平成22年地価公示価格 / 福岡市の地価動向を読む
福岡市の平成22年地価公示価格は、地価底打が近いのか、このままさらに沈んで行くのか、今後の中短期の地価の行方を占ううえで注目されていた。
08年9月のリーマンショックによる金融収縮、世界同時不況の影響を受けた地価の急落は前回の地価公示価格に色濃く反映され、08年10月~09年上期の国内経済の未曾有の大不振が、09年7月1日価格時点の平成21年地価調査基準地価格をさらに下振れさせた。
しかし、国内経済に目を向けると新興国を中心とする輸出の伸びに加え、企業の在庫・価格調整の進展等から、GDPも09年10~12月期で年率3.8%に達し、09年3月を底に日経平均株価も相当程度回復するなど、国内経済環境が好転しており、地価も連動して改善が見られるかが注目された。
福岡市の平成22年地価公示価格の変動率は、平成21年1月1日から平成22年1月1日の年間変動率なのだが、全用途で低調な不動産需要を反映し、全公示地で下落した。特に市内商業地は平均変動率で▲10.1%で前回の▲9.6%から下落幅が拡大したが、政令市の中で大阪市の▲11.7%に次ぐワースト2位の下落幅だった。市内住宅地も平均変動率で▲3.3%と前回の▲2.5%から下落幅を拡大した。
福岡市内の地価は、依然として地価下落基調が続いているものの、半年前の価格時点(09年7月1日)で先に公表された地価調査基準地価格の対前年比変動率と今回(10年1月1日価格時点)の公示価格変動率を対比してみると、市内の地価変動の軌跡は次のようになる。
リーマンショックを受け08年10月から09年春頃にかけ地価が鋭角的に大幅下落したが、春以降は地価下落幅が徐々に縮小している。これは09年3月頃が国内景気のボトムで、それ以降は徐々にではあるが景気回復軌道にあるマクロ経済や、3月大底から反転、回復した日経株価のトレンドともほぼ一致する。勿論、地価の遅行性から底入れ到達はまだ先ではあるが、下落幅の縮小トレンドは見てとれるのである。
以下、市内の商業地、住宅地の公示価格動向を見ていく。
1、急落した中心商業地地価
地価下落幅が大きいのが中央区、博多区の中心商業地である。中央区大名1丁目の中央5-3を筆頭に福岡県内で下落率ワースト10位の商業ポイントの全てを占めている。
福岡市内の中心商業地の不動産市況は、極めて厳しい状況が続いている。中心商業地は、オフィス並びに商業店舗等から構成されるが、これらの需要はいずれも低迷しているのが主因だ。
市内ビジネス地区の09年12月末の平均空室率は15.38%で前年同期比で4.39ポイント上昇している。景気低迷の影響でテナント企業のオフィス縮小の動きが高まっており、オフィス需要が軟調に展開している。また商業店舗等の需要も、折からの雇用削減、可処分所得の低減の影響を受けた個人消費の低迷を受け、大きく下振れしている。デフレ経済下で消費者の低価格志向のため、本年2月で27ヶ月前年割れ売上高が続く市内中心商業地に集積するデパートをはじめ有名ブランド店等を消費不振が直撃し、土地需要が低迷している。
上記のような需要低迷が空室率や賃料低下を招き、収益性がドラスティックに悪化しているうえ、J-REITの物件取得が激減、内外の不動産ファンドも市内から撤退、中心商業地の地価上昇を牽引してきたこれらの買い手が蒸発したため、地価下落がさらに加速したといえる。
それでは博多区、中央区の商業地の公示価格を見ていく。
■博多駅周辺エリア
博多区の中心部であるJR博多駅周辺は、折からの不況の影響を受けた地価の下振れは必至なのだが、JR博多駅を巡るビッグプロジェクトが進んでおり、この影響は不況下の現時点では沈潜しているように見えるものの、当該エリアの起爆剤としてどの程度まで地価形成に織り込まれているのか注視すべき要因となっていた。
11年春にJR博多駅に九州新幹線が全線開通し、新博多駅ビルが竣工・開業、駅周辺部の再開発も予定されている。新駅ビルには売り場面積4万㎡の阪急百貨店を核に東急ハンズ、シネマコンプレックスも入居する20万㎡の巨大商業施設が誕生する。
一方、都心二極の博多駅・天神を結ぶ結節点と位置付けられる第2キャナルシティ構想がディズニーの屋内型遊戯施設誘致が実現しなかったため頓挫するなど、駅周辺再開発で軋みもでている。とはいえ、新博多駅ビルの完成で博多駅を中心に劇的な商業基盤浮揚が起きると期待されており、日本政策投資銀行は同ビルの年間売上高を1,300億円と予測する。折からの不況で当該エリアのオフィス需要等の低迷を招いているが、このような期待感が博多駅周辺の地価形成に少なからず潜在していると思われるものの、博多駅周辺の今回の公示地の下落率は、下落率ワースト10位のうち駅周辺公示地が5ポイントも占めるなど下落地点が目立った。
例えば、博多駅前を代表する公示地として博多口側の博多5-1(博多駅前3丁目日本生命ビル)と筑紫口の博多5-2(博多駅東1丁目花村ビル)があるが、公示地5-1が▲16.4%、公示地5-2は▲17.1%の下落だった。公示地5-2は地価調査基準地5-1と共通地点であり、平成21年7月1日時点の同ポイント基準地価格の変動率▲26.9%だったことと比較すると6ヶ月経過後で下落幅が縮小しているのは先に書いた市内の地価トレンドを裏付けるもので注目される。
■天神・大名エリア
天神地区に集中する百貨店や有名ブランド路面店および商業施設内のテナント店舗の売上高は、個人消費不振で下落しており、さらに新博多駅ビルの登場で天神地区は300億円売上高が減るという日本政策投資銀行の試算もあるため、博多駅周辺VS天神の熾烈な主導権争いが加速すると思われる。
迎撃態勢に入った天神エリアには、10年3月に岩田屋旧本店跡地にパルコが開業、また岩田屋の現在の本店隣接地にNTT都市開発が再開発ビルを11年夏開業予定、さらに天神西通りには今秋三井不動産が地下1階地上4階の商業ビルを開業するなど商業機能のさらなる過密化も進む。
新幹線と新駅ビル効果で福岡市の九州における拠点性が高まり、熊本、鹿児島からの集客が増え、博多駅エリア、天神の二極商業機能の高度化と相俟って両エリアが共に潤うのか、商業施設の過密化が集客の分散・離散を招くことになるのかは今後の注目点ではある。
下落率トップの大名1丁目の公示地だが、不動産ファンド、地場不動産等による商業ビル等が盛んに供給され、ビルの空室が急増した大名地区は、まさに「バブルの宴のあと」といった状況を呈しており、需給ギャップの顕在化で地価が大幅に下落した。高層化されオフィス・商業床が急増した結果、賃料が急速に上昇し、物販・飲食業などを中心に若手創業者が個性的な店で感度の高い若者層をターゲットに展開していた当該地区の特性が変質して若者の「大名ブランド」も希薄化した。その結果、エリア内テナントの一部がパルコへ移転するなど流出が続き、新規出店も減少したため、需給バランスが急速に崩れ、地価急落を招いた。
このような要因から、大名1丁目の中央5-3は、▲18.6%で市内商業地で最大の下落率を示し、同じ大名エリア内の公示地中央5-13も▲17.1%の下落となったが、当該2地点は市内の下落率ワースト1、2位となった。
▼表1:商業地下落率上位10位
2、住宅地の価格動向
福岡市内住宅地も平均変動率で▲3.3%と前回の▲2.5%から下落幅を拡大した。下落率1位の公示地博多-12(上呉服町)は▲8.9%の下落を示したが、都心部に近く、これまで周辺商業地の価格上昇で連れ高してきたが、道路が狭く収益物件として採算性が低いことへの市場の見直しが入ったと思われる。
また表2:住宅地下落率10位に入っている福岡市内の公示地だが高価格帯か駅が遠いなど比較的利便性が劣るエリアで不況下の価格下落局面では市場性が特に低下するといった特徴が観れる。
市内の住宅地を分類すると主として住環境重視の戸建エリアと利便性のウエイトが高い分譲マンション・収益物件エリアに分けられる。
戸建エリアの地価が比較的下落幅が小さいのに比べ、分譲マンション・収益物件向けの利便性が高い高価格帯エリアは、賃貸住宅の供給過剰や投資マネー撤退と分譲マンション販売不振の影響を受け、特に地価下落を招いている。一方、デフレ経済下で値ごろ感のある中古戸建てや中古マンションの市況は値崩れが小さい。
市内の収益物件は 単身者向け賃貸住宅を中心にファンド等の供給が急増したため、需給バランスが崩れ、稼働率・賃料低下を招いており、市内の空室率は20%超に達するという調査がある。その背景は景気低迷で法人需要や学生の一人暮らしの減少、さらには入居者の雇用・所得環境悪化による賃料負担力低下などが挙げられ、市況の調整には数年を要しそうだ。
分譲マンションは、住宅流通新報社調査では09年の福岡市の販売戸数は2,484戸で前年比6.2%減少した。各社は販売在庫を抱え、契約率も低迷するといった状況で、栄泉不動産、穴吹工務店の会社更生法申請、ロワールの自己破産など厳しい市況と金融収縮による破綻が依然として続いている。ただ最近になって大手不動産は用地仕入れに動いており、分譲マンション業界もやや薄日が差してきた。
今後の市内の住宅地地価動向だが、現状で住宅地の購買力と高相関の雇用や設備の過剰感は強く、雇用・勤労者所得は景気回復に遅行する特性があり、10年中に改善が進むのは難しい。ただ政策面では住宅一次取得者の可処分所得を増やす子ども手当の6月からの支給と住宅版エコポイントに加え、税制で住宅購入時の贈与税の非課税枠が拡大されたことはプラスに働く。
当面は、低価格帯戸建やマンションを中心に住宅需要回復が政策支援と相まって進むことは考えられるものの、住宅地地価の調整はエリアによる強弱を見せながら依然として続くと予想される。
▼表2:住宅地下落率上位10位
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