デジタル時代の不動産鑑定評価

現在、周辺環境の変化に伴い不動産鑑定事務所内にパソコンがない事務所は限りなくゼロに近い。しかしこの環境は5年程前から始まったもので事務所のOA化は他業種と比べ早いものではない。文系資格とはいえ「不動産の経済価値を貨幣額で表示する」仕事と言う割にはその導入は遅かった。公的評価のFD提出という外圧で急速に各事務所に浸透したというのが真相だ。

不動産鑑定業務のうち競売評価以外のかなりの領域ではソフトハウスが販売するパッケージソフトを大部分の鑑定業者が使用しているのが現状だが、不動産鑑定評価、不動産コンサルティング業務を統合的にデータベースに連携させ各アプリケーション間をシームレスに繋ぐシステム提供しているソフトハウスは殆んどない。将来は、鑑定業務を統合的にインターネットなどでシステム支援するASP業者も登場するだろう。鑑定業者の端末はブラウザまたはエミュレータを動かす機能さえあれば低スペツクの古いマシンでよく、ソフトのバージョンアップも不要だからだ。

一般業者のコンピュータ導入以前は、一部の業者(僭越だが当所などオタクと呼ばれる業者)が試行錯誤しながら鑑定評価ソフトを作るべくプログラムして先行者利益と言うべき業務処理の効率化と高速化を実現していた。

不動産鑑定にパソコンを使用して何が変わるかと言うと事務所内のレベルでは採用データから価格が算出されるプロセスの共有である。具体的には採用データ属性のモニター上での一覧表示(取引時点、取引価格、道路幅員、利便施設への距離etc…)、価格形成諸要因の評点付設、それらをリンクし価格を算出するロジック(プログラム)などを担当者が認識し共有することによりそれまでブラックボックスと言われた価格算定過程を複数の人間が検証できるようになったことだ。

外部的には依頼者のメリットも大きい。特に公的評価の場合、提出されたFDによる全国規模の評価書とそれに付属する膨大な価格データをデータベースで一元管理し多様な角度からデータマイニング可能である。

民間ベースでも不動産証券化に伴う投資物件のDCF法、さらに進化したDDCF法による動態的収益価格の査定、三次元、四次元GISによる価格形成要因の探査などパソコンはますます不動産鑑定評価の必須ツールとなってゆく。

不動産鑑定評価のデジタル化に重要な問題があることを忘れてはならない。それはデジタル化至上主義によりもたらされる不動産鑑定士の感性の欠落の危険性だ。不動産価格は車やテレビのように計量可能な部品の集合体ではない。特に住環境などに求める価値は人それぞれで異なる。ファジーでメンタルな側面を本来、価格自体が有する。これらの価格形成要因に対する評点は、重回帰、多変量解析など統計解析を活用しても絶対的数値は決定できない。これらの領域で社会的に妥当性を持つ評点を査定するのが専門家たる不動産鑑定士の判断となる。これらは不動産鑑定士の五感を媒体として直感的に感得するものでいわば感性の結実である。不動産鑑定評価には、デジタルの数値とアナログの感性による相互検証が常に要求される。

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