福岡市オフィスビル市況好転要因について

オフィスビル市場の激戦区福岡市の空室率は依然として高い水準で推移しているが、今後の動向を展望すると市場好転の期待を抱かせる幾条かの光明も射してきた。それは、

  • 国内のマクロ経済要因の改善
  • 市内のオフィス市場需給好転の兆し
  • 全線開通する九州新幹線と新駅ビル開業効果

が挙げられる。

三鬼商事によると福岡ビジネス地区の2月末時点の平均空室率は15.30%で依然として高い水準である。前月比0.16%下げたが、同時点の東京ビジネス地区の平均空室率8.66%と比べると極めて高い。また福岡ビジネス地区の09年12月末時点の平均賃料は9,712円で前年同月比2.72%下落した。

リーマンショック後の景気低迷によるテナント企業のオフィス縮小・閉鎖の動きから特に地方では政令市においても需要が低迷していることに加え、09年の福岡ビジネス地区の新規供給量は延床面積約3万6千坪、08年とほぼ同量が大量供給されたことで深刻な需給悪化を招いた。

07年頃をピークに東京勢や外資による福岡市内のオフィス供給が加速し、新規供給量が急増したが、同時期に竣工した地元資本によるビルは、比較的堅調な稼働率を維持しているのに比べ、ファンド系の新規供給ビルの稼働率は特に悪いと言われている。

三鬼商事のレポートでは、ここにきて空室率が僅かだが改善するなど足元ではやや市況悪化が止まりつつあるようだが、今後、ボトムを打って反転していくかは冒頭に挙げた市場要因如何と思われる。以下、各要因に言及する。

■マクロ経済要因の改善

オフィス市況に相関性が高い経済要因は、企業の設備投資、雇用、企業業績、銀行の貸出態度等である。テナント企業が「手狭になったオフィススペースを同じ館内での増床や移転により広げよう」と動き出すのは、企業の設備投資意欲が高まり、オフィスワーカーと呼ばれる従業員を積極的に雇用するタイミングになるし、テナント企業の賃料負担力は企業業績に影響を受けるからだ。

足元の国内経済は、好調な中国を筆頭とする新興国経済が牽引する輸出の伸びと、劇的な在庫調整の進展で鉱工業生産指数に見る生産の回復が顕著で、製造業を中心に業績が回復しており、さらに非製造業も回復の兆しが見え始めた。

直近のマクロ指標を見てみよう。日銀が4月1日発表した3月の企業短期経済観測調査(短観)によると、大企業・製造業の景況感は4四半期連続で改善。改善幅も前回の昨年12月調査より大きく、国内景気が回復軌道に乗っていることを裏付けるものだった。

注目の設備投資だが、10年度の計画でも依然として低調ではあるものの、 設備が「過剰」と回答した企業の割合から「不足」を引いた生産・営業用設備判断DIは大企業製造業でプラス25となり、前回から5ポイント改善した。雇用の過不足を示す雇用人員判断もプラス17で、5ポイントの改善。設備や雇用の過剰感がやや和らぐなど設備投資や雇用に改善の兆しが見える。

また短観の大企業の10年度計画によると、売上高は製造業が前年度比3.9%増、非製造業は2.1%増となった。経常利益は製造業が49.3%増と3月調査では過去最大の伸びを示し、非製造業も7.1%増となるなど企業業績の大幅改善が見込まれている。因みに証券各社から出されている主要企業の増益率も大幅改善を予測している。

企業業績の拡大はテナント企業の賃料負担力に相関するが、さらに一連の景気回復局面で企業マインドを設備投資や雇用拡大へ促進させるため、オフィス需要にプラスに働く。

各シンクタンクの調査では、企業の固定経費削減努力等で企業体質が筋肉質になっているため損益分岐点や労働分配率が下がっており、設備や雇用の過剰感は薄れている。通常、設備投資、雇用に対して企業マインドが攻めに動意するのは景気回復プロセスの終盤近くになるため遅行する。これらのマクロ指標の改善が今後も持続するにしても市内のオフィス市況を下支え押し上げるには後述する博多駅前のビッグイベントが予定されている11年に入ってからではないだろうか。

■市内のオフィス需給改善の兆し

市内のオフィスビル市場規模は55万坪といわれているなかで需給を無視した大量供給が需給悪化を招いた。しかし、10年は福岡ビジネス地区の新規供給量が延床面積2,700坪(供給棟数2棟)に止まる。シービー・リチャードエリス総合研究所株式会社がまとめた特別レポート「オフィス市場の展望」によると、福岡市の10年の見通しについては、横浜・名古屋・大阪・仙台の各都市ではもうしばらく空室率上昇が続くマーケット環境が予想されているのに比べ新規供給面積の多少により、福岡市では空室率上昇に歯止めの兆しがあると予想している。供給が抑制されることで需要側面である他の2要因の動向次第で市内の需給改善が期待される。

■九州新幹線全線開通と新駅ビル開業効果

福岡ビジネス地区の中でも博多駅前エリアのオフィス市況は悪い。三鬼商事の前記レポートでは、当エリアの2月末時点の平均空室率は、17.37%で対前年同月比で4.32ポイント悪化した。

しかし、JR博多駅を巡るビッグプロジェクトが進んでおり、この影響は不況下の現時点では沈潜しているように見えるものの、当該エリアの商業、オフィス需要拡大の起爆剤として期待されている。

11年春にJR博多駅に九州新幹線が全線開通し、新博多駅ビルが竣工・開業、駅周辺部の再開発も予定されている。新駅ビルには売り場面積4万㎡の阪急百貨店を核に東急ハンズ、シネマコンプレックスも入居する20万㎡の巨大商業施設が誕生する。

日本政策投資銀行は同ビルの年間売上高を1,300億円と予測する。新幹線と新駅ビル効果で福岡市の九州における拠点性がさらに高まり、熊本、鹿児島からの集客が増え、市内中心部の博多駅エリア、天神が共に潤い、商業機能の高度化が相乗して加速すれば福岡市内のオフィス市場好転の契機になると考えられる。

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