2010年後半に入っての不動産価格動向と今後の予測

2010年の後半に入った8月現在、足元の不動産市場を検証し、検証を踏まえて回復軌道に乗ったとみられている不動産価格にこの先、リスク要因はないのか今後の予測をして見よう。

1、セクター別不動産市況の現状

国内の不動産市況の現状は、緩やかな国内景気の回復を反映して薄日が射してきており、主要都市によっては地価下落幅の縮小に加え、一部地域については底打ちから地価上昇に反転している箇所も見られる。各セクター別の市況の現状を以下で概観しながら検証する。

■戸建住宅

09年度の新設住宅着工戸数は77万5,277戸で前の年度比25・4%減。雇用や所得環境の厳しさから、45年ぶりに80万戸割れという未曾有の低迷に見舞われた。しかし09年秋頃から戸建て住宅は地価下落を追い風としたパワービルダーによる低価格住宅が堅調に売れるなど回復の兆しが見えてきた。

国土交通省がまとめた10年6月の新設住宅着工戸数は前年同月比0.6%増の6万8,688戸だった。増加は2ヶ月ぶり。今年1~6月の累計では前年同期比3.8%減の38万1,653戸となり、1965年の集計開始以来、最低だった。住宅着工をみると、貸家は減少したが、持家と分譲住宅が増加し全体を押し上げた。分譲マンションは2ヶ月ぶりの増加、分譲一戸建住宅は6ヶ月連続増となった。

戸建住宅販売の堅調さが目立っているがその要因としては、

  1. 住宅ローン減税
  2. 住宅版エコポイント制度
  3. 贈与税の非課税措置の拡大
  4. 住宅支援機構の優良住宅取得支援制度(フラット35S)による住宅金融の拡充

など政府の住宅施策が効果を挙げているのに加え、国内景気の回復が遅行性のある家計の雇用や所得にも徐々に波及し、住宅の有効需要に改善の兆しが見え始めたことがある。

首都圏で見ると不動産市況の底入れ傾向が、都心のマンションだけでなく近郊の一戸建てにも及んでいる。東京カンテイがまとめた10年1~6月の3.3平方メートル当たりの住宅地価格は73万円。都心近郊で、09年(1~12月)に比べて8%上昇した。最寄り駅別では首都圏400駅のうち73%の駅で価格が上がった。

東京カンテイの調査では、「首都圏1都3県の約1,500駅から、戸建用の住宅地の売却希望物件が多い最寄り駅400駅を選び、更地のみの価格に換算し集計した。分譲マンションは除外しておりJR山手線の内側に集計対象の駅はなかった。400駅のうち293駅で上昇、このうち171駅は10%以上上昇した。92%の駅で前の年より価格が下落した09年とは対照的な結果になった。上昇した場所は都心近郊にまんべんなく分散しており、最も上昇率が大きかったのは新京成線の上本郷駅(千葉県松戸市)だった。東武東上線の川越駅、西武新宿線の新所沢駅と埼玉県内の駅が続いた。」(日経8月5日)

住宅業界サイドから見た「住宅業況調査」でも戸建住宅の好転が顕著だ。社団法人住宅生産団体連合会会長樋口武男(大和ハウス工業株式会社代表取締役会長)は、会員各社の支店・営業所・展示場等の営業責任者に対して、3ヶ月毎に住宅市場の業況感(対前四半期の実績及び見通し)についてアンケート調査を実施している。

10年4~6月の受注実績は、1~3月の実績に比べて総受注棟数の指数はプラス19総受注金額の指数はプラス3の結果となった。地域別の総受注棟数では、北海道(プラス9)、東北(プラス4)、関東(プラス16)、中部(プラス17)、近畿(プラス21)、中国・四国(プラス41)、九州(プラス27)と、すべての地域がプラスで、全体としても受注棟数・金額ともにプラス基調が継続した。10年7~9月の見通しでは、4~6月の実績に比べ総受注棟数プラス17・総受注金額プラス7で全地域で受注、金額のプラスが継続するとの強気の見通しだ。

最近の戸建の販売価格の特徴としては不況の影響下で平均単価が低下するという側面と、太陽光発電装置や家庭用燃料電池を装備した環境商品の人気が高く、付加価値を高めたり、高級仕様を求める需要があり価格が二極化している。

住宅各社は少子高齢化など構造的要因から市場が縮小していくと見ており、この流れに対抗する長期的な成長戦略から特に環境商品開発に傾注している。太陽光発電の売電制度が追い風もあって、新築住宅への太陽光発電装置の搭載率は積水ハウスが09年度に48%、大和ハウスが31%、パナホームが45%と高く、今後も搭載率を拡大していく意向だ。さらに次世代環境住宅として効エネルギー技術を使ったホーム・エネルギー・マネジメント・システム(HEMS)を搭載した住宅が今後は相次いで登場してくるはずで、住宅各社の差別化・付加価値向上戦略が少子高齢化の構造的負荷の重圧を背負う住宅市場で建て替え層などをターゲットとしてどこまで効を奏するのか注目される。

■マンション

10年に入っての新築マンション販売は底入れ基調が継続している。特に首都圏で市況が好転しており、1~6月は首都圏の新規発売戸数は前年比27・0%増となった。景気の回復感や住宅ローン減税など住宅取得促進策が寄与、契約率は好不調の分かれ目とされる70%以上で推移している。

不動産経済研究所が7月15日発表したマンション市場動向によると、「首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)の1~6月の新規発売戸数は2万171戸と前年同期比27%増え、6年ぶりに前年水準を上回った。平均価格も同5%増の4,712万円と08年1~6月(4,821万円)の水準まで戻した。都心部の売れ行きが好調。一方で郊外の安価なマンションを開発してきた中堅・中小業者が相次ぎ経営破綻し、比較的安価な物件の供給が限られているのも影響した。発売した月に契約した割合も1~6月は78.9%と好不調の分かれ目である70%を3期ぶりに上回った。新規物件の45%は東京23区内。千葉県は前年同期比7.4%減だった。近畿圏の1~6月は前年同期比0.7%増の1万231戸。契約率は69.1%と同11ポイント上昇した。」(日経7月16日)

新築マンション販売の回復と相まって都心部でのマンション用地取得が増加している。日経不動産マーケット情報によると「数年前ならオフィス用地として取引された立地でも、デベロッパーがマンション用地として取得するケースが多く、オフィス計画がマンション建設に変更されるケースもある。」この現象は、回復基調のマンション市場に比べ、後述するがオフィス市況が厳しいという現時の世情を反映しているといえる。

新築マンションだけでなく、足元での中古マンション市場も堅調な展開を見せている。東京カンテイの10年6月度の中古マンション価格天気図では全国の様相は次の通り。

  • 東京
  • 薄日(価格はやや上昇傾向にある)

  • 神奈川
  • 晴れ(価格は上昇傾向にある)

  • 千葉
  • 晴れ(価格は上昇傾向にある)

  • 大阪
  • 曇り(価格は足踏み傾向にある)

  • 愛知
  • 晴れ(価格は上昇傾向にある)

  • 広島
  • 曇り(価格は足踏み傾向にある)

  • 福岡
  • 薄日(価格はやや上昇傾向にある)

日経産業7月23日によると「東京カンテイ(東京・品川)がまとめた6月の首都圏中古マンション価格(70平方メートル換算)は前月比4.7%上昇の3,083万円だった。3,000万円台の回復は20ヶ月ぶり。対象地域である東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県でいずれも価格が上昇したほか、水準が高い東京都の物件が多かったことが寄与した。特に上昇幅が大きかったのは神奈川県で6.3%上昇の2,674万円。築年数が小さい物件や横浜市の物件が多く市場に流通したことが影響した。東京都は0.9%上昇の3,945万円、埼玉県は1.5%上昇の1,846万円、千葉県は2.2%上昇の1,923万円。同社は「上昇基調が明確になっている」としている。同時に発表した近畿圏の中古マンション価格は1.1%上昇の1,857万円となった。」

首都圏の中古マンション価格動向では、2000年代以降に相次ぎ開発された高層マンションの中古物件が流通し始めたのが寄与したとみられる。高層マンションは中古になっても値下がりしにくいといわれ、価格を下支えしている。反面、東京都心から離れた地域の中古物件が流通しにくくなっている傾向もある。

■オフィス

政府の住宅支援策の強力な後押しもあって回復基調に乗ったマンションや戸建て住宅と比べ、国内経済の逆風をまともに受けて低迷が続いているのがオフィス市場だ。企業の新規出店・拡張移転の動きは全国的に低調で、コスト削減による規模縮小の動きが大半を占めている。さらに現入居ビルでの館内床縮小や拠点集約による解約が多い。特に地方都市で需給バランスが崩れたエリアでは、需要量が限られているため需給調整に長期間を要すると見られている。

このようにオフィス市況は不透明だが、テナント移転の動きは新築ビルを中心に活発になっており、新築ビルの空室率が都心5区では高い水準ながらも下落に転じている。とはいえ、これもオフィス集約化による賃料負担軽減を目的としたケースが多く、市場全体を活性化するものではない。

このような状況のなか、東京都心5区のオフィス空室率が2年半ぶりに低下したのが潮目の変化として注目だ。「三鬼商事が5日まとめた7月末時点の東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)のオフィス空室率は、前月比0.04ポイント低下の9.10%だった。低下したのは2年半ぶり。同月完工した大型新築ビルがほぼ満室となったことなどが影響したとみられる。」(日経8月5日)

この発表は8月5日11時に報道されたが、この発表を受けた当日の東京市場の後場では業種別で不動産株の上げが目立った。不動産市況の改善期待から買いを集めてた格好だが、三鬼商事は「大型既存ビルは募集面積の増加傾向が続いているが、先行きに慎重なテナント企業がまだ多い」とみており、このまま空室率低下が進んでいくのか不透明だ。

賃料の下落は依然として止まらない。「都心5区のオフィス平均賃料は7月末時点で3.3平方メートルあたり1万7,881円と、前年同月比で11.35%(2,289円)下落、前月比でも0.85%(154円)下げた。「賃料の下落傾向は緩やかになってきたが、誘致競争は厳しさが増している。テナント企業の要望に柔軟に対応する動きが多く見られる」(同社)という。 大阪ビジネス地区の平均空室率は前月比0.01ポイント上昇の11.80%。名古屋ビジネス地区は0.05ポイント低下の13.30%だった。」(日経8月5日)

2、今後の不動産市場予測

今後も緩やかながらも国内景気の回復が続けば、景気循環と無関係の構造的要因で下落している都市やエリア(近年の地価下落地域の地域特性)を除き不動産市場は底打ちから反転に向かつて堅調に推移すると思われる。

例えば、財団法人の建設経済研究所は7月27日、11年度の建設投資額が10年度の見込みに比べて1.9%増の40兆500億円になる見通しだと発表した。政府部門の減少が続くものの、住宅やオフィスビル、工場などの民間部門が拡大するとしている。同調査によると、「10年度の建設投資額は前年度比6.8%減の39兆3,200億円と1977年度以来の低水準になる見込み。公共事業の大幅な削減が響く。11年度の内訳では民間の住宅投資が5.2%増の14兆4,400億円になる見通し。住宅着工戸数が持ち家、マンションともに増え、5.4%増の90万4,800戸と2年ぶりに90万戸を回復する。オフィスビルなど民間の非住宅投資は10.7%増の13兆900億円を見込む。設備投資の急回復を予測している。一方、政府投資は9.1%減の12兆5,200億円を見込む。」(日経7月28日)

10年に入ってからの日本国内の不動産市況の潮目の変化を見て、海外のリスクマネーも「日本の不動産はそろそろ買い場では」と関心を高め、取得に動き出した。例えば、日経電子版7月12日によると、「米モルガン・スタンレーは、6月に47億ドル(約4,200億円)の不動産ファンドの資金募集を終えたが、3割以上を日本に投じる。米系不動産投資会社ラサールインベストメントマネージメントの中嶋康雄・最高経営責任者(CEO)も「日本の不動産の適正価値を考えると、非常に良い買い場だ」として投資拡大に意欲を示す。4月に都内のオフィスビル3棟、6月に東京湾岸地区の物流施設3棟を数百億円で取得。来年夏までに1,500億円規模の投資を見込む。欧州勢も動き始めている。ドイツ銀行グループの資産運用会社は1月に東京・渋谷のオフィスビルを約3,700万ユーロ(約41億円)で取得。仏アクサグループの不動産投資会社も日本への投資に向け、住友信託銀行とファンドを設立する。」

最近、注目を集めているのが中国人投資家による日本の不動産の取得の増加だ。その背景として2010年7月1日より、中国人の個人観光客に対するビザ発行要件が大幅に緩和されることとなったこともあるが、中国国内不動産が中国政府の不動産バブル抑制策で調整局面に入る反面、日本の不動産はリーマンショック後の急激な価格下落を経て回復局面に向かうと見られ、使用権取引の中国不動産に比べ所有権登記が可能で国際分散投資の魅力が高い等がある。

日経産業7月22日によると台湾不動産大手、信義房屋仲介と、豪建設大手レイトンホールディングス(HD)は、オリックス、大京と提携し、台湾や中国の富裕層に日本国内の分譲マンションを仲介すると発表した。投資対象として魅力について「日本は比較優位があると思う。都市のインフラは整い、安全に生活できる。さらに住宅の面積単位の価格は上海や台北よりも安価だ。中国大陸や台湾の不動産投資市場はハイリスク・ハイリターン。一方で東京は長期に安定収益を得たい投資家のニーズがある」としている。

今後の住宅市場の行方を予測するうえで戸建て住宅や分譲マンション等の市況を活性化した住宅取得支援策が今後も継続されるかがポイントになる。積水ハウス社長阿部俊則氏は、「優遇策は継続した上で、各省庁がばらばらに実施している政策を一元化すれば住宅着工戸数は当面、90万戸台を維持できるのではないか。少子高齢化といっても、建て替えなど住環境の質向上に対する需要は根強い。適切な政策誘導があれば、100万戸台を回復することもあり得る」と語っている。(日経7月4日)

ただ上記のような予測やリスクマネー運用者、国内外業者等の読みは国内景気の回復と連動した不動産価格の回復というシナリオが崩壊すると成り立たなくなるだろう。足元ではこのシナリオを揺るがすような景気と不動産価格の2番底リスクが漂ってきた。

2番底リスクは米国の景気減速懸念の拡大と円高の急伸で襲ってきた。EUのソブリンリスクやEU内銀行の不良債権問題は、欧州金融機関91行のストレステストの結果で検査基準が甘いなど批判もあるものの今のところ一応鎮静化した。しかし、日本経済への影響度でEUの比ではない米国の景気減速リスクがここにきて高まった。

米国の4~6月期の米実質成長率は前期比年率2.4%に鈍化した。6月の米雇用統計は市場予測を下回り、企業が雇用拡大に慎重なため、家計が先行き不安から財布のひもを緩めないので 個人消費指標も低調だ。また米政府が住宅取得減税を4月末に打ち切ったので米住宅市場の諸指標が市場予測を下回って下振れした。このような状況をFRBのバーナンキ議長は、アメリカ経済の先行きについて「依然として異常なほど不確実だ。必要があれば、物価の安定を確保しつつ、経済成長に向けた一段の措置を講じる用意がある」との見解を示した。

諸指標の下振れで、米国内では、企業と個人が傷ついたバランスシートを修復しようとするなかで需給ギャップが拡大し、「日本の失われた10年と同じ構図となるのでは」といった警戒感が高まっている。このタイミングで米セントルイス地区連銀のブラード総裁は米経済がかつての日本のような状況に陥る可能性を指摘した。

米国の景気減速はFRBによる金融緩和憶測まで招き、8月4日には85円台前半まで円高を加速させ、日経平均が200円超の下落をした。このまま円高が進むと日本国内の主要企業の10年下期の業績は想定を超えた円高で下振れリスクが高まる。

マクロ経済と不動産価格の関係では住宅系は家計の雇用や所得と相関が高いので、有効求人倍率、失業率、雇用者報酬などの指標が好転してくれば住宅需要は増加する。オフィス系は設備投資や企業業績の増減、さらにオフィスワーカーと関連する有効求人倍率、失業率等だ。これらの指標の改善が市況を好転させるはずだ。

09年はリーマンショック後の落ち込みから日本経済は専ら外需に伴う輸出に牽引されて回復してきた。このプロセスをファーストステージとすると10年は外需だけでなく、セカンドステージとなる設備投資や個人消費が牽引する内需拡大による自律回復が始まり、国内経済の回復を確かなものにするはずだった。やがて「企業の設備投資」や「家計雇用・所得の改善→個人消費活性化」による内需拡大という流れが不動産市場へも波及し、ファイナルステージとして景気動向に遅行する不動産価格回復へ繋がっていくというシナリオが見えていた。

しかし、ここにきての米国景気減速、急速な円高は、今後の展開次第では回復のステップが第1ステージに巻き戻され、回復シナリオが根底から揺るぎかねなくなった。中国や周辺アジア諸国など新興国向けの輸出がいまのところ堅調だが、中国政府による不動産バブル抑制のソフトランディングが失敗すると我が国の輸出に寄与度が高い中国経済の減速も加わって日本経済さらには不動産価格の2番底が現実のものになるだろう。

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