土壌汚染 不動産業者ができる調査・契約手法
1、土壌・地下水汚染とは
土壌が有害物質に汚染されていると直接土壌に接触する、農作物などの食品や水が有害物質に汚染されていて、それを食べたり、飲んだりすることで、人間の身体に少しづつ蓄積された場合、内臓や神経系統の障害や癌の原因になったりする。国内でも古くから土壌・地下水汚染問題はあった。
1880年、重金属による土壌汚染のため農作物の被害が発生した「足尾鉱毒事件」や昭和30年代頃から発生した「水俣病」は水銀が原因だった。大正時代にはカドミウムが原因で発生した「イタイイタイ病」がある。IC工場やクリーニング店で使用されていた有機塩素化合物による汚染が、1980年初頭明らかになり、その後の調査で全国的に広がっていることがわかった。さらに現在、大きな問題になっているのが廃棄物による土壌・地下水汚染である。
土壌汚染の原因は不適法保管、不適法処理などによる人為的な汚染、事故災害による汚染、土壌中の成分として、重金属など特定の元素が多く含まれていたり、海底堆積物中にふっ素が含まれている場合などの自然的要因によるものや埋立てに起因するものがある。
2、法成立の経緯
土壌が有害物質により汚染されると、その汚染された土壌を直接摂取したり、汚染された土壌から有害物質が溶け出した地下水を飲用すること等により人の健康に影響を及ぼすおそれがある。大気汚染や水質汚濁に代表される他の環境問題に対して、次々に対策が制度化されてきたが、土壌汚染についてはこれまで環境基準が設定され、農用地の対策法が施行されるにとどまっていた。近年、企業の工場跡地等の再開発等に伴い、重金属、揮発性有機化合物等による土壌汚染が顕在化してきており、特に最近における汚染事例の判明件数の増加は著しく、ここ数年で新たに判明した土壌汚染の事例数は、高い水準で推移してきており、土壌汚染の具体的対策の法的な拠り所が求められていた。土壌汚染対策法はこうした社会的背景のもと、成立・施行へとつながった。これによって典型7公害については対策の制度がすべて整ったことになる。
3、土壌汚染対策法の概要
03年2月15日土壌汚染対策法が施行された。同法の概要は、特定の有害物質を取扱った工場や事業所の敷地であった土地の所有者に土壌汚染の調査を義務づけ、その結果を報告させる。また、汚染が判明した土壌は都道府県が「指定区域」として指定・公示し、指定区域内の土壌が健康被害を招く恐れがある場合には、汚染原因者が解っているケースを除き、原則として土地所有者に覆土などの対策を義務づける、というものだ。つまり、汚染原因者等の責任の明確化と土壌汚染による健康被害の防止に力点が置かれている。
汚染の可能性がある土地を環境大臣指定の調査機関が調査し、土壌汚染に係る基準に適合しない場合は、都道府県の指定区域として公示される。特定有害物質としてはカドミウムなど、26の物質が制定された。一度汚染された土壌は、浄化されないかぎり有害物質が残留するため、周辺住民の不安を解消し、健康被害を防ぐ措置として土地所有者等(汚染原因者が判明している場合は汚染原因者)は、覆土や舗装、浄化などの措置をとらなければならない。指定区域内の土地の形質変更には、一定の制限がかかるが、汚染の除去が確認されれば、指定が解除される。同法には、土壌汚染対策を推進するため、助成や助言に当たる法人を指定し、ここに基金が設置される旨の規定も盛り込まれている。
▼土壌汚染対策法の要点
- どのような有害物質を調査するのか
- どこの施設を調査するのか
- いつ調査するのか
- 有害物質使用特定施設を廃止したとき
- 知事が土壌の特定有害物質による汚染により健康被害が生じる恐れがあると判断したとき
- 誰が調査するのか
- どのように調査するのか
- 土壌汚染があったら
- 指定区域になったとき取られる措置
- 知事は指定区域内の土地の土壌汚染により人の健康被害が生ずるおそれがあると認めたときは土地所有者等に対し汚染の除去等の措置(立ち入り禁止・覆土・舗装(直接摂取の場合)汚染土壌の封じ込め、浄化工事)を構ずべきことを命じることができる。
- 汚染原因者が明らかな場合であって、汚染原因者に措置を講じさせることに土地所有者等に異議がないときは①によらず、知事は汚染原因者に汚染の除去等の措置を講ずるように命じることができる。
- 汚染除去等の費用の請求
- 土地の区画形質の変更の届出及び計画変更命令
- 指定調査機関
- 指定支援法人
- 指定区域の解除
法2条1項に定める「特定有害物質26項目」であり、重金属等(カドミュウム、六価クロム化合物など)、揮発性有機化合物(ベンゼン、トリクロロエチレンなど)、農薬(PCBなど)
有害物質を使用する特定施設を有する土地。過去から現在までに何らかの有害物質を使用・貯蔵生産・処理していた工場、事業所
土地の所有者、管理者、占有者
調査は、特定有害物質の性状により、重金属等は土壌含有量と土壌溶出量の調査、揮発性有機化合物は土壌ガスと土壌溶出量の調査、農薬等には土壌溶出量調査を実施する。具体的には汚染が存在する可能性が低い部分を除き100平方メートルに1地点以上の密度で調査する。重金属等や農薬等の場合、多くは表層部分に存在するので表層から50cmまでの土壌を採取。揮発性有機化合物の場合に実施する土壌ガスは約1mの地中で採取調査する。土壌ガス調査で汚染が認められた場合は、ボーリングなどによる地下水汚染調査、土壌溶出量調査を実施する必要がある。
知事は土壌汚染のある土地の中の一部、または全部を「指定区域」として指定、公告する。指定区域台帳に記載し住民に公開する。
①の命令を受けて土地所有者などが汚染除去等の措置を講じたときは汚染原因者に要した費用の請求ができる。
指定区域内において土地の形質変更をしようとする者は、都道府県知事に届け出なければならない。都道府県知事は、その施行方法が基準に適合しないと認めるときは、その届出をした者に対し、施行方法に関する計画の変更を命ずることができる。
土壌汚染状況調査の信頼性を確保するため、技術的能力を有する調査事業者をその申請により環境大臣が指定調査機関として指定する。
土壌汚染対策の円滑な推進を図るため、汚染の除去等の措置を講ずる者に対する助成、土壌汚染状況調査等についての助言、普及啓発等の業務を行う指定支援法人に関し、基金の設置等の必要な事項を定める。
知事は土壌の特定有害物質による汚染の除去により指定区域の全部又は一部について環境省令で定める基準以下になった土地であると認めるときは指定区域解除とし、台帳から消される
4、土壌汚染対策法以外の土壌汚染物質
26物質が「特定有害物質」として法に定められている。この特定有害物質以外の物質で土壌汚染問題の対象となるのは、灯油・ガソリンなど油類、ダイオキシン、特定農薬(POPs条約項目)である。
■油類
油類は環境基準に明確に規定がなく成分としてベンゼンだけが特定有害物質になっている。油類は誰が見てもわかり、油膜、油臭が確認されると広義の汚染土壌となり、ガソリンスタンド、製油所、金属工場などの跡地では土地取引では買主の要求で浄化化工事が行われるケースが多い。
■ダイオキシン
ダイオキシン類対策特別措置法、PCB特別措置法によりダイオキシン類やPCBに汚染された土壌の修復には特別の配慮が求められるようになる。米国のように放射性物質に汚染された土壌は存在していない。コプラナーPCBはPCBの中に数パーセント程度含まれている成分で、ダイオキシン類と似た化学構造をしており、毒性も似ているため、ダイオキシン類対策特別措置法でダイオキシン類と定義されている。PCBは土壌汚染対策法で特定有害物質に指定されている。
■POPs(残留性有機汚染物質)
国連環境計画(UNEP)において12種類が「残留性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutant=POPs)」に指定された。 残留性の高い農薬の製造・使用の禁止、排出の削減に関する国際条約「POPs条約」で規制される農薬類のことをいう。POPsの対象となっている物質は12種類あるが、日本で製造・使用されたものはそのうちのDDTなど6物質であり、この6物質を日本におけるPOPs条約の対象としている。
日本ではPOPs条約をうけて「埋設農薬調査・掘削等暫定マニュアル」で、その調査方法や保管方法が環境庁から示されている。いずれ、法律として規制される動きもあり、将来土壌汚染の対象物質になると予測される(日経エコロジー)。
法所定の「特定有害物質26項目」に加え油、ダイオキシン、POPsなどを不動産取引では調査項目とすることが多い。「土壌汚染に関わる不動産鑑定評価上の運用指針1」では2条1項の特定有害物質を中心に各自冶体の条例等およびダイオキシン類対策特別措置法において対象とする有害物質が各法令等の基準値を超えて存在すれば価格形成に大きな影響があるものとする。」とし自然に由来するものを含み法令等による調査義務がないことのみで土壌汚染が無いとはできないとしている。
5、不動産取引と土壌汚染問題
不動産取引に伴う調査として土壌汚染対策法が施行された。相次ぐ土壌汚染による被害報道や、汚染が存在したときその調査期間、浄化コストが高額なため売買当事者などの負担や、損害は計り知れない。環境省外郭団体の土壌環境センターは法規制対象の工場、クリーニング店、ガソリンスタンドなど汚染の可能性のある土地は全国に計32万ヶ所あると試算している。マンションなどの開発会社はもとより、仲介業者も土壌汚染が稀有のケースでなく、日常的に発生するというリスクであることを充分に考慮して不動産取引を行なう時代が到来した。
土壌汚染に関する法律としては土壌汚染対策法、水質汚濁防止法、廃棄物処理法、農薬取締法、地方公共団体の条例など多岐にわたるためこれらに精通し、調査・浄化のマネジメント業者とも連携をとりながら、汚染のリスクレベルに応じた調査と契約内容のいくつかのシュミレーションを迅速に行なわなければならない。
以下で、売買当事者に考えられるリスクと対応、業者独自で可能な調査、業者の取引に際してのリスク、対応などにつき述べる。
(1)不動産売買に絡んだ最近の事件
最近、国内でマンションなど工場跡地など建設する数が増え土壌汚染の事実が明るみになり、建設途中のマンションを取り壊す事態や、マンション開発を途中で凍結するニュースを目にするようになった。また企業再編のために遊休不動産の売却やM&A(合併および買収)が増加しているが、土壌汚染のリスクの顕在化で、不動産取引が円滑に行われない場合が出てきている。
土壌汚染リスクは、工場跡地等の大規模不動産買収等に関する大きな障害の一つとなるため、不動産売買の現場では、すでに汚染物質の除去措置の責任は売主にあるとの認識が定着しつつある。
- 土壌地下水汚染が原因で、建設途中のマンションが完成間近に取壊し
- マンション建設用地で高濃度の六価クロム汚染が発覚、開発凍結
- 持田製薬は製薬拠点の王子事業所を閉鎖、マンション大手大京に売却した。大京側で調査したところ土壌汚染が発覚し、持田が売却額と同額の12億円で買い戻す事態になった。土地は今も更地のままだ
業者は杭打ち事業のとき地下からコンクリートなどの廃材がでたため土壌の調査を行なっていた。ベンゼンが土壌環境基準の260倍、トリクロロエチレンが同基準の22.7倍、PCBほか全部で9種類の有害物質が検出された。土壌の飛散防止策を取って建設を続行した。建設工事が70%進行した時点で再調査したら土壌環境基準の15倍のベンゼン、3.3倍のジクロロエタンが検出された。業者は建物を取り壊した。産業廃棄物は1970年頃埋められたが当時は産業廃棄物の基準も無く誰が捨てたか特定できなかった。
東京都文京区のメッキ工場跡地で環境基準値以上の六価クロムが検出され、浄化工事が行なわれたがその後も黄色の土が敷地内に残っているため近隣住民が土壌を採取し、分析したら高濃度の六価クロムが検出され開発事業は凍結された。
(2)売買当事者のリスクと対応
土壌汚染の程度によっては、浄化費用が土地価格を上回るケースもある。汚染の除去等の措置には立ち入り禁止・覆土・舗装(直接摂取の場合)汚染土壌の封じ込め、浄化工事があるが、土壌汚染対策法上「浄化」以外では台帳から指定地域の抹消をされないこと、将来売却する場合に、浄化工事以外の措置では価格の減価程度が予測できない。さらに将来の法改正で、予測できない大きな負担が生じるかも知れないなどの懸念もある。土壌汚染に対する買い主の意識は相次ぐ汚染に関する報道などもあり急速にシビアになっている。法または条例の適用の有無と、現実の不動産取引における対応は、この種のリスクは予測困難であり、買い主の土壌汚染に対する懸念のレベルにより厳重な処置が予想される。以下売主、買主夫々につきそのリスクと対応策を述べる。
■売主のリスク
(社)日本不動産協会は01年11月ならびに02年11月に指針として「マンション事業における土壌汚染対策について」において、マンション事業用地の売買に関して「土壌汚染の調査ならびに浄化処理は原則として売主が行うべきである」としているが、売主は善意・無過失であっても、買主に土壌汚染のために損害が生じた場合には民法570条の瑕疵担保責任を負う。つまり、汚染除去費用を負担することは当然のこととして買主に対する損害賠償責任を負い、買主が契約の目的を達することができない場合には契約が解除されることになる。
また、土壌汚染対策法においても汚染除去措置の責任と費用負担についてはまず、その土地の現在の所有者等にあると定めて、原因者が判明した場合にはその物に汚染除去等の費用を請求できるものとしている。
さらに土壌汚染調査に基づき汚染除去措置を売買契約前に行ったケースにおいても環境基準対象外の有害物質が存在したり、土地の引渡し後に新たな汚染物質が発見されると民法570条の瑕疵担保責任を生じる。このリスクを回避するには、環境基準を満たすのは最低限度であるという認識のもと、売買契約内容に瑕疵担保責任の範囲や期間等を制限するなどの対応が求められる。
■買主のリスク
- 土壌汚染除去措置方法等に係るリスク
- 第三者被害に係るリスク
- 法律等の改正に伴うリスク
不完全な土壌汚染調査がなされた場合、引渡しを受け建築工事に着手したら、調査段階では出なかつた有害物質が出てきたケースには、売主に対し瑕疵担保責任を追及できるが、建築工事の期間延長に伴う損害さらに分譲など行った場合は第三者への損害賠償も発生する。
このようなリスクに対しては、損保会社のなかには、環境専門家による所定の調査を実施しこの調査で一定の評価をされた土地について保険加入が可能と判定された土地につき、一定期間以内に汚染発覚時の土地所有者が高額な費用を要する汚染の調査浄化義務を負う場合、同保険により土地所有者は従来の環境汚染賠償責任保険で補償する。隣接地や周辺環境への損害賠償に加え、所有地の浄化調査費用もあわせて補償されるという保険商品を出している。売主側に最近各保険会社が始めたこの種の土壌汚染に係る「土壌汚染浄化費用保険」への加入を促すことも求められる。
売買対象土地についてのみ土壌汚染調査を行い、対象土地については汚染除去措置が完全に行われた場合であっても、引渡しを受けた後に浄化したはずの土壌汚染を原因とする地下水汚染や周辺の土地に対する土壌汚染被害が発覚する場合がある。この場合、損害賠償責任は第一義的にはその時点における所有者である買主に降りかかつてくる。買主自ら周辺状況まで調査をしておく必要がある。
買主が引渡しを受けた時点では環境基準等を満たしていたがその後、新たに建物を建設しようとした場合に土壌環境基準や地方自治体の条例基準などが改正されて、新たな対策コストが必要になるリスクがある。
6、土壌汚染と土地取引での仲介業者の対応
(1)依頼時における仲介業者の初期調査
- 土地取引の依頼時点で、対象地の汚染の可能性を調査する
- 土地の利用履歴を現在の所有者からヒヤリングし、汚染の可能性をチェックする
- 官公署の担当課で土壌汚染対策法、水質汚濁防止法、各自冶体の条例・要綱指導指針など公的資料で地歴調査をする
- 業者独自で調査可能な現地調査や付近聴き取りなどの調査を行う
以上の調査で、土壌汚染の有無、その可能性のレベル等がある程度判明する。
※「不動産取引のための土壌汚染対策マニュアル」から引用
A、公的資料調査
- 指定区域に指定されているか
- 知事から調査や措置の命令が出ていないか
- 特定施設、有害物質を使用する特定施設の土地(工場、事業所)ではないか
- 水質汚濁防止法(第15、16、17条)地下水の水質汚濁状況の常時監視結果の公表内容の確認(対象地周辺に基準値を超える結果が認められ地下水流の方向から、対象地への影響が否定できなければ「白」といえない)
- 各自冶体の条例・要綱指導指針の確認
▼法律別公的資料調査方法
- 土壌汚染対策法
- 指定区域(第5条)
- 特定施設
- 有害物質使用特定施設か(第3条)
- 措置命令の有無と内容確認
- 水質汚濁防止法
- 下水道法
- 各自冶体の条例・要綱指導指針
土壌汚染あり
土壌汚染の有無の判断はできない→「白」とはいえない
可能ならば、その施設の種別に応じた排出可能性のある有害物質を把握する→土壌汚染の可能性は高い(有害物質を適切に管理している施設では汚染は発生しないが、この判断は専門性よりみて困難)
汚染の除去等の措置(立ち入り禁止・覆土・舗装[直接摂取の場合]汚染土壌の封じ込め、浄化工事)
地下水の水質汚濁状況の常時監視結果の公表内容の確認(対象地周辺に基準値を超える結果が認められ、地下水流の方向から、対象地への影響が否定できなければ「白」といえない)
【資料調査】
①特定施設置(使用・変更)届書
②特定施設使用廃止届出書
③水質測定記録表
特定施設を各自冶体で確認
【資料調査】
①公共下水道使用開始(変更)届
②特定施設設置届出書
③特定施設使用届出書
④特定施設の構造等変更届出書
⑤特定施設の使用廃止届出書
担当部署での確認
特定施設とは次の各号のいずれかの要件を備える汚水または廃液を排出する施設で政令で定めるものをいう。
- カドミュウムその他の人の健康にかかる被害を生ずるおそれがある物質として政令で定める物質を含むこと
- 化学的酸素要求量その他の水の汚染状態(熱によるものを含み、前号に規定する物質によるものを除く)を示す項目として政令で定める項目に関し、生活環境に係る被害を生ずるおそれがある程度のものであること
有害物質使用特定施設とは特定有害物質の製造、使用又は処理をする水質汚濁防止法の特定施設をいう。
特定地下浸透水とは第二項第一号に規定する物質(以下「有害物質」という)を、その施設において製造し、使用し、又は処理する特定施設(指定地域特定施設を除く。以下「有害物質使用特定施設」という)を設置する特定事業場(以下「有害物質使用特定事業場」という)から地下に浸透する水で有害物質使用特定施設に係る汚水等(これを処理したものを含む)を含むものをいう。
B、業者の独自調査
「土壌汚染に関わる不動産鑑定評価上の運用指針1」および「土壌汚染と対応の実務」を参考にした。
■登記簿
土地は所有者、建物は所有者、種類から工場用途の履歴が推測、判別できる。工場以外の倉庫、店舗等の場合も汚染される可能性が高い業種と特定、推測できれば可能性を疑う。
■住宅地図等
土壌汚染される可能性がある業種を確認(図書館で時系列に地図調査)。空き地で産業廃棄物を埋め、その上に覆土した場合、判別困難になる(昭和46年「廃掃法」制定以前はかなりこのケースがあった)。
■航空写真
地形を見るのには有効であり、住宅地図では焼却炉の存在や穴を掘って埋めた様子が分からない場合に、ある程度判別できる。空き地で産業廃棄物を埋め、その上に覆土した場合、判別困難になる(昭和46年「廃掃法」制定以前はかなりこのケースがあった)。
■ヒヤリング
当該物件を購入した時期、そのときの周辺状況(工場、倉庫の有無)当該地が工場、倉庫であった、周辺に工場・倉庫があった場合時系列で聴き取る。
- どんな仕事をしていたか(時系列的に業種・作業の分類・どんな製品を作っていたか)
- どんな物質を使用していたか(薬物名、物質名、製品の特性)
- 原料保管場所、廃液・廃棄物置場の履歴
- 事故はなかったか(爆発、流失、火災、水害、地震)
- 隣接地、周辺にどんな事業者が操業していたか
有害物質が過去に工場のどの位置(どの工程)で、どのくらいの量が、どのような取り扱い(ポンプで入れた、人手で入れたなど)で用いられたかを現場聞き取りや資料等調査によって把握
有害物質がまとめて置かれる場合が多いことや、廃棄物の場合では、もう不要であるという感覚から取扱いが乱暴になったり、収集・運搬業者任せで、その業者の扱いが雑でこぼれてしまったりという事例も多く、土壌・地下水の汚染調査においては最も注意する場所の一つ。使用場所と同様に、保管場所等も過去と現在では変わっていることがよくあるので、よく調べておく必要がある。
所有者などさらに地域の事情に詳しい地元精通者からヒヤリングする。工業地帯であれば、周辺の工場の状況も考慮しておく必要がある。周囲の工場の事業活動によっては対象地が少なからず影響を受けている場合がある。例えば、大規模に地下水を揚水して工業用水として使っている場合は、対象地の地下水の流れる方向に影響が出る場合もあり、水田の真ん中に作られた工場が対象地であった事例では、春先に周辺において一斉に農業用水として地下水をくみ上げたため、その時期の地下水の流れる方向が大幅に変わったことがある(不動産取引のための土壌汚染対策マニュアルを参照)。
■土地の使用履歴
同一の土地でも工場立地前には違う用途であったり、別の会社の工場であったりする例がある。そのため、現在だけでなく、過去の土地の使用履歴についても調べることが、汚染が後から発見され工事に支障が出ることを防止するうえで重要。工場を取り壊し新しい工場を建てた(スクラップ&ビルド)履歴があった場合には特に注意が必要で、過去の工場であった地盤以上に建屋や設備の残がい、地盤以下に埋めたものや染み込んだものがそのまま残っている場合もあり、これに対応した調査をしておかないと、現在の表層には何もないので一気に掘削したら、2m先から汚染物が出て工事が継続できなくなったという事例も多々ある。
■地形情報
調査地を含む周辺の大きな範囲の地形については、地形図(1/50,000、1/25,000など)から知ることができる。地形が低地であるのか、丘陵なのか、埋立地なのか、河川敷であるかを見ることで、地下水の流向や地質情報(礫や砂が多いか、粘土が多いか)などを大まかに推察することができる。
また、造成等で人工的に形成された地形については、それ以前の地形図や航空写真などにより重要な情報が得られる場合がある。明らかにどこから土を持ってきていると判断できる場合には、盛土の検査が必要になる場合があることや、元の地盤を調査する際には盛土を考慮した調査計画を立てて対応する必要があることが分かる(土壌汚染と対応の実務)。
■地質情報
汚染が拡散する状況は、基本的に地質状況によって支配されると考えてよい。例えば、粘性土では地下水が通過しにくいうえ、汚染物質の吸着能力も一般的に高く蓄積されやすいという性質がある。また、砂質土や礫質土では、これとは逆に地下水が流れやすく、それとともに汚染物質が拡散しやすいという特徴がある。このように地質についての情報は重要だが、地形図を見ることである程度推測することができる。例えば、河川敷であれば礫や砂が多いとか、台地であればローム層、段丘砂礫層が存在する場所であるか、過去に水田であった場所であれば粘土やシルト層が分布するであろう、といったようにです(土壌汚染と対応の実務)。
■現地調査
不自然な盛土、埋立地、放置物、焼却施設、油漏れ、臭気、表土の変色、植物の枯れ死、不自然な窪地、野積みドラム缶、焼却灰の処理後、排水汚水ピット、外部への排水、人工池、排水溝、井戸の配置、地下タンク、危険物貯蔵保管庫、化学物質の取り扱い、保管庫床面積処理等
以上の仲介業者による独自調査を経て土壌汚染の可能性が否定できないものは専門業者の調査を委託するのが望ましい。
(2)専門業者(指定調査機関)による土壌汚染調査
土壌汚染調査は、一般的に3つの段階(フェーズ)に分かれている。フェーズ1調査は、汚染の可能性を評価する簡易判定。対象となる土地を過去数十年にも遡り古地図や地歴を調査し、現地へ足を運び、関係者にヒアリングするなどして得られた情報や対象地域の地質・地下水の状況などの資料に基づき、汚染の可能性を評価する。フェーズ2調査では、汚染の内容や経路、規模などを把握する。現地の土壌を実際に化学分析し、定量的に評価する。フェーズ3調査では、詳細に調査したうえで浄化方法を選定し、費用を算定する。最近は、フェーズ2より割安で、簡易な化学分析などをするフェーズ1.5が人気を集めている。
調査費用は、資料などの調査が中心となるフェーズ1調査でさえ、最低でも100万円近くかかると言われる。そのため、有望な新ビジネスとして多くの企業が土地の土壌汚染調査事業に参入している。土壌汚染対策法に基づく土壌調査ができるのは、環境省が認定した指定調査機関だけだ。ただ、認定要件は届出による簡易な書面審査が中心のため、現在、申請している約900社の大部分が認められる見込みだ(日経エコロジー)。
(3)仲介業者あるいは指定調査機関による調査後の処理
調査が終わった時点で、次は契約締結前に調査結果を踏まえ、下表のようなケースごとに契約内容等を取り決める必要がある。
※「不動産取引のための土壌汚染対策マニュアル」から引用
(4)仲介業者のリスクと対応
①土壌汚染についてのリスクは、最悪で土地価格の数倍の土壌汚染対策費を要し、汚染をおこした企業などに費用を追求しようにも汚染の因果関係などを証明しなければならず、現実には損害回復が困難である。そのリスクの大きさを考えたとき売買当事者、相手方の仲介業者に自らが調査などで知りえた土壌汚染の根拠について明確に知らせなければならない。すなわち売主、買主に土壌汚染を正確に認識させ、リスクがあることの注意を喚起することが業者として重要である。その上で汚染調査、汚染除去措置の必要性などを協議し、合意の上で売買契約内容を決める。
土壌汚染の事実を意図的に隠した場合は宅地建物取引業法47条1号違反になる。また相手に知らせず汚染が発見されトラブルが発生した場合は、宅地建物取引業法31条1項に基づき売主・買主から損害賠償を請求される。
② 宅地建物取引業法45条は守秘義務を業者に課しているが、同法45条の「正当な理由がある場合でなければ」という記載がある。土壌汚染の事実を買主に知らせることはこの正当事由に該当すると解される。さらに仲介業者には同法31条1項の信義誠実の義務があり、同法47条1項の仲介業者の相手側にとって重要な事項については相手側に告げなければならない重要事項報告義務がある。
③ 土壌汚染に関する法律としては土壌汚染対策法、水質汚濁防止法、廃棄物処理法、農薬取締法、地方公共団体の条例など多岐にわたるが、たとえば、土壌汚染対策法施行規則附則2条においては300㎡以下の面積の土地は経過措置として土壌ガス調査、土壌溶出量調査を要せず土壌含有量調査のみでよい。また土壌汚染対策法附則3条では法施行前に使用が廃止された有害物質使用特定施設に係る工場、事業上であった土地は適用外である。つまり法3条による汚染状況調査が一部または全く適用外のこれらのケースも法4条で知事が人の健康に係る被害が生ずるおそれがあると認めれば汚染状況調査の対象になリ得る。つまり買い主に不測のリスクが発生する可能性がある。仲介業者は買い主にリスクが内在することを告げ、必要に応じ汚染調査、汚染除去措置などを協議し、契約内容等で適切に対処する必要がある。
これらの法以外にも買主が一般に嫌悪するものとして知られている物質もある。油類は環境基準に明確に規定がなく成分としてベンゼンだけが特定有害物質になっているが油類は誰が見てもわかり、油膜、油臭が確認されると広義の汚染土壌ともいえる。仲介業者は規制対象外の汚染,事項を無視して売買取引に対処することは買主からのクレームを招くリスクがある。
7、土壌汚染地の鑑定評価
土壌汚染のある土地の評価を行う場合には、土壌汚染がない状態を想定した場合の土地価格から浄化費用を控除し、さらに土地利用阻害減価とスティグマ(stigma)による減価を行う。
浄化費用・方法・期間の査定は浄化ビジネスの専門会社(指定調査機関)になるが、J-REITとKWIの共同プロジェクトにおいてはフェーズ2レベルの調査結果を必要としている。
廣田祐二氏の「土壌汚染と不動産鑑定士」という論文では、Stigmaは、「土壌汚染の存在(あるいは過去に存在した)に起因する心理的な嫌悪感から生ずる減価要因」をいう。最広義には「土壌汚染に起因する不確定要素(リスク)から生ずる全ての減価の根拠」を言う。
基本的に、浄化の前後でStigmaの大きさは変化する。「浄化後」は、単純に言えば、過去に対象地が有害物質に汚染されていたという事実を嫌悪することに基づく減価であり、浄化直後のStigmaを最大とし、一般に時の経過とともにその減価は逓減していくものと考えるのが適当である。それに対して、「浄化前」は、現に有害物質が実在するので、健康に害が及ぶリスク等が少なくとも浄化後に比べて存在するため、一般にStigmaによる減価は、浄化後に比べて大であると考えるのが適当である。
Stigmaを構成する要因としては、有害物質の種類と量(汚染の度合い)、浄化方法・期間、一般社会における認知度、地域の土地利用や対象地の最有効使用等が考えられます。また、その具体的な減価率の査定方法に関しては、理論的には種々考えられますが、現時点ではそれに必要な市場データ(土壌汚染地の取引事例等)がほとんどありません。従って、当面は、不動産鑑定士が嫌悪・忌み施設への接近性等で経験的に採用している数値や判例等を参考に、市場に成り代わってStigmaによる減価を総合的に判断する必要がある。
■参考文献
「不動産取引のための土壌汚染対策マニュアル」新日鉄都市開発編、「土壌汚染と不動産評価・売買」森島義博ほか著、「土壌汚染と対応の実務」(社)土壌環境センター編、「有害廃棄物による土壌・地下水汚染の診断」環境産業新聞社、月刊不動産鑑定「土壌汚染と不動産鑑定士」廣田祐二、「土壌汚染に関わる不動産鑑定評価上の運用指針1」日本不動産鑑定協会調査委員会
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