実現予定の電子政府(デジタルガバメント)の概要
IT基本法の成立などで急速に注目を集めている03年実現予定の電子政府の誕生は、国民生活や産業界に大変革をもたらす。現在、民間企業では電子政府の取り組みに対応して技術提供やシステム構築請負の動向が活発である。「GtoG(省庁や地方自冶体間のやり取り)」「GtoC/B(認可申請)」領域での技術などのディファクトスタンダード確立を目的にした動きである。電子政府構築の汎用技術などを民間に応用することで新たなビジネスも発生する。また産業界で急速に進行している「BtoB」と電子政府によるeガバメントが融合し社会・経済システムを根底から変革することも予測される。この稿で電子政府の概要とそのインパクトを述べる。
■電子政府の定義
電子政府とは、官公庁や自治体に対して行う申請や届出の手続きの負担を軽減したり、知りたい情報をすぐ引き出せる情報公開など国民に対する行政サービス内容の充実、高品質化に対する要求を電子化によって実現することを目的としている。
■電子政府のメリット
●国民
現在は役所の窓口に足を運ばなければならない税の申告や各種の届け出などが、インターネットを通して自宅やコンビニ、職場、公共施設などから簡単に行えるようになる。ネットワークは24時間、年中無休のため曜日や時間を気にすることなく、自分の都合に合わせて手続きを済ませることができる。さらに、国の省庁や自治体の情報もネット上で簡単に引き出せるようになるほか、行政に対する意見、注文もネット上で伝えられるようになる。これによって、住民と行政との距離が縮まり、住民の行政参加の促進や、住民の側に立った行政の実現に役立つ。
●企業
インターネット経由でできるため役所に出向く時間、窓口待ち時間が不要になるので届け出、申請書類作成に要した時間、費用を削減できる。従来、コストと時間を要していた許認可業務も迅速になる。情報公開により行政が有するビジネスに有益な情報入手も可能となる。
●行政
行政事務の効率化はもとより、ワンストップサービスに代表される住民の利便性の向上など、これからの行政サービスの広域化・高度化に対応した新しい行政情報システムが可能となる。また、ICカードや指紋認証などを活用した職員の認証を行う電子認証基盤やワークフロー技術などを採用することにより、組織を横断する文書管理や電子決裁システムにおける信頼性の高いシステム構築が可能となる。
■電子政府誕生へのシナリオ
●ミレニアム・プロジェクトで提起された電子政府
99年3月政府は首相直轄組織として産業競争力会議を発足させた。当該会議の議論の結果、ミレニアム・プロジェクトと呼ばれる官民協力の重点政策が同年7月決定された。このなかに03年目標に世界最高水準の電子政府実現が盛り込まれた。
●IT基本法
11月29日、日本独自の情報技術(IT)社会実現をめざす高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)が参院本会議で成立した。首相を本部長とする「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部」の設置や、政府のIT政策を具体化する「重点計画」の策定が明記されている。
同法は「世界最高水準の高度情報ネットワークの形成」をめざして、電子商取引の促進、電子政府・自治体の推進、個人情報の保護、国際協調などを基本方針にすえ、これらの方針をもとに政府が重点計画を策定する、と定めている。来年1月に設置される戦略本部には、関係閣僚を副本部長として置き、学者ら民間の有識者を積極的に任命する。政府は、戦略本部を中心に年明けから重点計画策定の作業に入る。また、政府は、重点計画の策定にさきがけて、来年の通常国会で、
- 電子商取引の契約成立時期を明確にするなど、取引のルールを新たに定める電子契約法の制定
- 民間の電子商取引を促すため、取引の際に対面販売を義務づけている規制などの緩和
- 個人情報保護法の制定
などの法整備を考えている。これにより政府行政部門の情報化はさらに加速すると思われる。
●国と地方自冶体の取り組み
国レベルでは各省庁のLANや省庁間をネットワークで結ぶ霞ヶ関WANが構築され省庁間文書交換・管理システムが起動している。地方自冶体レベルでは庁内LANの導入も進んでいる。さらに霞ヶ関WANの活用により政府、地方自冶体、特殊法人、認可法人など連結する総合行政ネットワークの構築が始まる。01年までに47都道府県と政令指定都市を連結し、03年までに市町村レベルまで連結する予定である。
将来は、行政機関のコンピューターは、職員間を結ぶイントラネットから、他省庁、地方自冶体、民間企業、国民を結ぶエクストラネットへ、さらに世界を結ぶインターネットへ拡大し、ネットワークを介して、ネットワークに接続された人々が、情報を自由に共有することができる電子政府の世界が実現する
■電子政府の諸機能
●電子申請システム
電子申請システムは、国民・企業と行政機関間で行われる各種申請・届出業務を電子化する。セキュアーなシステム上で申請者のデータ入力を軽減、受付時間の延長、申請届出の距離的・時間的負担の解消、審査業務の効率化などを目的とする。また 中央省庁で推進中の電子認証基盤構築(GPKI)、電子文書交換システム、電子調達用基盤システムなどの電子政府構想を考慮した国や他自治体との文書交換や、住民基本台帳ネットワークシステムの実現に伴う住民票の写しの広域交付、 転入転出の特例処理など住民基本台帳事務の効率化を実現する。
●公共発注機関による工事・物品・サービス等の調達業務
WTO政府調達協定により、国際的にオープンな調達を行なうことが求められている。電子調達システムでは、インターネット上で公共発注機関と受注者間における、公共工事、物品購買等の発注、支払いを電子的に行う。
●積極的な行政情報の公開
情報公開、文書管理など既存システムと連携し、行政機関が保有する情報をネットワークで提供。これまでの画一的な情報提供にとどまらず、ユーザー毎の要求レベルに応じた情報提供が可能となる。
●行政案内の一時受付・処理を一元的処理
行政サービスの質的向上を図るため、総合行政窓口業務の実施により市民からの様々な問い合わせ、苦情、依頼への対応に対し、行政情報の共有DBの構築により、必要となる情報を職員端末に表示し、高度な電話応対を実現する。市民からの意見を記録、蓄積することによりその後の対応状況を把握し、統計分析で、その後の対応策を図ることが可能になる。行政機関のホームページへ問い合わせを受け、窓口案内業務と連携させ担当者からの回答をメールなどで直接返信可能になる。
●文書の統合管理
行政機関が保有する文書データにつき文書の起案から回議・供覧、決裁、保管、保存、廃棄までの全ライフサイクルをサポートし管理する。文書管理システムで管理される行政文書は紙だけでなく、電磁的媒体についても同様に管理される。ペーパーレス化の実現と決裁事務の効率化、情報公開への迅速な対応を可能とし、住民に対する行政サービスの向上を図ることができる。
■電子政府の産業界にもたらすインパクト
現在、インターネットを使い企業間(BtoB)の商取引をシステム化する動きがメーカー、流通、商社など多様な業種に広がっており、特にインターネットを介した調達、販売分野で推進されている。メーカーの場合、部材メーカーから部材を調達し、完成品を流通業者等に販売する。流通業者はメーカーから商品を調達し、小売店に販売する。購入コスト、間接経費などの大幅なコストダウンが実現する。日本のBtoB市場規模は99年の12兆円から03年には6倍の68兆円へ拡大する予測である。
現時点での中央省庁の電子調達への対応は、建設省の公共事業中心とした政府調達における建設CALS/ECがある。設計図などの精密データや機密性が高い資金情報の交換も可能であり、97年6月にアクションプログラムを策定しスタートさせている。公共事業以外の政府調達の情報化に関しては政府のバーチャル・エージェンシー構想に行動計画が発表されている。計画では00年度中に各省庁においてインターネット上で調達情報掲載し、01年度中には全省庁の調達情報を一括して掲載するサイトを開設する予定である。03年霞ヶ関WANが進化した電子政府によるeガバメントと民間のBtoBが融合したときは、社会、経済システムを大変革するだろう。
電子政府先進国のように政府が保有する膨大で多様なデータを民間が利用できるようになれば民間ベースでデータマイニングやGISなどにデータを活用できるため知識集約型産業の育成に貢献するだろう。
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