2010年地価・不動産価格予測
1、2009年の不動産価格動向
08年9月のリーマン破綻を受け、09年は日本経済の低迷と相俟って国内不動産価格も「どん底」の年だった。しかし、09年春頃からの株価の回復に象徴されるように日本経済も緩やかな回復基調に乗り、国内の経済指標も好転するものが多くなってきた。
09年の不動産価格の動きであるが、1~3月は世界恐慌の再来を危惧する声が多く、どこまで沈むかわからないといったパニック的なお先真っ暗状態でリスクマネーは萎縮、逃避し、マンションや戸建など実需でも不動産需要が蒸発し、不動産取引が激減した。
従ってこの間の不動産価格の立ち位置を的確に把握することは業界関係者ですら困難だったと言える。金融危機と世界同時不況の大波のなかでこの時期の投資向け不動産価格を決定するキャップレートがビットとオファーの両者間で大きく乖離し、殆ど取引が成立しなかったので取引データが極めて少なく、あっても取引の背後に事情が内在するものが大半を占めたからだ。
販売価格が下落の一途を辿る分譲マンション販売の現場では、購入客が訪れることが増えたものの、マンション会社も買い手も下値の探り合いといった状況で、市場の底打ちには遠かった。
漸く4月頃から、世界経済に回復の兆しが見え始め、日本経済も先行きの展望に一条の陽光が射してきて、首都圏中心に不動産投資にリスクマネーが徐々に戻ってきた。世界的な金融緩和で発生した過剰流動性で投資マネーが、株やコモディティ、不動産へ再び還流し始め、そろそろ底打ち近しといった観測から国内の個人富裕層に加え海外投資家も日本不動産を買い時と判断したようだ。
例えば、リーマン破綻後の急落トレンドのなかでも個人富裕層による逆張り投資で2~3億円程度の賃貸マンションは、価格目線を思い切り下げ、立地や利回りを厳選しての物色が行われていた。しかし投資家は思うように出物を拾えなかった。90年代初頭のバブル崩壊時には未稼働の更地状態の不良資産が多く、収益物件として稼働しているものは相対的に少なかったので、持ちこたえられず投げ売りが数多く出たが、今回の平成バブル崩壊は稼働物件が投資の主流でキャッシュフローがあるため、投げ売リが予想外に少なかったからだ。目ぼしい物件がすでに枯渇、一部の優良物件では価格の反騰も聞こえてきた。
しかし、不動産投資が本格的に回復するには07年をピークに賃料が急落し、収益性が大きく毀損されている現状を見逃せない。賃料や稼働率が景気変動の影響をさほど受けないと言われているレジデンシャルでも全国的にファンド等の過剰供給で賃料や空室が悪化している。
アットホーム社の全国主要7都市を対象とした賃貸マンションの成約事例に基づく「マンション賃料インデックス」最新版のデータに基づく全国賃貸住宅新聞社の記事には全国各地のレジデンシャル投資の厳しい現状が書かれている。抜粋要約すると、
- 首都圏
都内全域で08年よりも平均1万円程度下落。賃料設定が高いリート物件は軒並み2~3万円下落。初期費用も一切設定できずフリーレント付でないと決まらない状況
- 名古屋
市内の空室率は25%に及ぶ。ファンドの建設ラッシュとトヨタ自動車などの派遣切りで現在も空室増加と賃料値下げが続く。名古屋市内の賃料は3~4ヶ月ごとに変化し、そのたびに2,000円~3,000円下落している
- 福岡
ファンドがシングルタイプ物件の賃料を高めに設定したことが賃料上昇を一時的に引き起こした。余剰物件が増え、ファンド物件も初期費用をゼロにして値下げ。周辺物件も値下げ競争に引っ張られ15%程度賃料が下落
一方、オフィスビルでは景気低迷の影響で企業のリストラ、節約志向が高まり、賃料、空室とも悪化がますます深まっている。このような09年前期の不動産価格の動向は、09年7月1日を価格時点とする2009年地価調査基準地価格に反映され、住宅地・商業地を含む全用途で前回よりも地価下落幅が拡大した。
年後半になると、株価も日経平均1万円を回復し、在庫調整の一巡と中国経済の急回復による輸出の伸びに加え、前政権による景気刺激策の効果も相俟って鉱工業生産指数が今年の2月を底に7ヶ月連続で改善するなど生産面で改善が見えてきた。国内経済の回復と相俟って不動産価格も首都圏の一部では底入れから僅かではあるが反転に転じたとの見方も出始めた。
例えば、J-REITの動きを見ると、08年9月のリーマン破綻からニューシティ・レジデンス投資法人の民事再生法申請という流れのなか09年初頭にかけて東証リート指数は暴落した。政府は、投資向け不動産の受け皿にと国策で始めたリート破綻を避けようという政策意思を色濃く出し、ファイナンス支援や懸案だった制度改正を相次いで手がけた。
ファイナンス支援では、日本政策金融公庫の「危機対応円滑化業務」にJ-REIT向け融資を対象とし、リートが発行する投資法人債を日銀の適格担保とするなど施策が次々に行われた。
また制度改革としてM&Aに関連する制度改正が急速に進展し市場再編の期待を高めた。そして9月には投資法人債の償還不安を払拭すべく「不動産市場安定化ファンド」を創設した。東証リート指数は最近は上値が重いものの株価の回復は順調に進んだ。
注目されるのは、J-REITが外部成長戦略から物件取得を再開し始めたことだ。従来のスポンサー保有物件の購入ではなくスポンサー以外からNOI利回り7%台で割安にオフィスビルなどを取得する事例が最近になって出てきた。例えば、12月2日、日本プライムリアルティ投資法人が都内のオフィスビルを28億円で取得、想定NOI利回りが7.1%だった。また12月16日にはフロンティア不動産投資法人が福岡市内の商業施設を、25日にはユナイテッド・アーバン投資法人が都内のオフィスビルを取得したが、想定NOI利回りはともに7%台で、当該3物件はスポンサーではない市場からの取得だったことで市場の注目を集めた。
J-REITは不動産価格下落時は物件を取得してポートフォリオ拡大とクオリティを高め、外部成長を図るのだが、金融収縮と市況のあまりの悪さで購入を手控えていたが、ここにきて割安物件取得に動き出したもので、不動産市場の底入れ好転が近いことを窺わせた。
2、2010年の不動産価格展望
09年後半にかけて国内経済の回復と歩調を合わせ不動産価格は首都圏を中心に底入れを探る展開になっている。結論から言うと10年は世界経済の回復と連動した外需の回復もあって日本経済が好転するので不動産価格はさらに下落幅を縮め、底入れから反転に向かつて緩やかに回復していくというシナリオが考えられる。ただ日本経済の回復がL字型であるように底ばいに近い緩やかなカーブを描く。
戸建住宅、分譲マンションなどの住宅系とオフィス、商業系といったセクターごとの10年の不動産価格動向は、回復の強弱、持続性で異なると思われる。昨年末に出された新政権による成長戦略やマニフェストの子育て支援などの政策、税制改正の輪郭が昨年末になるとかなり見えてきたが、これらの要因が各セクター別の不動産価格に与える影響は異なると判断される。以下で各セクター毎の不動産価格動向を予測してみよう。
A、住宅系不動産価格予測
2010年単年の予測をする前に中長期的に住宅市場を展望する。
■中長期的住宅市場展望
新設住宅着工戸数は09年1~11月の累計で71万9,112戸にとどまった。100万戸割れは1967年以来42年ぶりだが、80万戸割れの可能性も高い。80万戸を割れると実に45年ぶりになる。09年の低迷は金融危機、不況の影響が大きいが、問題なのは今後も中長期でみて100万戸に到達できずに80~90万戸のペースが続くとの予測が多いことだ。持家の戸建住宅について新設住宅着工戸数の減少の背景をニッセイ基礎研究所の調査結果を参考として挙げると、
- 総人口は2005年頃から減少が始まっているが、特に住宅取得層となる15~64歳の生産年齢人口が1995年の国勢調査以来、減少している
- 持ち家の主たる需要層である核家族世帯の伸びが年々鈍化している
- 未婚・晩婚化が進み単身者が増え、熟年離婚、死別等で単独世帯が増加するなど世帯の小規模化が進み広い住宅への需要が減少している
- 戸建は家屋や庭の維持が負担になる
などがあり、人口・世帯数の減少など構造的な要因やライフスタイルなどの変化で、中長期的に持家の戸建住宅の需要は減少していく。
一方、分譲マンションは、ニッセイ基礎研究所の調査によると、
- 増加している単独世帯や高齢世帯にとってコンパクトさや設備面で快適性が高い
- 都市部に多く立地・利便性が良い
- 土地の高度利用や有効利用が可能
- 維持管理を金銭的負担があるものの管理会社が行ってくれる
- 規格化されているため戸建てに比べ転売や賃貸化が容易で投資物件として適している
などから人口世帯数の減少に関わらず今後も需要が一定程度継続すると見られている。
次に賃貸住宅市場を展望すると、持家が人口・世帯数といった中長期的な構造的要因との相関が高いのに比べ、短期的な経済変動による金利、雇用や賃金による賃料負担力、限られたエリアでの供給量や人口移動などに左右されやすい特性がある。
総務省による平成20年度住宅・土地統計調査によると、昨年10月1日時点で、国内の賃貸住宅戸数が2,183万300戸で、そのうちの空室は409万2,500戸、空室率は18.7%に達する(09年末ではこの間の需要収縮で空室率20%超という指摘がある「沖有人氏 全国賃貸住宅新聞」)。そして3大都市圏よりも地方圏の空室率が高い。
米国の空室率11%台に比べても日本の賃貸住宅の空室率は高く、特に地方圏では需要調整がなされずにバブル期に過剰に供給されたストックが積み増されおり、重しとなって賃料・稼働率低下を招いているという賃貸住宅経営上の最大の課題を抱えている。
■2010年住宅地価展望
さて本論の10年の展望だが、10年の国内経済は、政府見通しでGDP成長率は、前年比で実質プラス1.4%と3年ぶりのプラス成長を見込む。民間シンクタンク16社の予測平均は実質1.3%、名目0.1%だ。世界経済が緩やかに回復を続けることに加えて、家計支援などの政策効果が期待されている。
通年ではプラス成長に転じるが、10年前半は新政権の政策のタイムラグから景気対策の真空地帯となっており、各国の経済対策効果の息切れに加え、公共事業削減の影響も懸念され、需給ギャップ35兆円に起因する国内のデフレや円高の進行次第ではGDPがゼロ近辺もしくはマイナス成長の2番底を懸念する指摘もある。政府の緊急経済対策は4月頃から実行されるし、子供手当ても6月支給開始となるため、10年後半になって政策効果が効いてくると見られている。
住宅地価格に影響を与えるマクロ経済要因は住宅の購買力や賃料負担力に影響する家計の雇用と所得である。野村総合研究所によると07年における実収入に占める住居費支出割合は持家・賃貸とも15%程度でやや増加傾向にあり、実収入の伸び悩み・低下で、住宅ローン返済や家賃支払が徐々に重くなってきているという実態がある。
現状で雇用や設備の過剰感は強い。企業は減産を緩和し、リストラ圧力は緩んだ。しかし、デフレ、円高など製造業の先行きは不透明で採用を増加できる状況ではない。昨年末の賞与の大幅減額や残業禁止の徹底など雇用者の賃金状況も厳しい。雇用・勤労者所得は景気回復に遅行する特性があり、10年中に改善が進むのは難しい。
政策面では住宅一次取得者の可処分所得を増やす子ども手当の支給と住宅版エコポイントに加え、税制で住宅購入時の贈与税の非課税枠が現行の500万円から1,500万円に拡大されたことはプラスに働く。
子ども手当の支給は住宅一次取得層の可処分所得を増やすため注目に値する。現にパワービルダーと呼ばれる低価格帯建売住宅業者の株価は昨年、民主党政権の誕生と子ども手当を好感して高騰した。地価下落で土地の仕入れ値が低下し、事業採算が好転したこともあるが、団塊ジュニアと呼ばれる住宅一次取得者をターゲットにしている点が業績拡大の期待を集めたからである。
家計の雇用や所得が厳しいなか、住宅市場全体では改善の足取りは重いが、所得が高くない一次取得層を対象にしたパワービルダーは健闘するだろう。住宅版エコポイントは、断熱材や二重サッシなど断熱効果の高い住宅を新築・改修した場合、エコ家電などの商品購入に使えるポイントがもらえるというものだが、新築よりもリフォーム需要拡大に寄与すると思われ、住宅購入時の贈与税の非課税枠拡大は、先の500万円の非課税枠拡大の際、国交省が試算した経済波及効果は約5,400億円といわれており、拡大額からみてかなり期待できる。いずれにせよ家計の雇用・所得の下ブレによる購買力低下や住宅購入先送り決定を一定程度抑制する効果はある。
以上を踏まえ、住宅種別ごとの2010年価格動向展望を下表に要約した。
▼住宅種別ごとの2010年価格動向展望
次回は2010年オフィスビル価格予測に言及予定
■次回記事
2010年地価・不動産価格予測