オフィスビルの空室対策 / 貸し会議室

オフィスビルの空室率の増加が相変わらず止まらない。三鬼商事(東京・中央)がまとめた1月末の東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)の空室率は、8.25%。六本木ヒルズや汐留地区の大型ビルが開業し過去最高を記録した03年8月の8.57%に迫っている。

東京を除く、主要地方都市の空室率は2ケタ台。漸く底入れの兆しも見えてきた東京と違い、いつになったら空室や賃料の調整が終わるのか、需要の落ち込みが深刻なだけに不透明だ。このような背景でオフィスビルオーナーの空室対策が模索されている。本コラムでは、最近、ビル内の空室等の有効活用として注目を集めている「貸し会議室」について書いてみよう。

貸し会議室は空室対策としてだけでなく、売却予定物件を暫定的に活用して売却期間でリターンを上げたり、自社で使用していない時間帯の会議室・教室等を有効活用する方策などで利用されている。

■加速する貸し会議室ビジネス

オフィスビルの空室対策等として貸し会議室は、近年になって大手不動産をはじめ、ビルオーナーに積極的に活用される事例が増えている。ITを絡めた付帯業務の充実などで付加価値を高めたり、広域的に貸し会議室をエンドユーザーに提供したり、スケールメリットを生かしてコストダウンを図るなどで高い成果を上げているケースも多い。

●住友不動産ベルサール

住友不動産は大手不動産のなかでも貸し会議室ビジネスへの取り組みは積極的だ。不況下の各企業の業績悪化で、リストラ策の一環としてオフィス床の無駄節減が加速しており、会議室などのスペースをなくし、必要なときだけレンタルする動きが強まっている。

同社は、この分野の今後の需要拡大に期待を高めており、同社が開発するオフィスビルなどにフロアを確保、拠点数を4年間で現在の約2倍の27とし、年間売上高を3倍の100億円に拡大する計画だ。

「08年に専門会社を設立、自社の開発物件で会議室用などに貸しフロア約14,000㎡を確保、事業を展開してきた。平均稼働率80%を維持、今後も需要拡大が見込めるため運用フロア面積も3倍強の46,000㎡に増やす」(日本経済新聞)。

そして08年4月に住友不動産株式会社より分離独立した住友不動産ベルサール(株)は、都心三区を中心に16ヶ所21会場(イベントホール:11会場、貸し会議室:10会場)を管理運営しており、一社単独で管理運営する物件の床面積は業界トップクラスを誇っている。

新宿中央公園に隣接する「新宿セントラルパークシティ」内に、300坪を超える大型イベントホール「ベルサール新宿」を3月1日よりオープン。1フロア302坪の大型イベントホールで、セミナー使用時は最大でスクール形式756名、シアター形式1,320名まで収容可能。天井高6m(一部5.4m)の整形無柱空間で、床荷重は大型車両などの展示も可能な1平方メートル当たり1t。使用料金は、基本(8時間)プランで94万5,000円、延長30分ごとに6万3,000円。なお、1フロアを分割した使用も可能となっている。

●森トラスト

森トラストは、JR東京駅に隣接する複合施設「丸の内トラストシティ」に貸し会議室を設置し、09年12月1日開業した。立地の良さを生かし、国際会議や採用説明会などに利用してもらう。同社は仙台市で開発中の「仙台トラストシティ」にも貸し会議室を10年8月に設置予定。自前で会議室を持たないテナントの満足度を高め、オフィス市況の低迷に対応。丸の内トラストシティの施設運営は、ラフォーレT&Sに委託する。

「丸の内トラストシティの貸し会議室は大小10室を用意し、合計面積は約880平方メートル。1部屋あたりの面積は最大約200平方メートルで、室内に机とイスを置く場合、約140人を収容できる。最も会議などが多い午後1~5時の時間帯に100平方メートルの部屋を借りる場合、利用料金は13万9,000円。施設に入居するテナントには、一般よりも安く利用できるようにする。森トラストが本格的な貸し会議室を設置するのは今回が初めてになる」(日経産業新聞)。

●TKP貸会議室ネット

貸し会議室事業を全国展開する注目企業がTKPだ。05年に設立後、僅か数年で札幌、仙台、福岡など全国の大都市圏で主要駅から5分以内の立地で収容人員4人の小会議室から390人を収容できる大ホールまで貸し会議室約500室を運営するに至った。

同社のビジネスモデルの特徴は、物件オーナーとの契約・運営受託方式の形態や貸し会議室事業の付帯業務の拡充・充実に見られる。「物件オーナーとの契約は、マスターリース方式と運営受託方式の2つに分けられ、テナントニーズが高い物件は固定費項目が高いマスターリース方式とし、エンドテナントニーズの需要が弱いと判断される物件は、ベース賃料を低くしたうえで売上連動とするなど変動比率を高く設定するケースが多い」(月刊プロパティマネジメント)。

貸会議室事業の付帯業務では、インターネット回線からテレビ会議システムの構築、ケータリング備品手配、研修プログラム用意、講師や宿泊施設の手配まで幅広く行っている。

また、同社は、「特定の顧客を対象に、会議室の予約の手間を省くための専用サイトを設けた。会議室の予約を中核にして、一括手配で引き受けることでコストを削減するもので、第一弾として東京海上日動火災保険の専用サイトを設けた。東京海上はグループ関連企業をはじめとして、セミナーや会議などでTKPの会議室を頻繁に利用している。専用サイトの開設により、全国の適切な会場を一括して手配できるうえに、費用の請求も一本化が可能になるなど管理部門の業務が大幅に軽減される」(フジサンケイビジネスアイ)。

■貸し会議室の事業構成

貸し会議室は、ビルオーナーの空室対策等で導入されているが、一方、テナント側にしても、ここにきての不況とデフレで企業業績が低下しているところから、会議室を恒常的に賃貸・保有するより、必要に応じてレンタルするという方向が強くなっているという背景がある。

貸し会議室自体は、昔からある業態で目新しいものではないが、折からの不況とオフィスビルの空室の増加で注目されてきたものである。いわばこのビジネスモデルには需給の双方向から追い風が吹いているわけだ。

大手不動産や専業の運営会社では、前に書いたようにカバーするエリアの広域化や貸し会議室の多様なメニュー構成・量でスケールメリットを出したり、ウェブサイトからの申し込みなど情報通信技術を活用してワンストップサービス的な付帯業務の付加価値を高めているが、中小ビルなどが単体での貸し会議室ビジネスを展開する場合、どのような事業構造になるのだろうか、概観してみよう。

事業形態としては、ビルオーナーがビルやフロア全体で貸し会議室を自ら運営しているケースと専業の運営会社が当該ビルの空室を賃借して運営しているケースがある。
ビル内の1フロアー全部を運営企業が賃借して貸し会議室仕様として運営する場合を想定すると、当初の初期投資は、

  • 内装工事費
  • 什器備品費
  • 開業前金利
  • 入居保証金

がある。

会議室の必要備品は下表のとおりで、利用者の利用目的、人数、希望等に応じて机の配置や下表のオプション1、2を運営企業スタッフが手配・用意する。

事業収入は概ね下表のようになる。

▼想定事業収入

※綜合ユニコム社「最新レジャ-産業110業種モデルプラン集」、各社サイト上の登録物件などを参考とした筆者の想定数値(現実の数値モデルではない)。

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