中古ファミリータイプマンション(区分所有)投資の研究

■活性化する中古マンション投資

国内の低金利環境が続くなか、サラリーマンなど個人投資家を中心に中古マンション投資が再び活況を呈している。例えば日経産業新聞によると、投資用の中古ワンルームマンション販売で国内首位の日本財託が昨年12月5、6日に開いた「サラリーマンのための都内中古マンション経営セミナー」は大勢のサラリーマンであふれた。すでに1月、2月のセミナーは定員いっぱいという状態だ。

同社は空室リスクを防ぐため、東京23区内で駅から徒歩10分の物件を仕入れ、顧客に紹介しており、金融商品への魅力がなくなるなか、利回りと安定性から中古マンション投資に注目が集まっていると同社は指摘している。

また同紙によると野村不動産アーバンネットが投資家を対象にしたアンケート結果を6月に公表。投資用物件を「今が買い時」と答えた人は57%と前回調査より5ポイント上昇。不動産価格に対する見方も「既に底打ち」とみる人が前回から21ポイント上がり41%となったが、今後購入したい物件としては「区分マンション」が52%と最も多かった。現在投資物件を持たない人の回答を前回と比較すると区分マンションは12ポイント上昇し60%だった。予算は1,000万以上から3,000万未満とした人が34%だった。物件検討時に重視する点として「エリア・立地」をあげた回答は83%になった。

■見直されるファミリーマンション投資(スター・マイカのビジネスモデル)

マンションの区分所有投資は価額の安価性と投資利回りの高さから新築より中古、中古のなかでもファミリータイプよりワンルームタイプが投資家に選好される。しかし、ワンルームタイプはすでにファンドなどにより過剰に供給され、需給が大幅に悪化し、空室率が高くなっている。その結果、深刻な賃料下落を起こしており需給調整に今後、相当の時間がかかりそうな状況だ。このようななかこれまでは不動産投資のなかで低利回りを理由に敬遠されてきたファミリータイプの中古マンション投資が見直されている。

今回のコラムでは、中古マンション市場におけるリーディングカンパニーとして、首都圏を中心にファミリタイプの中古区分所有を常時約1,000室保有し、年間に約1,000 室の売買取引実績を有するスター・マイカを紹介する。

同社は、首都圏を中心にファミリータイプの中古マンションに絞って、賃貸中のオーナーチェンジ物件を、1室単位で買い取り、賃料収入を得て入居者の退去後は、1室毎に最適なリノベーションを行い、エンドユーザーに売却して売却益を稼ぐというビジネスモデルで創業2年目から赤字なしでここ5年間で2ケタの営業利益を上げている。日本経済新聞では09年12月~10年5月期の連結純利益も前年同期の2.1倍の3億4,000万円になったようだと発表した。

新興の不動産投資会社がリーマンショック後の信用収縮、不動産バブル崩壊でその大半が破綻し焦土と化したなかで堅調な実績をなぜ維持できたか、同社のビジネスモデルを研究することは多くの個人投資家にとって有益と思われる。

賃貸中の中古マンションを取得し、入居中は賃料収入を得て、退去後は空室物件として売却するというビジネスモデル自体は、出口を前提に物件を取得、インカムリターンとキャピタルゲインを総合した投資指標IRRを上昇させて投資成果を図る通常の不動産投資と何ら変わることがない。このシンプルな手法で利回りからみて妙味が少ないといわれるファミリー向けマンション投資で事業成果を上げているのにはいくつかの理由がある。

日経ヴェリタスの特集記事「中古住宅 時差で稼ぐスターマイカ」にその辺の事情は詳しい。当該掲載記事並びに同社の決算説明資料等より要約して紹介すると、

  • 不動産仲介業者と密接な関係を築いて優良な中古物件をいち早く取得できる
  • 2001年の創業時から査定したマンションが約5万件になり、首都圏のほとんどのマンションのデータが蓄積されているので、購入価格である「理論価格」を2時間以内にはじき出せる
  • 取引銀行間で約20億円の借り入れ枠契約を結び、この枠で物件取得を行い、1年後に返済期限がきたら3年の長期借入金に借り換える、その後、取得した物件を売却し、売却代金で返済していく。返済ペースが安定している分、借り入れコストを2%程度に抑えることができる
  • 同業他社と比べ長期借入比率が高くバランスシートが安定している
  • エリア、築年数、価格帯をポートフォリオ構成してリスク分散をしている

などがあげられる。

またワンルームマンションと比較して低利回りで投資妙味がないとされきたファミリータイプだが、同社のビジネスモデルから投資対象として評価できるいくつかの点が見られる。

  • ワンルームは投機的な特性が強く、価格の変動が大きいがファミリータイプは実需が主流なので価格変動が比較的安定している
  • ワンルームは平均入居期間が短いがファミリーは入居期間が長いので空室リスクが低い
  • ファミリーの入居者の方がワンルームの入居者より居住者の属性が一般に良質とされている
  • 投資向けワンルームマンションに比べファミリータイプはオーナー自らが居住することを想定 して建築されているため、一般的に設備や内装などのグレードが高く、品質も良いマンションが多い
  • ファミリー向け分譲マンションは投資向けワンルームに比べ管理組合の意識も高く、管理の程度がよい

ファミリータイプが主体だと価格変動が安定しているため、棚卸資産の低価法適用の初年度の09年11月期の棚卸資産の評価損は約3億円で、期末の販売用不動産177億円に対する比率が僅か2%程度と手持ちのマンション在庫で多額の評価損が相次いだ企業が多いなか価格下落リスクを回避できている。

さらに中古マンションの場合、新築マンションが購入後、10年経過まで急速に減価するのに比べ、10年経過後の値落ちカーブが緩やかになるという特性が価格変動の安定に寄与している。

以上の同社の強みを支えているのは、大手仲介業者をはじめ数百店舗への地道な営業活動による物件情報収集と膨大な物件データベースを活用した取引事例比較法中心の価格査定システムの構築、複数のPM会社へアウトソースする保有管理体制、売却時の簡易リフォームの大量発注によるコストダウンなど社内業務体制の効率化がある。このような体制がないと価格ロットが小さく膨大な数の1戸単位の区分所有投資で利益を持続して稼いでいくことは難しい。

また同社のファイナンス力も大きい。マンション1戸単位で借入を行うと、1棟物件と比較して戸数=案件数となり、担保評価、抵当権設定等の事務手間が膨大になり、従来の不動産担保融資では事業拡大に限界があるが、同社では1棟物件に比べ難易度が高い、「マンションポートフォリオ」での借入を実現。長期借入比率も高く、早期に在庫を現金化して借入金を返済し借り入れコストを低減している。

■ファミリーマンション投資の課題

中古マンションの1戸単位の不動産投資を専業として行っている企業は意外に少ない。その最大の理由は、投資効率の悪さと利幅の薄さだ。例えば10億円投資するとしよう。1棟3億円強の1棟マンションは3棟購入で3案件だが、1戸2,000万円の区分所有は50戸で50案件になる。ザックリいうと3:50で様々な手間が余計にかかるわけだ(反面、ポートフォリオ効果でリスクが分散するというメリットはある)。

また「収入(受け取る賃料+売却価格)からコスト(取得価格+リフォーム費用など)を差し引いた粗利益は15%そこそこ(日経ヴェリタス)」である。このような手間がかかる割に利幅が薄い領域には大手は参入しない。したがって参入障壁は高いといえる反面、利幅の薄さをどのように改善していくかが課題となる。つまり「利益のボリュームを膨らませるにはベースとなる資産、すなわち手持ちのマンション在庫を増やすしかない(日経ヴェリタス)。」

ファミリータイプマンション投資の宿命的な課題は、ファミリー層向けの分譲マンションとの競合である。入居者は分譲マンションをローンで購入した時の月々の返済額と家賃を比較して月家賃>月額返済額となると分譲マンションを選ぶ。分譲マンション業者もファミリー賃貸入居者をターゲットにチラシ攻勢をかけてくる。この課題については近年、居住者が持ち家志向から家族のライフステージに応じて、賃貸物件を自由に住み替えていくという賃貸志向に移行しつつあるという意識変化に期待するしかない。

またマンションの資産価値の構成要素として「建て替え」の可能性を検証しておく必要がある。所有者が自住することが多いファミリータイプのマンションの場合は、更地化→建て替え→等価交換・権利変換で従前の住戸に代わる住戸を取得というシナリオが一般的と考えられる。

築浅物件で投資家が当該マンションを短期での運用・売却目的で購入していれば、投資の出口としての建て替えや更地化後の売却価格への関心は薄く、築後30年ぐらい経過した老朽物件になってくると、建て替えの実現性、コスト、建て替え後に等価交換等で取得できる住戸のグレード、専有面積とその市場価値や精算金への関心が急速に高まってくるというのがこれまでの実情であった。

今後、マンション建て替えへの法整備、融資、補助金等の充実と相俟って建て替え事例が増えてくると、築浅、築深にかかわらず、当該マンションの建て替えの実現性の程度、更地化実現後のシナリオ、その費用対効果など様々なシミュレーションを行って投資価値を決定する度合いが高まるだろう。つまり今後のマンション投資は、建て替えのリアリティが増すごとに建て替えを含めたシナリオ、その実現性の程度、建て替えることによる投資効果の予測抜きで考えられなくなると思われる。

容積率に余裕があり、建て替え時の土地価格が高ければ建て替えの可能性は高くなる。容積に余裕があれば既存マンション(施工マンション)から等価交換により取得する施工再建マンションの住戸の専有面積は増加するし、さらに容積の余裕分をデベロッパーが余剰床として実現し、余剰床を販売して建て替え参加者が負担する建築費などの事業費に充当することができる。また土地価格が高いと権利変換率(建て替え後に権利変換で取得できる専有面積の割合)や余剰床の販売価額は上昇し、事業採算性が向上する。

この側面から観ると一般にワンルームなど投資用のマンションは収益採算性を高めるために容積率の限度いっぱいに建てていることが多く、なかには現行の容積率より建っているマンションの容積率が上回る既存不適格のケースも見られる。一方、ファミリータイプはワンルームタイプに比べると容積率に余裕があるものが見られるようだ。

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