、レスポンスの速さ(ユーザーは8秒待たない:8秒ルール)、アクセスが急増し負荷が増えたときシステムダウンしない堅牢性などが求められている。資金力で外部の有力なECサイト構築支援業者などにアウトソーシングできる大手業者のECサイトの優位性がさらに高まっている現状だ。
②ECサイト導入、運用の実状
「日経インターネットテクノロジー」が実施した企業のインターネット利用状況調査でECサイトサービス提供の実情が明らかになっている。本調査によると、
- ECサービス提供を始めている企業は18.5%検討中も含むと47.3%で半数近い企業が前向きである
- ECサービスでの月商は、10万円以下26.6%、100万円以下29.5%、1,000万円以下17.9%、1億円以下12.1%、10億円以下2.3%である
- ECシステムの中で割高感のあるサービスは独自開発のアプリケーション、アプリケーションサーバーソフトなどである
- 開発コストは100万円以下の企業が26.6% 500万円以下も含め55.5%と半数を超える。1億円以上かけた企業は5.8%ある
企業のECサービス提供への積極的姿勢が伺えるが、稼動中のシステムは思うような効果をあげていないケースが多いようだ。同誌では予算規模と月商やアクセス数がかならずしも比例していないとコメントしている。要はユーザーのニーズにマッチしたサービスをECサイトでいかに提供できるかである。ECサイトの構築には綿密な戦略を要することが解る。
2、導入パターン
不動産仲介業者による新規のECサイト導入を想定すると、最初からECサイト構築支援業者に全てアウトソーシングし、システムインテグレータにアプリケーションの作りこみを任せると数千万円のコストになるのが常識だ。とりあえず低予算で構築運用し、その後の営業展開によつてシステムを変更、増強していくというスタンスが現実的である。
ECサイト構築パターンは、ASP業者が登場する前は、自社または専門業者でシステム全てを作るか、楽天などの電子モールに出店するかの選択が殆んどだった。ECサイトのASPサービスの登場で多様なパターンを利用し導入することが可能な環境になった。導入パターンをそれぞれ検討してみよう。
①自社でECサイト構築の場合
●最近のECサイト開発環境
最近のWebを使用したシステムの構成は、Webサーバーから直接CGIプログラムを呼び出して処理を行う従来のものからWebアプリケーションサーバーを利用してロジックの処理やDBMS(リレーショナル・データベース管理システム)との連携を行う3階層型へ移行しており、ここ1、2年の特徴として構築・運用コストが低く、安定性も高いLinuxをサポートするアプリケーションサーバーの活用が目立つ。
アプリケーションサーバーの事実上の標準プログラミング言語としてJAVAの地位が確立しつつあり、この要因として企業向け規約J2EEを明確にすることで相互運用、互換性、プログラミング・モデルの共通化を実現してきたことがあげられる。マイクロソフトの提唱する次世代インターネット環境「ASP.NET」もC++、VBなどさまざまなプログラミング言語でWebアプリケーションを構築できるようになるためJAVAとWindowsに実装されるASP.NETが今後のWebアプリケーションの標準開発プラットホームとして活用されるだろう。
●不動産ECサイト構築
- 最初はなるべくコンパクトに、後からシステムを自由に拡張可能にする
- 技術進化、社会経済情勢などの変化が速いため3ヶ月以内の短期間で構築する
- ページ構成とサイトの操作性を充分検討しサイトの差別化を図る
- ECサイト構築業者を選択する基準として過去に不動産ECサイト構築、サポートなどの実積がある業者に依頼する
- 頻繁に発生する物件更新を簡単にユーザーサイドでできるシステムにしておく
正直な話、ECサイトを開設してもアクセスがどのくらいあるのか?成約はどれ位見込めるか…やってみなければ解らないため、最初はなるべくコンパクトな形でシステムを構築し、システムの初期投資にかかるコストを抑え事業の拡張にともなって、後からシステムを自由に拡張できるというのが理想的である
Javaなどによりコンポーネント化された不動産仲介モデルのビジネス・ロジックを数多くストックし、さまざまな要求もこれらの部品を迅速に組み合わせることで効率的な開発が可能になり、費用面で低コストを実現できる
②ASP業者の活用
①の場合、Webサーバー、データベースサーバー、アプリケーションサーバーにルーターなどのネットワーク機器、アプリケーションソフトの作りこみ、不正アクセス防御のファイアウォール等の諸費用で軽く1,000万円は超える。将来が不透明な投資としては現実的でない。ECサイトのフロントエンド、バックエンド部分のいずれかをアウトソーシングし後は手作りでコスト削減というやりかたもあるが殆んどの仲介業者は、不慣れでスキルがないため薦められない。
低額な初期費用と月額使用料で自社でECサイト構築したのと同機能のサービスを提供するのが昨春頃から登場してきたASP業者である。まずASP業者を簡単に定義し、不動産仲介に特化したASP業者を紹介する。
●ASP業者とは
ASPとはASP(アプリケーション・サービス・プロバイダー)と呼ばれる企業が提供するアプリケーション・ソフトの提供サービスで、インターネット技術を活用し、ネットワーク経由でソフトの機能だけを月額払いで顧客企業に提供。サーバーの運用や管理はすべてASPが対応し、ソフトがバージョンアップしてもほとんど追加費用を取らない。ソフトの機能だけを使い、経営環境が変化して別のソフトが必要な場合も、ハードの負担を考えずにすぐに切り替えることができるし、端末はブラウザまたはエミュレータを動かす機能さえあればいいので低スペックの古いマシンでよく、端末のライフサイクルが永くなる。顧客企業にサーバなどを管理する人員も不要だ。いわばIT資産の所有から利用という発想の転換、情報システムの「賃貸」と言えるサービスである。
●不動産仲介ASP業者
不動産仲介ASP業者の生成過程としては、不動産仲介のECサイト構築を手がけてきたソフト開発業者がストックした構築ノウハウを汎用化し、ASPサービスの提供に乗り出したケースや、自社でECサイト構築運用した経験をもつ大手業者の担当スタッフが独立してASPの業態にしたもの、また大手業者がECサイト構築支援業者と共同でポータルサイトを構築し、当該サイトにビルトインした形態で他の仲介業者にASPサービスを提供するものなどがある。サービス内容は初期費用、月額使用料に比例して多様となる。
ASPサービスを賃貸に限定して無料で提供している業者もいる。DOREAL NETは、同社のサイトでASPサービスを受ける業者の物件を公開、ユーザーは、パソコンの画面上で間取り、家賃、地域などの条件検索が可能で条件該当物件にヒットすればユーザーが担当業者(ASPサービスを受ける業者)とメールなどでやり取りできる。掲載物件数に制限がありホームページレイアウト、デザインが画一化されているが、活用すれば不動産仲介のeコマースを体験できる。
リアルジョブは、同社のサイト「すまいらんど」でASPサービスを受ける業者の物件を公開、ユーザーは条件検索が可能、希望物件にヒットすれば、担当業者(ASPサービスを受ける業者)へ内覧予約、問い合わせなどのボタンをクリックしメールなどでやり取りできる。さらに賃貸、売買とも契約、解約などの日常業務とメディア掲載の完全連動を実現(タイプMを除く)。
重要事項説明書、契約書の出力、毎月の賃料の出納業務、解約・退去の精算業務などにも対応。更新予定、未収金の状況など把握できる帳票類も備わっている。売買中心の業者にはタイプB、賃貸中心の業者にはタイプCなど、業務内容に合わせて6タイプのサービスが選べる。
00年11月中旬に不動産情報を提供する ウェブサイトを開設した不動産インフォメディア株式会社は、三井不動産販売株式会社の100%出資による不動産情報を総合的に取り扱う会社であり、インテル、二フティなど6社と提携し不動産流通のポータルサイトを構築した。同社のサイトによると「不動産情報提供サイトの開設は、物件情報にかかわる情報を可能な限り提供するとともに、検索・比較・営業マンや専門家とのネットコミュニケーションなどの住まい選びのプロセスをオールイン・ワンでパッケージすることで、不動産流通の透明性を上げるための機能を提供してまいります。」としている。
当該サイトは、担当営業マンとユーザーの各専用ページ上で双方向での物件の検討ができるなどの斬新な機能を有し、このポータルサイトにASPサービスを受ける業者の物件を公開するなどして一般の不動産流通事業者にアプリケーション機能をASP提供していく。現時点で同社のASP事業はまだ実施されてないため具体像は見えないが、先進的情報通信関連企業と大手不動産会社の提携により新たな不動産流通ビジネスモデルを展開するため不動産流通業界に与えるインパクトは大きい。
以上、不動産仲介ASP業者を紹介した。ASPサービスは開始されたばかりでなので機能のカスタマイズが困難でユーザーのアクセスログを戦略的に解析する機能がないなど課題も多い。開発環境の進化、整備でこれらの課題も解決していくだろう。
今後、中小業者は、単独では資金、物件量で大手業者に対抗できないためASP業者によりECサービス提供を実現し、さらに有力なポータルサイトに収斂し、業界の再編、統合が進行していくと思われる。
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