低価格住宅時代の到来と住宅各社の取り組み

「坪25万8千円」とか「1棟550万円」といった超低価格をキャッチフレーズにした低価格住宅が相次ぎ登場し、まさに百花繚乱となっている。

「住宅のユニクロ化」と呼ばれる低価格化の背景には人口減少、少子化、デフレといった時代の逆風のなか、住宅業界の熾烈な生き残りをかけた販売競争と住宅購入者の豪華さより節約志向で実質的な機能・価値を求めるといった需要変化がある。

住宅市場の今後は中長期でみて人口・世帯数の減少など構造的な要因やライフスタイルなどの変化で、持家の戸建住宅の需要は減少していくため、年間100万戸に到達できずに80~90万戸のペースが続くとの予測が多い。

需要が先細りしていくなか、低価格を旗印に新興勢力のタマホームやパワービルダーの躍進は、価格訴求力の強い商品が近年の住宅市場でユーザーの支持を集めていることの証左であり、住宅業界の勢力地図が塗り替わる可能性も秘めている。一方、知名度が高いいわゆる老舗のハウスメーカも萎んでいく住宅市場と新興勢力の低価格攻勢に強い危機感を抱き、思い切った低価格路線を打ち出してきた。

今回のコラムでは、低価格路線にシフトする住宅各社の動きを探ってみよう。

■550万円住宅のアキュラホーム

注文住宅のアキュラホームが開発・販売する戸建本体価格税込550万円の新商品「新すまい55」が前代未聞の低価格で住宅購入者だけでなく、住宅業界にも衝撃を持って迎えられた。

ムダを研究して1000項目に及ぶコストダウンコードを応用してコストダウンを行った箇所は、

  • 建具のドア
  • ドアの上部の下がり壁にクロス貼りという従来仕様を天井までオリジナル建具にすることでドア1ヶ所2,000円コストダウン

  • クローゼット
  • 四方に枠がつき、内側にべニアを施し、仕切りを設ける従来仕様をこれらを取り除くことで17,000円コストダウン

  • 上下左右の4方向にある窓枠を設けず窓台だけにすることで1,500円コストダウン

  • 天井
  • 従来のクロス張りを化粧石膏ボードにすることで1㎡当たり1,200円コストダウン

などで、一方、風呂は通常の戸建住宅と同じ大きさにするなど商品魅力を高める工夫もされている。

アキュラホームの「新すまい55」はこれまで2種類しかなかったが、10年1月から 既存の2商品に加えて平屋で2タイプ、2階建て6タイプのプランを追加して10種類に増やし、価格帯も550万~710万円に拡大。対象とする世帯人数も増やす。デフレ傾向が強まるなか消費者からの反響が大きいためで、これまで住宅購入を検討していなかった顧客をつかむ商品群として育てる考えだ。

「間取りは1LDKと2LDK。延べ床面積は約48平方メートルから約73平方メートル。最大で既存商品より約5割広げた。3人世帯まで対象とする。顧客の要望の多かった収納空間を拡大。狭小間口対応の都市型に加えて、間口をゆったりと構えた郊外型も用意した。「新すまい55」は設備や資材の一括仕入れで調達コストを抑え、低価格を実現した。 商品群の拡充にあわせて、来年1月から既存2商品は同社が主宰する中小工務店やビルダー約500社の会員制組織「ジャーブネット」でも発売する」(日経産業新聞)。

■パナホーム「NEWエルソラーナS」

パナホームは、太陽光発電装置や複層ガラスなど長期優良住宅仕様を備えながら床面積112㎡1,891万円と2,000万円を切るコストパフォーマンスを重視した「NEWエルソラーナS」を投入した。上田勉社長は「30代で年収が400万~500万円の顧客層獲得に向け、あくまでも税込みで2,000万円を切ることが目標だった」という(日経産業新聞)。

高級タイル調の外壁をボードタイプの建材に変えるなどの仕様変更で価格を抑えた。30代の顧客を対象に、子どもの成長に合わせて部屋の設計を簡単に変えられるなど家族構成の変化に合わせて間取りの変更がしやすい省エネ住宅とした。

■ミサワホームSMART STYLE「C」

ミサワホームもコンパクトタイプの低価格住宅SMART STYLE「C」を11年10月から発売した。ポスト団塊ジュニア世代(24~33歳)をメインターゲットに、1次取得者でも購入しやすい延床面積100㎡(約30坪)前後のコンパクト市場に向けて開発された商品。

同社の主力商品のスマートスタイルシリーズは、従来の企画住宅とは違うコンセプトで、コストを抑えながらも、性能、品質、機能を充実させ、プランの自由度向上や仕様・設備の選択肢拡大などを高いコストパフォーマンスで実現することを目指す新・企画住宅である。

同社のWebサイトによれば、当該シリーズに追加されたSMART STYLE「C」は、建物ボリュームを抑えてミニマム(必要最小限)なプランニングとし、また必要以上のデザインを省いてトータルコストに配慮しつつ、住む人がアレンジできる余白残している。

さらに、長期優良住宅の認定基準に適合する性能と品質を標準装備しており、センターリビング設計による24畳大のLDK及び上下階を立体的につなぐ階段周りの吹き抜けといった広く暮らせる工夫や、プラスαの収納空間を確保する階段下「マルチ収納」を提案するなど、コンパクトでも高性能、高品質、高機能でコストパフォーマンスに優れた住まいと謳っている。

ミサワホームの竹中宣雄社長も「団塊ジュニアネクスト世代向けに、コストパフォーマンスが高い商品を投入しないといけないと、参考価格で1,500万円ほどに抑えた「スマートスタイル・シー」を発売(日経産業新聞)」と語るように同社が1次取得者をターゲットとして、デフレと最近の低価格住宅開発の潮流を睨んだ商品投入といえる。

■三洋ホームズ

三洋ホームズ(旧社名クボタハウス)は、太陽光発電とオール電化を標準とする軽量鉄骨造の戸建て商品を開発・販売しているが、1次取得者である30代向けに、将来の増改築を想定した割安な住宅を発売した。価格は延べ床面積が129平方メートルの場合、約2,150万円。

新築時に夫婦2人の場合、2階部分は間仕切りをなくして建築し、子どもが育ってから壁を設けることなどを見込んでいる。二世帯住宅など、将来の増築を予定した構造計算もできる。初期費用も従来の住宅より150~200万円安くしたという。

家族構成の変化に合わせて室内の間取りを簡単に変更することを想定した。新築時に資金が不足している場合は外観も質素にするが、将来はタイル張りなど豪華な外観にすることもできる。 

■その他地場住宅会社

長野県松本市にある建設業の信成は、地元の建築家らと連携し、デザインと値ごろ感を売りにした低価格の戸建住宅の販売を始めた。土地代を除いた価格は最低1,500万円と、同社の注文住宅のほぼ半額に抑えた。工事期間は従来の約3分の2にあたる4ヶ月程度。30~40代の子育て世代向けに年間20棟の販売を目指す。

「コラボデザインハウス」と名付けた企画住宅は2階建てで延べ床面積120平方メートル。建物の構造は共通だが、間取りや壁紙、ドア、クローゼットなどは自由に設計できる。松本市内の若手建築家や家具作家らと施工主が話し合いながら、設計を詰めてもらう。

群馬県太田市の富田建設は土地・建物の合計価格を1,400万円程度に抑えた注文住宅の販売を始めた。建物は、2階建てで床面積が66、76、79、92、96平方メートルの5種類を用意した。富田建設の用意した3LDKの標準型の間取りを選べば、壁紙や床などを決めるだけで工事を始められる。土地は100~200平方メートルで、乗用車2台分の駐車スペースを確保できる低価格の土地を手当てする。

コストダウン対策として、①間取りの共通化などで打ち合わせの時間を大幅に減らす。②建築資材の仕入れ先を1社に絞り、仕入れコストが従来よりも約1割下がったほか、工法が同じになるため施工業者との打ち合わせ時間も短縮。③幼稚園児か小学生の子どものいる20代後半~30代前半を主な顧客層に設定し、土地は同じ小学校の学区内で探す。地域を限定することで選択肢を絞り客との打ち合わせ期間を1ヶ月程度に短縮。などを行った結果、材料費を圧縮。建築費を40~50%引き下げた。
 
■まとめ

以上、低価格住宅への住宅各社の取り組みを見てきたが、そこから見えてくるのは安易に低価格だけを売りにして「安かろう悪かろう」の商品開発販売をしている姿勢ではない。かりにそのような住宅メーカーがあったとしても需要者の厳しい目線に耐えられず淘汰されるだろう。

重要なことは、低価格であることの合理的な根拠をユーザーに説明できることだ。「資材や仕様・施工を手抜きして低価格になっているのでは?」という疑心暗鬼を購入者が抱くなら低価格でも売れない。

住宅会社は、低価格を実現するため、プランの規格化、ユーザーとの打ち合わせ時間の短縮化、建設資材・設備機器の一括仕入れや施工の標準化、機能性を落とさない範囲での無駄な仕様の排除、将来の追加投資を可能にして建築時のコストから当該部分を控除するなど、さまざまな企業努力を行っている。この辺の成果は開発力や体制で差が出るのだろう。

低価格住宅のメインターゲットは1次取得者である30代だが、この世代の共通点は住宅資金が限られており、合理的で節約志向が強い。反面、自己実現のため個性を重視し、自己空間を表現する傾向がある。

このような価値観とライフスタイルに適合できる居住空間でなければならない。つまりこれまでの住宅が纏ってきた豪華さや無駄なものは排除されても住む人の個性を満足させるセンスやライフスタイル・家族数の変化等に対応できる長期的な可変性がなければならない。また耐震強度、長期優良住宅適合や太陽光発電などこれからの住宅に求められる基本的な性能に配慮している低価格住宅も見られる。

縮む住宅市場のなかにあっても「安くて良い住宅」への潜在需要は大きい。住宅メーカーにとっては、低価格のなかにどれだけ機能や品質をバランスよく盛り込めるかが勝負といえる。

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