緊急特集 地価下落の最新動向 / 対米テロ、IT不況、中国の世界工場化による影響など

対米テロ、ITバブルの崩壊は世界経済を萎縮させた。デフレと不良債権処理の重圧に機敏な対応ができない国内経済に打撃を与え、国内の地価下落はさらに深刻な様相を呈し始めた。特にオフィスビル市況は不透明感が増している。負の連鎖にさらに追い討ちをかけてるのが経済で一人勝ちする中国の経済脅威だ。中国の世界工場化、産業の高度頭脳化、WTO加盟による21世紀の巨大市場への流れは日本の地価下落にさまざまな影響を与え始めている。本小論で緊急にこれらの諸問題を論及する。

対米テロによる世界同時不況

9月11日米国でおきた対米同時テロはITバブル崩壊で失速中の米国経済に深刻な打撃を与えた。テロの脅威は世界市場を急速に萎縮している。米国の個人消費は冷え込み、相次ぐ利下げや減税などの効果はあがらない。50~60日分の在庫を抱える日本の電気大手に対し、パソコン最大手デルコンピュータの在庫は僅かに5日分。米国企業はサプライチェーンマネジメント(SCM)などITを駆使してモノ、カネの流れを徹底的に効率化することにより圧倒的競争力を保持してきたが、テロ後は企業リスクの分散で余剰在庫を確保するなど効率化オンリーというわけにはいかない。テロの不安に対応したリスクヘッジのため米企業の生産性向上のペースは少なくとも年間で0.1ポイント落ちると米ニューズウィーク誌は指摘する。人、モノ、金、情報が自由に動くグローバルスタンダードはテロの影響で手かせ足かせ、コスト高を背負わされた格好だ。

米国発のITバブル崩壊、テロのショックは世界分業体制が構築されたアジア、EUの生産・流通・金融のネットワークを通じ瞬時に伝わる。不良債権処理とデフレの重圧に悩む日本の失速中の経済に深刻な打撃を与えた。国内景気は米国の景気回復により来春には上昇軌道に乗れるという期待が脆くも崩れた。

日本の02年度GDPの伸び率はマイナス1.1%~プラス0.1%と今年度に続き2年連続でマイナス成長になる可能性が高い。特にテロ後は経済活動も萎縮し倒産解雇による非自発的失業が増加し景気悪化による雇用調整が一段と強まった。消費の冷え込みも鮮明になっている。デフレと不良債権の悪循環は果てしなく続いている。国内景気の低迷を反映し地価下落はさらに深刻な様相を呈している。9月、10月の地価動向は民間調査機関数社の発表によると地価下落は全国的に顕著であり先安感が強まっている。

さらに、ここにきて地価下落要因として俄かに注目されてきたのが中国の世界的プレゼンスの高まりによる経済脅威である。国内に比べ人件費、物流コスト、地価が安い東南アジア、台湾、中国などへの生産拠点移転は数年前からの傾向であるが、昨年来の国内製造業移転は中国へ一極集中しており工場だけでなく研究施設をはじめ企業の最終司令塔も移転させている。

中国に収斂する世界企業の海外生産戦略

①中国一極集中の背景

日本の製造業の東南アジア、中国、台湾への工場移転、所謂、安価な人件費をメリットとする垂直型分業の海外生産戦略は、ここ1~2年急速に中国に収斂してきている。日本企業は東南アジアの生産拠点を規模縮小しており、米国のITバブル崩壊は、米国のIT垂直型分業に依存してきた台湾経済も直撃した。中国の人件費は台湾の10分の1であり、台湾企業の中国移転が進み台湾国内も日本と同様の産業の空洞化現象をきたしている。米IBMは最近、台湾企業に委託しているデスクトップ型パソコンの基板生産を中国に移転するよう指示した。台湾最大の食品流通グループ「統一企業集団」は1992年から対中投資を始め3億1,700万米ドルを投資した。台湾ではヒト、モノ、カネが強力な磁石のように吸い込まれていく中国経済を畏怖して「磁性」と呼んでいる。中国の「磁性」により台湾経済は深刻な空洞化が進んでいる。台湾の李登輝前総統は9月末も台湾華僑大会で「台湾に必要なのは投資だ」と強調した。

②中国をビルトインした世界的SCM(サプライチェーンマネジメント)の進展

低コストの人件費だけが中国への生産拠点移転のキーワードではない。現時の中国の生産技術は日本と競合するレベルまでになっており、中国の産業形態も縫製など労働集約的産業からIT関連製品の生産に移行しつつある。中国のIT関連生産の急増の背景として日米欧の部品メーカーが中国での生産拡大、産業集積の加速により組み立てメーカーがさらに集積する産業構造の裾野の広がりにより生産期間を短縮するSCM(サプライチェーンマネジメント)の成功がある。広東省南部珠江デルタ地帯と上海を中心とする長江デルタ地帯に海外企業の投資が殺到し、北京市・中関村のハイテク区には7,000社の内外情報技術企業が集積している。まさに中国は「世界の頭脳」へ進化している。

③国内地価下落へのインパクト

日本の国内経済にとって重要な懸念は部品、組み立て、ソフトに至る産業の重層構造が中国内で高度化していくためわが国の産業構造全体がそっくり移行しかねない状況に置かれていることである。日本は人件費だけでなく税金、輸送費などのインフラも高い。即ち企業の司令塔たるオフィスなどを含め全ての機能が効率、低コストを求めて中国へ移転しかねない。

工場、研究施設、企業の中枢司令塔たるオフィスから雇用までそっくり多量の企業が雪崩を打って移転すると、全国レベルで工場地から住宅地、商業地に波及する地価下落をさらに拡大する。雇用の中国による国内淘汰は雇用を不安定にし、賃金水準を下方シフトさせるため住宅地の有効需要にも影響をもたらす。さらにWTO加盟後は13億人の人口を背景にした巨大消費市場をターゲットに外資の活発な進出が加速する。日本国内のサービス、情報へ与える影響は雇用不安、賃金低下と相俟って商業地の競争力低下に波及する。特に地方では地価下落への影響が深刻になるだろう。製造業の国際的競合は下請け企業をはじめ地場産業の不振を招きさらに構造改革による公共工事削減と重なり地方の地価下落を深刻に加速させているからだ。

国内の不良債権処理額は金融庁による特別検査の結果、拡大し、金融機関の自己資本の大幅な減少を招く懸念が高まる中、過剰債務を抱え競争力が低下した国内企業が安価な輸入品の攻勢にさらされ経営が悪化し地銀、第2地銀のレベルで不良債権が増加している。不良債権処理によるデフレ圧力に加え、国内産業の空洞化は急速に多岐にわたり進行し、その結果、国内の地価下落は止まらない。地価下落が不良債権処理を困難にしさらなる資産デフレを招く負の連鎖は日本独自の技術開発、付加価値の高い製品の開発と効率的製造システム構築、遺伝子工学、バイオなど次世代技術を創造し中国との競合補完関係を再構築しなければ解決しない。

不透明感増すオフィスビル市況

対米同時テロはITバブル崩壊は、不動産市場、特にオフィス需要に影響を与えた。米国のIT不況の回復に不透明感が拡大し、国内のオフィス需要を牽引してきた外資系金融機関、IT関連企業の需要は急速に鈍化している。代わって経営コンサルテイング、医薬関連企業などの引き合は増えているが2003年問題(オフィスビルの大量新規供給増)を控え需要の不透明感が市場に拡大している。デフレと不良債権処理のもたつきで9月上場されたJ-REITの先行きも怪しくなってきた。

IT革命の進展はオフィススペースの拡大需要をもたらしたが、IT導入→サーバー、ルーター、接続ケーブルの設置→オフィススペース拡大の公式はやがて終焉するかもしれない。インターネットデータセンターに情報通信機器を預け管理、運営をアウトソーシングする企業が増加している。

さらに世界貿易センタービルディングはNTT-MEと共同で東京浜松町の超高層ビル「世界貿易センタービルディング」(WTCビル)テナント企業向けデータセンター事業を始める。テナント獲得の競争力を高めるためビル内に確保した専用センターでテナントの情報通信機器の運用、管理を代行し高速データ通信などのサービスを提供する。新サービス「ITサーバーセンター」は来年3月に開始予定。米国で始まっているビル内専用通信会社(BLEC)の日本版といえる。センターには大容量電源や空調を完備しテナントから預かる情報機器の設置棚を約150セット用意する。テナントはオフィス内に機器を置く必要がなくスペースを有効利用できる。(日経産業10.18)

ビル内専用通信会社(BLEC)の日本版はさらに今後、普及していくと見られている。外部のデータセンターと契約する場合と比べ月額利用料は半額と安いためテナントのインセンティブは高い。

短期的にはオフィス需要は高度の通信インフラを整備したインテリジェントビルやビル内にインターネットデータセンターを抱えた高度情報ビルにシフトしていくが、中長期的に見るとさまざまな企業でネットワークやシステムの運用管理はMSPなどのアウトトソーシングサービスへの移管が進むのでオフィスのスペースは、企業の戦略的コア部分に限定されたものになっていきオフィス需要の新たな脅威になるだろう。

さらに中国の高度頭脳化による生産拠点→研究施設→本社機能移転と製造業まるごとの国内空洞化の勢いは当然、オフィス需要の先行きの大きな懸念材料となりつつある。製造業など二次産業から三次産業へのシフトが進み医療、介護、環境などの都市型産業の熟成がオフィス需要を補完するとの見方もあるが首都圏以外の地方では急速な需要の減少の拡大が予測される。

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