2011年の不動産市場を予想 / REIT、オフィス市場
2010年を振り返ると国内経済が順調な回復軌道に乗ったかと思わせたのも4月までで、ギリシャの財政不安リスクで信用不安がEU全体に拡散、その結果、安全資産の円買いから対ドル、ユーロで円高が急進、以後、国内経済は円高に翻弄されることとなった。
しかし、昨年秋の米国の追加金融緩和(QE2)効果で、NY株価は急回復し、米株高による資産効果で米GDPの70%を占める個人消費が伸び、年末商戦も好調だった。各種米経済指標も好転、加えてオバマ大統領が中間選挙の敗北から共和党に譲歩して行ったブッシュ減税の継続で個人消費の4割となる富裕層の消費を刺激することになり、その他の経済対策と合わせると11年の米GDPを0.5~1%押し上げるとの試算もある。とはいえ米国内の高い失業率と住宅価格の低迷は今後の米景気回復の足を引っ張る要因となっている。
足元では日米両国で高まっていた景気の2番底懸念はひとまず遠のいた。2011年の世界経済は回復ペースは緩やかながらも、新興国の高成長に牽引されながら回復基調から外れることはないとの見方が主流だ。IMFの2011年の世界の経済成長率見通しは4.2%(2010年は4.8%)。先進国の2.3%(同2.7%)に対し新興市場国および途上国は6.4%(同7.1%)と3倍近い伸びであり、世界経済回復シナリオを裏付けるものとなっている。
米国や中国などの海外経済の回復軌道に乗って日本の国内経済も「足踏み」から踊り場を脱却できそうな1年になりそうなのだが、2011年の国内経済を占ううえで具体的に景況感を実感できるのが経済を写す鏡である2011年の株価予想だ。以下で証券各社の予想を見てみよう。
1、2011年株価予想
証券各社の専門家による2011年株式相場だが、総じて海外経済の回復持続を前提に強気の見方が多い。加えて相次ぐ先進国の金融緩和で大量のマネーがリスク資産の株式へ流れ込み易くなっており、過剰流動性相場の余波で出遅れ感がある日本国内の株式マーケットへも海外マネーが流入するのではという期待も高まっている。
■証券各社の予想は
証券各社の専門家間の予想は、「日経平均株価が10年末より15%強高い12,000円台まで上昇する。一方、下値は9,500円程度で下値余地は小さい」(日経2011.1.1)とする見方が多数派だ。
強気の予想を支えているのは、「米景気回復→米長期金利上昇→日米金利差拡大→対ドルでの円安進行→日本の輸出企業の業績改善」というシナリオだ。
2011年の企業業績も米中経済の恩恵を受けて増収増益が続くという見方が多く、三菱UFJモルガン・スタンレー証券算出によると日経平均採用銘柄の2011年度1株利益(アナリスト予想の平均)は約14%増。日経ヴェリタス2011年1月1日号記事によると大手証券各社の企業業績予想は野村証券の国内主要400社対象調査で13.3%経常増益、大和証券の主要300社調査は14.9%経常増益と概ね近似している。企業業績予測を前提にすると、「日本株の平均予想PER15~16倍から見て日経平均で2,000~3,000円位の上昇余地がある」という見方も多い。
証券各社推奨の注目業種や銘柄は以下である。
- 電機自動車関連(日産、パナソニック、東芝、日本電産等)
- 輸出関連(トヨタ、ソニー、キャノン)
- 中国・インドの原発、鉄道、水処理などインフラ整備(三菱重、日東電、東レ、日揮等)
- 資源・国際商品市況上昇関連(三菱商、三井物、丸紅等商社株)
内需銘柄として日銀による包括的金融緩和が支援材料となり、オフィス市況の底入れが見え、マンション市場が回復したとして不動産株を有望と見る向きもあることは本コラムのテーマから注目される。
また2011年の日米の株価上昇予想を支援するアノマリー(経験則)がある。アノマリーについては筆者のコラム「アノマリーで2010年株価を予想すると」で書いた。
米国ではオバマ米大統領は就任3年目を迎え、翌年は大統領選となるが、アノマリーでは、大統領の任期3年目は株価が最も上がるのだ。そしてその的中率の高さには目を瞠るものがある。「NYダウの上昇率が最大なのは大統領選挙前年で、平均18%さらにさかのぼると、戦後から2007年までの16回全てで上昇した。」(日経ヴェリタス2010年2月28日号)とまさに最強だ。
理論的に考えると大統領選挙前年は、選挙対策で経済政策を打ち出すし、財政に余裕があれば財政政策、そうでなくても景気対策の利下げがされやすいので株価が感応するからともいえる。
また、2011年は十二支の「卯年」になる。国内の証券業界で株価が上がりやすいといわれているのが十二支のなかのうさぎ年。「21世紀のマーケットで十二支もなかろう」という思いはあるが、十二支のうち3番目に日経平均株価の上昇率が高いというデータもある。
■日本経済・株価のリスク要因
2011年株価の最大のリスク要因は欧州の財政問題だ。2010年に起きたギリシャやアイルランドの財政不安が2011年春先に国債の償還を迎えるポルトガルやスペインに波及するリスクある。
7,500億ユーロ枠の緊急支援制度など危機に備えたEUの安全網がそれなりに創設され、欧州銀行のストレステストも済ませている。にもかかわらずEU全体のGDPの2%台に過ぎないギリシャやそれより小さいアイルランドの財政不安がEU全体に拡散するのは何故か。その背景はそれらの国の国債を買っている独・仏の金融機関の信用不安が再燃するからだ。
例えばスペインの国債償還で財政不安が勃発すると経済規模からみてギリシャやアイルランドの比ではない。独仏をはじめEU内の金融機関に信用不安が広がり、疑心暗鬼が市場を覆い、リーマンショックの悪夢が再び世界経済を襲う事態になりかねない。そうなると短期の投機筋の安全資産の円買いでユーロが急落、80円を切る円高ともなれば株価とともに日本経済も再び沈みかねないのだ。
さらに先進国の金融緩和で新興国のインフレが高進した。米国の追加金融緩和は資源高を通じて新興国にインフレをもたらすものとして非難を浴びた経緯がある。新興国が金融引き締めを行うことによる経済減速もそうだが、先の経緯から世界景気が悪化した際に先進国が機動的に追加緩和が打てなくなると世界経済の底割れリスクが高まる可能性があり、株価下落を招くだろう。
また日本固有のリスクとして朝鮮半島に有事の事態発生という地政学的リスクや現政権の未熟な政権運営、ねじれ国会で有効な経済対策が打てないというリスクも考えられる。
以上、2011年の国内不動産市場を予想するために欠かせない2011年のマクロ経済見通しを株価予想を通して書いてきた。いよいよ本題の国内不動産市場の2011年予想に言及する。
2、2011年のリート市場
昨年10月5日に日銀が発表した包括緩和でREITが買い入れ対象となって以降、東証REIT指数の上昇ペースが加速。昨年末の12月27日は同日の日経紙によると2営業日連続で年初来高値を更新。2009年末からの上昇率は26・5%に達した。リート市場好調の背景は、日銀によるREIT買い入れでREITへの信用不安が和らぎ、国内外の投資家の買い意欲が高まっていることがある。
REITの予想分配金利回りは12月27日時点で4%台で、長期金利の指標となる新発10年物国債利回り(1.2%)を上回る。特に積極的に購入しているのが地銀だ。企業の設備投資意欲が盛り上がらず資金の運用先に困る地銀は、これまで債券投資に余剰資金をシフトしたが、その結果、国債や社債利回りが低下、高利回りのREITの投資妙味が高まり、今秋以降、積極的に買っている。
海外投資家の動向も注目されるが「投資主体別売買動向の「海外投資家」は10、11月の2ヶ月で251億円の買い越し。これには海外経由の国内投資信託の買いなども含まれるが、「短期の値ざや稼ぎを狙ったヘッジファンドの買いだけでなく、長期運用の年金なども興味を示している」(国内証券)という。」(日経2010.12.28)
東証リート指数を上昇させた日銀のREIT買い入れだが、限度額は総計で約500億円。11月5日の金融政策決定会合で、REIT買入等基本要領を決定。対象となるREITの条件として、
- 格付けがAA以上
- 年間に200日以上売買が成立している
- 年間の売買累計額が200億円以上
の3つを上げている。
■足元で住宅系とオフィス系で明暗が
不動産市況のファンダメンタルズで見ると、住宅系賃貸市況に比べオフィス賃貸市況の低調さが目立っているが、リートの分配金も格差が広がっている。足元の決算期で住宅系REITの増配する銘柄が多いのに比べオフィス系REITは空室率や賃料の改善が遅れており減配が目立つからだ。
「上昇が目立つのは住宅に投資するREITだ。日銀が買い取りの具体的な方針を発表した直前の11月4日終値に比べ、日本アコモデーションファンド投資法人は18%上昇。積水ハウス・SI投資法人は21%高となった。こうしたREITは分配金を手堅く増やしており、投資家の資金を呼び込んでいる。住宅は借り主の交代がオフィスや商業施設ほど頻繁でないため、稼働率や賃料が安定しやすい。財務の改善で支払金利が減ったこともあり、アコモFや野村不動産レジデンシャル投資法人は今期の分配金が微増になる見通し。利回りも5%前後と比較的高い水準を維持している。一方、オフィス系REITはオフィス賃料の低迷で減配が相次ぎ、投資口価格も相対的に伸び悩んでいる。日本ビルファンド投資法人は前期比12%の減配を見込む。同じく今期減配予定のジャパンリアルエステイト投資法人の投資口価格は、11月4日比で5%安と逆行安になっている。」(日経2010.12.9)
REIT市場に影響を与える2011年の長期金利を見とおしてみよう。日銀が11月に決めた包括的な金融緩和策では政策金利を0~0.1%とするとともに、物価安定が展望できるまで実質ゼロ金利政策を継続すると表明しているので、デフレ脱却に時間がかかりそうなことから国内の政策金利の緩和基調は2011年も続くと考えられる。長期金利は2011年には「レンジがやや切り上がるが、年前半は経済回復の足踏みが続くことから金利は比較的低位で推移すると見られている」(日経ヴェリタス2011年1月1日号)また12月22日(ブルームバーグ)によると「2011年の債券市場では長期金利は1%台前半を中心に低位で推移すると予想されている。」
REIT投資口価格の上昇で利回りは低下していくが、他の金融商品との相対的有利性もしばらく持続するので当面は堅調に展開すると見る向きが多い。投資に対する安心感が広がっていることも追い風だ。ただリスク要因としては回復が遅れているオフィス賃貸市況の行方がどうなるかだが、この点については次の2011年のオフィス市況予想で言及する。
日銀の支援策で好調に転じたREIT市場だが、堅調さを持続していくには、かねてから指摘されてきたリート市場の諸課題を解決していかなければならない。これらの課題に対し国土交通省の「不動産投資市場戦略会議」は12月17日、不動産市場の活性化策をまとめた報告書を発表した。
■リート市場の課題と対策(不動産投資市場戦略会議の提言)
リート市場を中長期的観点から活性化していくためには、当該市場に内在する様々な問題点を解決していかなければならない。これらの課題の解決の道筋が見えてくると2011年といった短期的スパンでみてもREIT市場に好影響をもたらすと考えられる。当該報告書でREIT市場の課題と対応策として提言されているものの中からいくつかを紹介する。
- 資金調達力の課題
- プロシクリカル性の課題
- 貸し手の多様性の課題
- Jリートのガバナンスの課題
長期の資金需要と銀行等の短期志向の融資期間のミスマッチが生じている点、資金調達手法が制約され、リファイナンスリスクへの対応が困難であることを挙げ、対応策として、資金調達手法の多様化(転換社債の発行、自己投資口の取得等)、内部留保の拡充を図る。
不動産価格の上昇期に貸出姿勢が緩み、下落期には抑制されているので不動産価格の振幅が拡大される傾向がある点。対応策として市場参加者のそうした動きを抑制する行動を支える規制、制度の枠組みの整備を図る。
ノンリコースローン等の出し手が特定の主要銀行に大きく依存している点。対応策として、地域金融機関によるノンリコースローン提供能力の向上に向けての支援策、TMKに対するデット資金を提供することができる税法上の機関投資家の範囲拡大と届出手続きの通年対応化などの規制面での柔軟化に向けての取り組みや、メザニンローンの安定的な供給のための民間都市開発推進機構等の活用、Jリートによる一定の条件を満たす不動産デットやCMBSの取得を検討し(モーゲージリート)、不動産の分野におけるデットとエクイティの結びつきによる、システムの強化を進めることなどが検討されるべきである。
運用会社と投資法人の利害を一致させ投資家の信頼を高めることの必要性が指摘されている。また、外部運用という形式のなかで実質的には運用会社と投資法人が一体化している現状のなかでは、運用会社の利益相反取引の回避をどのように構築するかが問われている。対策として考えられるのは、運用会社に独立取締役を設置することや、運用会社の投資判断に投資法人の役員の監督機能がどの程度発揮されているかの履歴を残し透明性を確保する工夫など、関係者間取引における利益相反防止体制を強固に構築する工夫が考えられる。
3、2011年オフィス市況予想
足元の空室率は依然厳しい状態が続いている。2010年12月10日日経紙によると「東京都心のオフィスビル空室率が上昇した。オフィス仲介大手の三鬼商事が9日まとめた11月末の都心5区(千代田・中央・港・新宿・渋谷)の平均空室率は前月比で0.19ポイント上がり、9.04%となった。大型既存ビルで解約予告が相次ぎ、募集面積が増えたため3ヶ月ぶりに上昇した。同社は「今後も空室率は一進一退の状況が続くのでは」とみる。」
賃料低下も依然続いている。12月21日日経紙では、「オフィス仲介大手のビルディング企画がまとめた都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)の11月の平均募集賃料(共益費を含む)は3.3平方メートル当たり2万189円。前月より220円(1.1%)安く、下落は27ヶ月連続。空室率の上昇には一服感が出ているものの、企業の経費削減姿勢は根強く、賃料を下げないと成約は難しい状態だ。」
オフィス賃貸市況の悪化は昨春をピークに以後は徐々に改善方向に向かつていると見る向きもある。ただ全国的にみるとオフィス賃貸市況はまだら模様だ。例えば関西圏は低迷が続いている。13年に大阪市中心部のJR大阪駅北側の再開発地域「梅田北ヤード」で大型ビルが相次ぎ完成するなど新規供給が多く、大阪市を中心に関西は総じて稼働率が低調だ。一方、新規供給が一巡した名古屋、福岡は改善傾向となっている。
■空室率・賃料の今後の展開
足元で改善傾向にある東京都心のオフィス市況の今後の予想は、筆者のコラム「不動産投資マーケットの現状と今後の予想 / オフィス、商業施設」で書いた。当該コラムから引用する。
オフィス空室率と賃料の今後を予想すると、空室率は賃料の先行指標となっているが、企業業績の改善から約1年程遅れて空室率がピークアウト。空室率の改善が進めば、これに遅行して賃料下落が止まり、やがて上昇へ転ずるという流れになる。
三鬼商事のデータを基に都市未来総合研究所が作成した資料によると「2003年問題」の後、東京都心5区の空室率が改善し始めて、平均募集賃料が上昇に転じた時間差は15ヶ月だった。足元での空室率の改善からこの数値を使って募集賃料の上昇タイミングを予測すると2011年末から2012年に入って募集賃料の上昇が始まることになる。
また財団法人日本不動産研究所と三鬼商事の共同研究会が9月に発表した今後10年間のオフィス空室率と成約賃料の予測をしたもので見ると、空室率は年内(2010年)にピークアウトするが、成約賃料は2012年以降に下落から上昇に反転、年率2%前後の上昇率で緩やかな回復となっている。さらに、みずほ総合研究所が9月17日発行した「みずほ日本経済インサイト~オフィス市場の動向について~」によれば、東京ビジネス地区のオフィス空室率は2010年以内は9%前後、2011年末で8%台前半に低下。賃料は2011年半ばまで緩やかに下落を続け、17,500円程度の水準で底入れするという結果になっている。
■マクロ経済要因からオフィス市場回復時期を予測
2011年オフィス市況を予想するとき、供給サイドからみると各都市のビジネス地区の今後の新規供給量が前記のようにまちまちで需給関係が都市によって異なるので、主として需要側の要因となるマクロ要因動向で予想する。
景気循環とオフィス需要の関係を見ると、景気回復は企業→家計の順に波及する。また企業部門での景気回復時の設備投資等の時系列の流れを見ると、不動産ベースでは、まず生産段階である既存工場・物流施設の拡充に始まって、必要に応じてこれらの施設の新設に向かい、最後に業務・事務機能部門のオフィスの拡大で終わる。
家計部門への雇用や所得の拡大は企業部門の設備投資と同様に企業業績回復で可能になるが、通常、企業は生産段階の設備投資を優先するため、家計部門は遅行する。つまり、この流れから景気回復局面における企業のオフィス部門拡大から派生する賃貸・自社のオフィス需要は、オフィスとオフィスワーカー雇用の拡大が最も遅行するため、景気回復のファイナルステージ近くで実現することになる。以上を踏まえ、足元のマクロ経済要因動向を反映した直近の経済指標等から国内不動産投資市場の今後を予測しよう。
円高に翻弄された2010年だが意外に企業業績が好調なのだ。企業は海外経済や円高圧力による先行き不透明感から設備投資や雇用拡大を避け、余剰資金を内部にため込んできた。日銀の資金循環統計によると、民間企業(金融機関を除く)が保有する現金・預金の残高は9月末時点で205兆9,722億円。前年同月から5%増え、過去最高水準だ。
ここにきて企業の姿勢に変化が見え始めた。中小企業で設備投資意欲が高まっているのだ。
2010.12.27の日経を見てみると、「財務省の7~9月期の法人企業統計では、企業の設備投資が前年比5.0%増と3年半ぶりに水面上に浮上した。規模別にみると、資本金が「1億円以上」の企業が7.0%減ったのに対し、「1千万円以上・1億円未満」は45.6%増。中小企業の設備投資は金融危機後に大幅に減った反動もあって、今年1~3月期以降、3四半期連続で2ケタ増となっている。中小の設備投資意欲は日銀の12月の企業短期経済観測調査(短観)にもみえる。大企業製造業の10年度の設備投資計画が下方修正される一方で、中小企業製造業は前年度比8.3%増と前回調査から8.8ポイント上方修正された。」
また同紙によると企業のマネーはヒトにも振り向けられつつある。7~9月期の法人企業統計では企業の人件費が前年同期比で0.3%増えた。資源高などで収益が圧迫された08年4~6月期以降に2年近く減少を続けた人件費は、10年1~3月期からわずかながらもプラスを保つ。ただ、企業は人員を大きく増やすことには慎重な姿勢を崩していない。来年春に卒業予定の大学生の就職内定率は57.6%と過去最悪。企業はすでに雇用している人たちの残業時間を増やすなどして対応している。
中小企業に比べ大企業ではまだ設備投資に慎重で、現状で企業経営者の設備過剰感は根強い。しかし前記のように手元流動性は高まっており、この先の円高圧力や海外景気の不透明感が薄らぐと設備投資や雇用拡大へシフトする可能性がある。オフィス需要が高まるタイミングを具体的に考えてみよう。
11月の鉱工業生産指数は前月比1.0%上昇と半年ぶりに上昇に転じるなど日本経済は一時期の2番底懸念から回復軌道に復帰したようだ。ただ2011年上期までは,耐久財消費刺激政策の反動と円高によるマイナス影響で経済の減速した状態が続き、年後半から回復軌道に乗る。通年でみると日経紙1月3日掲載のエコノミスト15人の成長率の予測は、物価変動の影響を除いた実質で10年度は3.3%、11年度は1.2%。1%弱とされる潜在成長率は上回るものの、11年度は成長ペースが緩やかになるという見方が有力だ。
日本経済の自律回復が始まり、設備投資意欲が高まったとしても業務事務管理部門のオフィス拡張に辿りつくにはその遅行性から時間がかかる。企業の雇用拡大が慎重なことも併せて考えるとオフィス市況の本格的回復は2012年になってからになると考えられ、このタイミングは先に書いた企業業績回復→空室率ピークアウト→本格回復・賃料反転時期と重なる。
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2011年後期の不動産市場の現状と展望