市街化調整区域内の不動産の評価

1、情報の非対称性が支配的な市街化調整区域の不動産

市街化調整区域内(以下「調区」と呼ぶ)にある不動産の妥当な価格を評価するのはかなり難しい。何故なら価格を評価する前提として住宅等の建築の可能性について、幾重にも複雑に絡み合った法令や条例等を交通整理し、関連付け理解しなければならないからだ。

加えて、00年4月施行の地方分権一括法により、開発許可制度については、全て自治事務となり、地方公共団体における独自判断が可能となったため、「調区」内物件の所在する管轄地方公共団体ごとに条例を調べ、従来まで以上に、役所に案件に応じた再建築可否の判断を個別に求めていかなければならなくなったことも調査作業を煩雑なものにしている。

これまでの法改正で、調区内土地の個別調査を不要にした部分もある。法34条11号は、地方公共団体が条例で指定した区域では、条例で定めた用途や規模については開発許可等がなされるので、個別に物件を調査する必要はなく、予定建築物のエリアゾーンの条例の内容との適合性をチェックすれば済む。

また調区内では昭和62年に制定された集落地域整備法の区域について、集落地区計画に基づく土地利用規制が行われていたが、集落地域以外でも調区の特性を踏まえながら、開発行為、建築行為を都市計画上支障がないように誘導するため、平成4年の法改正で地区計画を定めることができるようになった。

さらに平成10年の都市計画法改正で地区計画策定対象区域の要件が緩和された結果、平成11年以降になって全国の市町で地区計画を指定するケースが増加した。地区計画がなされた地区内の土地においては、制限の内容に適合すれば、宅地だけでなく農地でも制限範囲の建築が可能になったりするので市街化区域に近い地価形成が地区内で行われるケースもある。

このように「調区」内物件の評価は、どのような用途の建築が、どの規模で建てられるのか、建築後に所有者の事情等で売却されるとき、購入者の属性はどの程度まで制限を受けるかなどを把握しなければならず、この分野での知識、経験の蓄積が欠かせない。

しかし、考えようによっては、当該不動産の価格判断が容易でない分、住宅地購入や中古住宅を探している人にとっては、「調区」内物件評価に精通すれば、市場の非効率性からくる「情報の非対称性」で、あるべき不動産価値であるフェアバリューを下回る割安な価格で不動産を購入することができる可能性が高い。

一般に「調区」内物件は、購入者から敬遠され、不動産業者の中にも法令や条例等の複雑なパズルを読み解くことができず、必要以上に購入者にリスクを強調したり、その逆に安易に建築の可能性を断定したりするケースも見られる。

例えば、本家たる世帯の構成員、または構成員であったものが分家することで開発許可を得て建てられたという属人性が強い農家の「分家住宅」のケースで考えてみよう。所有者の事情で当該物件を売却する場合、全くの部外者で農家でもない一般サラリーマンが購入して使用し、将来、建て替えができる可能性があるだろうか。

このケースでも地方公共団によっては、売却にあたっての事情を審査し、所有者が当該物件に合法的に一定期間以上居住している等々の所定諸条件を満たすと、当該住宅の建築許可・使用者変更等に始まり、同用途、一定規模などに限定しての将来の建て替えを認めるケースもあると聞く。しかし、買主から委託を受けた不動産業者が、都市計画法から条例まで丹念に調べ、管轄役所の担当課でその可能性や、その際の必要条件等を詳細に確認もせずに、即座に「分家住宅だからサラリーマンが購入後の建て替えはできない」と断言してしまうこともある。

逆に、「調区」内物件のリスクを見逃し、安易に買主へ間違った情報を伝えてしまう業者も見られる。線引き当時に住宅等が既に合法的に建っていて、登記簿や閉鎖登記簿からその事実が証明できる場合に、用途、規模を限定して建て替えが可能となる「既存建築物の建替」というものがある。

この場合、注意しなければいけないのが、当該建物の登記表題部の「原因日付」欄に記載されている新築年月日ではなく、通常は原因日付以後の日付になる「登記年月日」を確認して、当該建物が線引き当時に既に存在していたと認定する地方公共団体があることだ。この日付次第では、線引き当時の敷地の宅地並み課税の有無や、航空写真で線引き時の建物存在が証明できないときは、建て替えが不可能になる場合もある。どちらの日付を採用するか管轄役所の担当課に聞き取りしなければならない。また線引き後に隣接地を合筆しているケースでは、線引き後に敷地に併合された当該地は、将来の建て替え建物の敷地から除外される。登記簿や合筆前の公図でこの経緯を確認していなければ、併合地を含んだ不動産価値で過大評価をしてしまうことになる。

以上のような知識がなく、必要な確認ができていない不慣れな不動産業者も残念ながら見受けられる。しかし、「調区」は、もともとは市街化を抑制すべきエリアなので、不動産取引も散発的で取引量も乏く、この分野に精通した不動産業者も少なく、流通インフラが未整備なのが現状だ。

これからは都市近郊でそこそこの利便性も備えた自然環境豊かな地に割安な物件を探す選択肢として「調区」内物件はもっと見直されてもいいような気がする。市街化が抑制された地域というマイナス面が、逆に豊かな自然を残すことに作用し、自然との共生を享受できる魅力的な土地も多いのだが。

2、市街化調整区域の不動産評価

「調区」以外に対象不動産が存在する場合の不動産価格を決定する要因は、住宅であれば、その立地する利便性とか、周辺の住環境とか、当該不動産が接面する道路幅員とか不動産の形状などのような不動産固有の諸条件の組み合わせなのでその価格は比較的に見え易い。

一方、「調区」に存在する不動産は、不動産固有の諸条件に加え、法令・条例が絡み、その価格形成は複雑多岐だ。「調区」内物件の特性として、仮に建築できるとしても、前記のように「属人性」といって特定の条件を満たす人だけが可能な場合がある。そこで調区内の住宅向け物件では、条例等で区域指定されたエリアを除き、属人性と無縁な一般サラリーマン層の購入を想定して再建築可能か?を個別に物件単位で判断することがポイントになる。

住宅購入層で最大のボリュームゾーンである一般サラリーマンの住宅新築や建て替えが不可能で、農業従事者のみが住宅建築が可能なケースでは、購入者が相当程度限定されるので当該物件の流動性が極めて狭められる分、不動産価格にマイナス影響するわけだ。解りやすい例示をあげよう。

隣り合って存在するA・B2つの不動産があるとする。双方の住宅は、老朽化していて市場価値がなく、取り壊し費用も同額とする。各敷地は、同形状で同一道路に接面、その他の価格形成要因も同一とすると、このケースは「調区」以外なら、A・Bの不動産価格は当然ながら同価格になるはずだ。

A・B不動産が「調区」内に在ると事情は変わってくる。A不動産上の住宅は、線引き時には既に存在していて「既存住宅建て替え可能」とし、B不動産上の住宅は線引き後に「分家住宅」として建築許可などで建てられたとする。

この条件ではA不動産は「属人性」で不動産価格が影響を受けない。B不動産は条例や地方公共団体の運用によるが、「属人性」で影響を受けると、その際の流動性の減少分は不動産価格が相応に低下し、A不動産価格>B不動産価格となる。

次回は、法令や条例の複雑なパズルをできるだけ解りやすく、パターン化して、「調区」内不動産の建築可能性等を整理してみよう。

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