不動産投資マーケットの現状と今後の動向予想 / オフィス、商業施設

前回のコラムでは国内の不動産投資の足元の状況と今後の展望をマクロ経済の動向の側面から考察した。今回はオフィス、商業施設を対象とする不動産投資を現実のマーケットの實相からその現状と今後の展望について考察する。

本論に入る前に前回のコラム発信後に日銀が10月5日に決定した量的緩和と不動産マーケットへの影響について簡単に触れておこう。日銀は10月5日に5兆円の資産を買う量的緩和を決めた。足元で急激に進む円高対策のためだ。その内容は、

  1. 無担保コール翌日物金利誘導目標の0~0.1%への引き下げ
  2. 実質ゼロ金利政策の継続
  3. 国債、CP、ABCP、社債、ETF、J-REITなど5兆円規模の資産の買い取りも決定

である。量的緩和による金利低下は、有利子負債比率が相対的に大きいため金利感応度が高い不動産会社にポジティブに作用する。現に東京マーケットでは、量的緩和を好感して大手不動産だけでなく不動産関連銘柄全般にも広く買いが入り、TOPIXで不動産セクターの上昇率が首位になった。

また資産買い取り額は長期国債と国庫短期証券が3兆5千億円、資産担保コマーシャルペーパー(CP)と社債などが1兆円。また初めて上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(REIT)も購入する。日銀によるリスク資産の購入はマーケットにポジティブサプライズをもたらした。

日銀は円高防止効果を狙って金利低下を図るため国債購入を決定したが、緩和決定前日の国内の新発10年物国債利回りは0.9%で米国と比べてもその差は約1.5%低いだけで下げ余地が少ない。そこで日銀は社債や指数連動型上場投資信託(ETF)やREITといったリスク資産の購入も決定し、資産市場へマネーを流すことで株価やREIT市場の下支えを図った。

REITの購入は当然ながらREIT市場の投資口価格(株価)を支えることになる。現に5日はREIT市場で、東証REIT指数が午後に急反発した。分配金利回り平均5.3%と東証1部平均2.1%からみて割安感が出ていたところに、日銀のREIT購入が好感され、機関投資家を中心に見直し買いが入った。

特に日本ビルファンド投資法人やジャパンリアルエステイト投資法人などの大手REITは、新基金の買い取り期待で、投資口価格の上昇率はともに3%を超えた。「財務の良好な銘柄に投資する傾向の強い地方銀行が、先回りして買ったとみられる(みずほ証券の並木幹郎シニア不動産アナリスト)。」

足元のREIT指数は基金創設で買い安心感が高まり、堅調に推移しているが、野村証券の荒木智浩シニアアナリストの「このまま上昇が続くには、基金が買い取る金額や基準が明確になることが必要」という指摘もある。

1、オフィス系不動産
 
■足元のオフィス市況

東京都心と地方政令都市の中で11年の九州新幹線全線開通、新博多駅ビル開業などビッグイベントが来年に予定されている福岡市のビジネス地区について足元のオフィス市況を見てみる。

【東京都心】

直近のオフィス市況を見るには、三鬼商事、ビルディング企画、シービー・リチャードエリスなどによる9月末時点の空室率、賃料動向の調査結果がある。いずれの調査結果も空室率の底入れが近いことを感じさせるものだが、賃料は依然として下落基調から抜け切れてなく、改善には時間がもう少しかかるというものだった。

9月末の都心5区の平均空室率、平均募集賃料について日経記事から引用すると、「東京都心のオフィス空室率が2ヶ月ぶりに低下した。三鬼商事が7日まとめた9月末の都心5区の平均空室率は、前月比0.16ポイント下がり9.01%となった。ビルディング企画(東京都千代田区)の調査でも前月比0.35ポイント低い9.06%となった。企業の一部に事務所の面積を広げる動きが出ている。今後については9%前後で推移しそう(三鬼商事)との見方が多い。三鬼商事によると3.3平方メートル当たりの平均募集賃料(共益費を含まず)は前月比123円(0.69%)下がり、1万7,709円。賃料が上昇に転じるには時間がかかりそうだ。」

さらに日経記事から引用すると、「米シービー・リチャードエリスは10月8日、9月末のオフィスビル市場動向をまとめた。東京23区の空室率は7.5%と前回調査の6月から変わらず、07年から続いた空室率の上昇が一服した。なかでも主要5区で立地に優れ最新設備を備えたSクラスのビルは空室率4.8%と6月から1ポイント低下。一方、都心以外の地区ではテナント確保の厳しいビルも出ている。東京以外の11都市のうち大阪市(11.0%)、名古屋市(13.9%)などは空室率が低下。一方で仙台、神戸、福岡など7都市は空室率が上昇。需要は全国的に力強さを欠く展開が続いている。」

都心5区の空室率は6月末前までは最高値を5ヶ月連続で更新していたが、6月末の東京地区の平均空室率は9.10%で前月より0.04ポイント下がり2年半ぶりに低下した。しかし、8月では、再び前月比で0.07ポイント上昇して9.17%。そして9月末で引用記事のように前月比0.35ポイント低い9.06%となった。

6月末以降は、東京都心5区の空室率は、9%台で一進一退を繰り返している。賃料下落が企業の移転、オフィス拡張を促しているが、移転前のビルでは、移転後の空室の発生などの懸念が高まっている。総じて借り手優位の状況は変わらないが、足元では空室率の一方的な上昇は落ち着きを見せてきている。

一方、賃料は依然として下落している。三鬼商事、三幸エステートの資料を基にRREEFリサーチが作成した「東京都心5区における基準階面積別オフィス募集賃料の推移」によると、07年のピークから足元で33%も下落している。

賃料の値下げに留まらず貸し手がフリーレント期間を設定するなど賃料集計・統計に反映されない下落側面もあることに注意しなければならない。賃料上昇率と空室率は逆相関となっており、貸し手と借り手の賃料交渉パワーバランスの均衡点とされる空室率5%台に達するまでは賃料下落は止まらないと見られている。

【福岡市】

シービー・リチャードエリス調査では、福岡市における10年9月期の空室率は対前期比0.2ポイント上昇の14.3%となり、前期7期振りに低下に転じた福岡市の空室率だが、今期再び上昇を示す結果となった。今期は、リニューアル等のため一時的に貸し止めとなっていた空室が再募集されたケースや、自社使用部分を貸室に供するケースが複数見られたことが、空室率上昇の要因として挙げられる。ただテナント動向としては、館内増床や拡張移転等、賃貸マーケットの拡大につながる需要が増えてきており、マーケットに改善の兆しが見えつつある。

新築ビルの9月末時点の空室率は、三鬼商事調査では49.21%。竣工1年未満のビルが3棟あり、小型ビル2棟は高稼働したが、大型ビル1棟が募集面積を残しているため空室率が高止まりした。今期の平均賃料は9,573円で前年同月比2.17%下げた。

■今後の展望とオフィス系不動産投資

オフィス空室率と賃料の今後を予想すると、空室率は賃料の先行指標となっているので、空室率の改善が進めば、これに遅行して賃料下落が止まり、やがて上昇へ転ずるという流れになる。

三鬼商事のデータを基に都市未来総合研究所が作成した資料によると「2003年問題」の後、東京都心5区の空室率が改善し始めて、平均募集賃料が上昇に転じた時間差は15ヶ月だった。足元での空室率の改善からこの数値を使って募集賃料の上昇タイミングを予測すると11年末から12年に入って募集賃料の上昇が始まることになる。

また財団法人日本不動産研究所と三鬼商事の共同研究会が9月に発表した今後10年間のオフィス空室率と成約賃料の予測をしたもので見ると、空室率は年内にピークアウトするが、成約賃料は2012年以降に下落から上昇に反転、年率2%前後の上昇率で緩やかな回復となっている。

※都心5区基準階100坪以上のオフィスビル対象

みずほ総合研究所が9月17日発行した「みずほ日本経済インサイト~オフィス市場の動向について~」によれば、東京ビジネス地区のオフィス空室率は2010年以内は9%前後、11年末で8%台前半に低下。賃料は11年半ばまで緩やかに下落を続け、17,500円程度の水準で底入れするという結果になっている。

上記のようなオフィス市況の現状と今後の予想から見てオフィス系不動産投資の本格的な回復には時間がかかりそうだ。しかし、稼働率、賃料といったオフィス賃貸市況とオフィス系不動産売買価格を比べてみると、売買市場は賃貸市場より先行するため、賃貸市場が回復トレンドに乗り始めると売買市場はそれより先行していち早く回復することになる。

この理由は、売買時に物件価格を査定する予想NOIや割引率はフォワードルッキングで出口に至るまでの今後の賃貸市場を予測して決定するからだ。つまり理論的には将来、賃貸市場が「このレベルまでは回復する」と予測すれば、現時点での売買価格に先行して織り込まれるはずだからだ。

また銀行の不動産貸出は一時の選別引き締めムードからかなり緩和している。日銀短観の「金融機関の貸出態度DI(不動産業向け、全規模)」と不動産の資本取引(売買)は強い正の相関(0.920加工後)があり、すでに売買総額は反転増加して推移している(みずほ信託不動産トピック)。

さらに10月5日の日銀の量的緩和による金利低下が有利子負債比率が大きく金利感応度が高い不動産会社に追い風になることは冒頭で書いた。国内景気の回復トレンドが続けば、上場主要企業で進んでいる手元流動性増加に金融緩和が加わって、企業がオフィスの館内増床や拡張移転に向かい、賃貸市場の活性化が加速して一気に売買市場も改善が進むことになる。

資金調達力のある一部のプレイヤーは価格調整が進んだ現時の不動産マーケットを投資チャンスと狙っているが、買主の価格目線は下がっており、如何せん物件選別が厳しい。このため売買物件の量的拡大はいまのところ限定的だ。

また前回のコラムで書いたマクロ経済要因の不透明さから企業が設備投資やオフィス拡張、新設に慎重なので、日本経済が今後、景気回復プロセスのなかの踊り場どころか2番底に入ると企業業績等が下ブレしてオフィス需要が低下し、賃貸市場の下ブレと連動した売買市場の価格下落へ転じる可能性も考えられる。

オフィス賃貸市況を覆う不透明感から不動産投資プレイヤーのなかには現時におけるポートフォリオの構成でオフィスビル投資比率を引き下げキャッシュフローが比較的安定している住宅への投資比率を上昇させる動きがある。例えば、REITだ。「日経不動産マーケット情報」によると、オリックス不動産投資法人(OJR)は、オフィスビルへの投資比率を引き下げると同時に、住宅への投資を再開する意向を明らかにした。

また同誌によると7~8月にかけて決算を公表した日本ビルファンド投資法人や日本プライムリアルティ投資法人などオフィス系REITで賃貸事業収益の減少を見込む予測が目立っており、オフィス系不動産投資にネガティブな見方が強まっている。

オフィス系不動産投資においては都市やその中でのビジネスエリアごとのオフィスビルの今後の供給量予想も投資決定に欠かせない。東京都内と福岡市について見てみる。

森ビル調査(対象地域:東京23区、調査時点:2009年12月末、集計対象ビル:事務所延床1万㎡以上)によると東京都内の新規オフィス床供給量は2010年の供給量85万㎡で3年連続で過去平均103万㎡を下回るが、11年153万㎡、12年140万㎡に増え、過去平均を上回る。今後の市場動向は、2010年以降は実質GDP予測が前年度比でプラスに転じ、企業の新規貸借意向が回復しているので2010年以降は吸収量が供給量を上回って推移し、09年末空室率5.9%から12年には5%を下回ると同調査で予測している。

福岡市内のオフィスビル市場規模は55万坪といわれているなかで需給を無視した大量供給が需給悪化を招き、空室率は高止まりで推移している。しかし、これまで福岡市の空室率を押し上げる要因となってきた08・09年竣工の新築Aクラスビルにおいては09年1月竣工の薬院ビジネスガーデン(延床面積24,400㎡)が満室稼働となるなど、空室消化が進んできた。

シービー・リチャードエリス総合研究所株式会社がまとめた特別レポート「2010年オフィス市場の展望」によると、福岡市の2010年の見通しについては新規供給面積の減少により、福岡市では空室率上昇に歯止めの兆しがあると予想しており、三鬼商事のレポートでも「福岡のオフィスビル市場では年内は新規供給の予定がないことから需給調整がさらに進むとの見方が強い」と指摘している。

11年3月12日の九州新幹線全線開通と新駅ビル効果だが、日本政策投資銀行は同ビルの年間売上高を1,300億円と予測する。新幹線と新駅ビル効果で福岡市の九州における拠点性がさらに高まり、熊本、鹿児島からの集客が増え、市内中心部の博多駅エリア、天神が共に潤い、商業機能の高度化が相乗して加速すれば福岡市内のオフィス市場好転の契機になる可能性がある。

▼福岡市のオフィス供給動向

出典:福岡リート投資法人決算説明資料中「福岡のオフィス供給動向(シービー・リチャードエリス総合研究所のデータを基に㈱福岡リアルティにて作成)」

2、商業施設・店舗

■足元の市況

商業施設を取り巻く足元の市況は、リーマン以降の急激な低迷から一部の地域では脱しつつあるなど明るい兆しが見え始めたが、家計所得の伸び悩みに加え、円高、株安が長引き個人消費の回復が遅れており、総じて不透明感が強く、店舗稼働率、賃料とも依然として厳しい状況が続いている。

商業施設の主要テナントとなる小売企業の2010年3~8月期決算は、多くの企業で増益となった。これは企業内部の人件費削減や店舗運営の効率化が進んだためで、売上は、なお低迷しており、小売り各社の外部環境の厳しさには変わりがない。個人消費の回復がない現状では、「円高、株価低迷や政府による経済対策の終了などで上期以上に厳しくなる(Jフロントの奥田務会長)」といった指摘があり、今後の展開は予断を許さない。

消費者マインドも未だ冷えている。内閣府が12日発表した9月の消費動向調査の結果を日経記事から引用すると、「消費者心理を示す一般世帯の消費者態度指数は前月より1.2ポイント低い41.2となった。マイナスは3ヶ月連続で、リーマン・ショックが始まった08年10~12月以来となる。急激に進んだ円高・株安や世界経済の減速による景気の先行き懸念が消費者心理に影を落としている。同指数を構成する4つの項目をみると、「雇用環境」が前月に比べて2.3ポイント低下。エコカー補助金終了などで「耐久消費財の買い時判断」も1.5ポイント悪化した。「暮らし向き」は0.6ポイント、「収入の増え方」も0.4ポイントそれぞれ低下し、09年11月以来、4項目すべてが下がった。内閣府は基調判断を2ヶ月連続で引き下げ、「改善に向けた動きに足踏みがみられる」から「ほぼ横ばい」に修正した。」

次に賃貸市場における店舗賃料の直近の動向を見てみよう。シービー・リチャードエリスが8月中旬にまとめた銀座や新宿など東京都心の主要商業地の店舗賃料の募集事例に基づいた調査結果(百貨店や専門店ビルの店舗は対象外)を日経記事から引用すると、「東京都心の主要商業地の店舗賃料は、前年と比較可能な5地域のうち3地域で横ばいとなり、景気低迷による下落に歯止めがかかりつつある。最高価格帯の通りの1階部分は銀座が3.3平方メートル当たり月10万~22万円(管理費・共益費込み)で、前年に比べて中心値で3%下がった。11%の下落だった前年調査より下落幅が縮小した。表参道は3.5%下がった。新宿、渋谷、池袋は横ばいだった。前年は5~16%下落した地域が多かった。銀座ではリーマン・ショック後の空室率の上昇が一服した。景気の底入れ感や賃料の下落により、地域内や近隣地区から移転する例が増えている。カジュアル衣料などの出店意欲が旺盛だ。同社は「成約は増えつつあるが、上層階や中心から外れた場所などは依然厳しく、先行きは慎重に見る必要がある」と話している。」

また、スペーストラストも都内主要繁華街である銀座、赤坂、新宿歌舞伎町、渋谷地区における10年7月時点の「成約条件推移、市場動向」を発表した。以下、asahi.com記事より引用すると、「今期(10年5月~10年7月期)の成約賃料全体は、前期(10年2月~10年4月期)同様の成約賃料水準で推移。しかし、契約内容をみると複数月のフリーレントや一定期間賃料の割引など、成約賃料に現れない部分での値引きが強く見られる。また、需要.供給バランスを考えると今後も貸主側にとって厳しい状況が続くと思われる。(中略) 全地区で特記すべき点は、例年だと7月は来店等.問い合わせ.案内の件数が激減する月であるが、今年に関しては多少の減少から逆に増加傾向にあったことである。」

上記2社による店舗賃料動向調査では、東京都内主要商業地では、対前年比で下落幅縮小や横ばいが増え、賃料調整が進んだ銀座などでは、現在の賃料相場をチャンスと考え、カジュアル衣料などで旺盛な出店が見られるなど、かなり商業店舗市況に明るさが見え始めている。

次に福岡市の状況を見ると、店舗市況が急激に悪化した天神地区はパルコ進出で好影響が出ている。10年3月オープンしたパルコの3~8月売上は、「69億7,700万円で、当初想定より4割増。入店客数も5割増の約700万人で、福岡パルコ営業課は「夏休みに九州全域から集客があったと話す(毎日新聞)」と好調だ。

一方、トレンディな衣料や雑貨、美容室、飲食店舗が近年になって急速に集積して若者に人気エリアの大名地区は、ミニバブル時にファンド等が進出して賃料が高騰し需給ギャップが拡大、出店意欲が低下した結果、この地区の店舗需要が天神や今泉、薬院方面に流出して空きビルが急増、足元で賃料調整が進んでいる。

博多駅前は、11年3月の九州新幹線全線開通と阪急百貨店、東急ハンズが進出する新博多駅ビルオープンや第2キャナルのテナントの動き次第で商業施設・店舗市場は一部エリアで底打ち、反転の可能性もあり、目が離せない。

■今後の展望と不動産投資

賃料調整が進んだ結果、東京都心のハイストリート沿道の商業施設などは、勝ち組専門店を中心に出店意欲が高まっているが、このような動きは全体を俯瞰すると一部エリアに限られる。

雇用環境や家計所得の回復が遅れているため個人消費の持ち直しが弱く、小売業界では売上の低迷が続いている。これを人件費削減や店舗運営の効率化でカバーして収益は一時的に改善しているものの、企業内の経費削減等は限界があり、今後、景気回復持続→個人消費回復→売上増加→店舗拡張.新設、賃料負担力向上という流れにならないと商業店舗の賃貸市場や売買市場の本格的な回復は期待できない。

最後に今後の商業施設.商業店舗不動産投資を考えるうえで、重要と考えられる企業等の店舗戦略の変化をいくつか触れてみよう。

【進む海外多店舗展開】

かつては低廉な労働者の賃金を求めて工場などの生産拠点がアジア新興国へ移転、最近は急激な円高から製造業の海外拠点移転といった具合に日本国内の空洞化が指摘されてきた。いま足元で起きているのは日本国内の少子高齢化や低成長経済で萎む国内市場から中国など今後、中間層が急伸することで起きる消費需要を期待しての内需型産業である小売や外食業界等の海外店舗移転の怒涛のような流れだ。

衣料品ではユニクロの世界戦略が注目されている。ユニクロ店舗は現在の846店から4,000店前後に広げる計画で、売り上げ目標の6~7割を海外で占めようというものだ。外食企業でも新規出店を海外に移す動きが活発になっている。

日経記事を引用すると、「ファミリーレストランのサイゼリヤは今期、店舗の増加数で海外が国内を上回るほか、カレー専門店の壱番屋は15年末までに現在の5倍の約200店を海外に出す。吉野家ホールディングスも海外で国内を上回る出店をし、少子高齢化で国内市場が縮むなか、出店余地の大きい海外市場の開拓を進める。」

小売や外食各社等のこのような動きを受け、不動産会社等の店舗投資も海外展開を図り始めた。三井不動産は中国で大型商業施設を多店舗展開し、パルコは専門店ビルを中国でオープンする。以下、日経記事から引用する。

「三井不動産は13年にも上海市にショッピングセンター(SC)の1号店を開業し、アウトレットも出店する。パルコは5年内に中国で専門店ビルを10ヶ所以上に開業する。日本企業による中国での商業施設は富裕層を顧客とする百貨店が先行したが、消費市場拡大で中間層を狙った施設の需要が急増すると判断。国内は出店余地が少なくなる中、成長市場で攻勢をかける。中国の所得水準向上や自動車保有台数の増加で、三井不などは中間層向け市場が急成長するとみて国内の施設をモデルに開拓する。中国7ヶ所で大型SCを運営するイオンも出店を加速。開発の中核を担う傘下のイオンモールは、12年度までに4施設を出店する。」
 
【店舗の小型化.効率化】

小売業は個人消費の持ち直しが遅れているため、10年度後期も売上高の本格的な回復が期待できそうにない。スーパーなど小売り各社は大規模ショッピングセンターなどの大型投資を避けて都心部をターゲットに低コスト.高効率で出店.運営できる新型店の展開に力を入れ始めた。業界を代表するセブン&アイ・ホールディングスとイオンはすでに店舗戦略を転換している。

日経速報から引用すると、「セブン&アイ・ホールディングスは都市部に的を絞った小型スーパーの展開を始めた。1日開業した1号店の面積は約900平方メートル。数年で100店舗体制をめざす。出店候補地は駅前商業施設やファミリーレストランの退店跡で「初期投資を大幅に抑えることができる」。1店あたりの投資規模は数千万円程度で済むとみられる。イオンもコンビニエンスストアの退店跡に着目。小型スーパー「まいばすけっと」を都内や神奈川県などに140店超開いた。1店あたりの出店コストはコンビニと比べ4~5割安いもよう。コンビニではローソンが、出店コストが通常店の4割強の約2,500万円で済む「ローソンストア100」を強化。今夏には九州にも進出した。」
 
【飲食業等は小型居抜き店舗を歓迎】

スペーストラストの前述の調査によると銀座、赤坂で事務所需要は乏しく、需要の主流となった業種はバー・クラブと飲食店。需要の中心は10~20坪規模の居抜き店舗で、スケルトンはなかなか成約に至っていない。閉鎖店舗への居抜き出店は、オーナー、テナントの両者にメリットがあるので、市場の透明性や整備が進むと居抜き出店がさらに拡大する可能性がある。

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