デフレ克服と産業再生
1、政府の総合デフレ対策
デフレによる日本経済の厳しい不況と金融システムの機能低下による金融不安は、日本国内のみならず、世界の重大な関心事になっている。国内消費者物価は99年2月からら3年以上マイナス。公示価格は11年連続下落を続けている。
米国のシンクタンクの推定では、日本の不良債権は130兆円程度。資産デフレの進行により不良債権は、一向に減少する気配は無い。問題先送りできた政府もペイオフ解禁などによる内外の不安を沈静化するため総合デフレ対策を打ち出した。銀行に対する特別検査の厳正な実施、主要銀行による問題企業の処理促進、整理回収機構(RCC)に不良債権買取促進本部の設置、金融危機の際の資本増強といった不良債権処理の促進に加え、日銀へのさらなる金融緩和の要請、空売り規制などの市場対策、中小企業への資金供給の円滑化などが盛り込まれた。今回の対策の焦点は、不良債権処理の促進と言える。しかし、今回のデフレ対策に対してすでに与党の中などからは、需要の落ち込みへの対処が十分でないとして追加的な対策を求める声が上がっている。
2、デフレとその原因
デフレに対しては寛容な意見も多い。国民生活は過去の蓄積でまだ余裕があるので、デフレを甘受しつつ、日本経済の構造的問題と言われる高人件費、過剰設備、産業構造調整などの構造改革の進展を待ち経済活性化を図るのが望ましいのでは…などの意見もあるが、資産デフレが急速に進むと不良債権はさらに積み上がり、不良債権処理で体力が消耗した銀行が殆んどという現状を考えると金融システム不安が再燃しかねない。
物の値段が下がれば企業収益は落ち込むが借入金の金利支払いは変わらないため負債の実質負担が増え、企業経営が圧迫されるためリストラ、賃金カットで対応、耐えられなくなった企業は相次ぎ倒産に追い込まれる。銀行は企業の経営不振で不良債権が増える。政府は税収が減り、失業対策の財政支出がかさむ。さらに国債を大量に抱える国にとっては問題はさらに深刻になる。個人はリストラ、賃金カットで生活防衛的になり個人消費は冷え込み、企業収益をさらに減少させる。
バブル崩壊後、政府は、財政出動総額約134兆円をばらまいたがその効果は乏しい。金融は01年3月から量的緩和政策に踏み切り、マネタリーベースは増えたが、マネーサプライは増えない。優良企業は有利子負債の圧縮にはしり設備投資の資金需要がほとんど無い。日銀にインフレターゲット策を導入し、日銀が海外資産や、実物資産を買い入れるといつた現行の量的緩和策よりさらに踏み込んだ政策を主張する声もあるが、日銀のバランスシートの悪化やインフレコントロールの困難性などの副作用が懸念されるため否定的な意見が多い。
デフレの原因として、
- 不良債権問題による金融システムの低下
- 中国、アジアなど低賃金国からの輸入デフレ
- 供給過剰
があげられる。
デフレの克服は、小泉首相が「デフレとの戦いは長期戦であり、即効薬、万能薬はない」と指摘しているように容易ではない。構造改革を推し進めることによって経済の活性化を図り、公共事業の見直しや特殊法人改革などのスピードアップが求められるのは当然として、さらに小泉構造改革に欠落していると指摘されている「需要創出」でデフレから脱出するしかない。
3、不良債権問題処理
①RCCの機能強化など
政府は、今回のデフレ対策で金融危機に際して迅速に公的資金を投入することを明確にした。さらに特別検査の強化に加えRCCの不良債権買取機能の強化が打ち出された。RCC(整理回収機構)については今年、1月施行の改正金融再生法で買取価格を現行より高めの時価に変更したり、弁護士、公認会計士などで構成する「企業再生検討委員会」を設置。再生が決まった企業には、同機構が債権放棄、支援先企業への企業合併・買収(M&A)の仲介などをする。不動産証券化の手法を活用などを盛り込もなどの機能拡充を図っている。
改正金融再生法施行後でRCCの買取価格は債権元本の平均3.7%から1-3月期に6.9%まで上昇した。実質簿価買取価格(債権元本から貸し倒れに備えた引当金を差し引いた価格)だと元本の80%前後まで上昇する可能性があるが、二次ロスが膨らむため小泉総理等が慎重になり実現していない。
今後は債権を流動化させ、債権が機動的に売買できる市場の整備が急務である。共同債権買取機構や整理回収機構、民間の債権回収業(サービサー)など不良債権を買い取り回収する機能はある程度整備されてきているがまだ受け皿としては不十分である。
②不良債権処理と米国のリスクマネー
99年頃日本に進出したバーチャル(ハゲタカ)・ファンドは国内金融機関が抱える不良債権を簿価で約20兆円を3兆円でバルクセールなどで買い叩き、約1兆円を荒稼ぎしたと言われている。投資利益率15%を確保し、2-5年の短期で売却した。
外資による企業再生ビジネスで注目を集めた米リップルウッド・ホールディングスは、資産10兆円の国有長銀を僅か1,200億円で買った。相次ぎ日産系自動車部品メーカーのナイルス部品、宮崎県シーガイア、日本コロンビアを買収した。
米国のエクイティファンド(リスクマネー)の強力な不良債権処理・企業再生能力は、米国内でも存分に発揮されている。「米国も80年代銀行が多額の不良債権を抱えていたが、国内の機関投資家、富裕層、年金などから組成されたリスクマネーが、不良債権を底値で購入し、破綻企業を再建し年間30~40%の高利益を上げた。リスクマネーは、リストラファンドを通じて非効率産業・企業を買収、リストラ、不採算事業売却、中核事業合併で企業価値を上げ、再び市場に放出。このプロセスで得た利益が90年代半ばのEビジネス、バイオなど次世代事業に投入され、新産業育成を後押しした。」(週間ダイヤモンド)
日本には約1,400兆円の個人資産、約600兆円の機関投資家の有価証券投資資産が温存されているのに、自国の不良債権処理、産業再生のためのリスクマネーが発生しない。国内の金融機関、生保などはハイリスク・ハイリターンのオルタナティブ投資に不慣れなためだ。リスクをとる金融手法が長期にわたる不動産担保至上主義のため醸成されなかった。
③税制改革
需要創出面のデフレ対策として税制改革が与党、財界等からの要望として強い。個人資産1,400兆円も高齢者に偏在していると言われている。「株式に限定した贈与税、相続税の無税化」、「不動産購入のための贈与税の負担減」などは高齢者から消費意欲の高い世代へ所得移転し、同時に預貯金から株式、不動産へ資産シフトを促進する。不動産取得税、不動産売買時の登録免許税、印紙税や土地保有コストとも言うべき固定資産税の軽減などは、不動産の流動化を促す。
さらにジョセフ・スティグリッツコロンビア大学教授は、日経経済教室「日本経済再生の処方箋」で、「消費税を減税の対象にすると経済全体でバーゲンを実施するような効果が出る。例えば今後2年間は、消費税を引き下げる政策を出すと、消費の強力なインセンテイブになる。投資に対する税額控除も有効だ。計画を上回って投資を実施した場合、投資額の10%、20%、30%相当額を控除する。ここでも消費税と同様に、時限的措置は投資財に対するバーゲンと見なせ、企業は動く」と提言。
金融、財政政策が手詰まりななかでは税を変えるしか選択肢は残されていないとも言える。
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