民主党政権で建設、不動産、住宅業界はどうなる
国民の手によって誕生した民主党政権、当初はメディアの温かい論調が多かった。しかし、補正予算の削減などが思うように進んでいないためか、期待値が高かった分、手厳しい批判も増えてきた。鳩山首相を頂点に国家戦略室、行政刷新会議が設置されたが、財務省も含めたそれぞれの権限範囲が明確でなく司令塔がどこにあるのか解らないといった混迷ぶりも目についてきたようだ。
■マクロ経済政策実行能力に疑問符も
「鳩山不況」なる言葉がメディアに登場し始めた。民主党政権が誕生して以来、株価が世界の他市場に比べ軟調になったという指摘がある。例えば日経ヴェリタスマーケットオンラインによると「衆院選の直前の8月28日を起点にして85市場の指数騰落率をみると、日経平均は10月5日までで8.16%下落し、上から数えて85番目の成績にとどまっている。要するに最下位である。他市場と比較できるように、先週末までの騰落率をみても、最下位の7.62%安だ。」その原因として金融担当相による中小企業や個人への債務返済猶予発言とか、財務担当相の円高を容認していると見られた発言が挙げられているが、何と言ってもマーケットの想定を超えてラディカルな政権運営を行う新政権の政策の全貌が明らかになってなく、今後、何が出てくるか解らないといった不透明性に主因があると思われる。
「民主党のマクロ経済政策が見えにくい」という指摘がなされるが、党内には意外に元金融マンや日銀、経済官庁出身のの議員が多く、新人議員も合わせ50人を超える(日経ヴェリタス2009年9月20日号)。にもかかわらず亀井金融担当相のモラトリアム発言は、銀行の自己資本比率に対する新BIS規制で資本増強への動きが本格化し、金融株の希薄化が進むとの懸念が高まっていたタイミングと重なって市場に嫌気され銀行株価を急落させたし、藤井財務担当相の円高容認ともとれる発言で円高が進んだとされる件も、3ヶ月物LIBORで8月24日、ドルと円の金利差が逆転、ドルが0.38688%、円が0.38875%となり、ドルが円より約0.002%低くなった結果、投機筋は安価で潤沢なドルを借り入れ、ドルを売って利回りの高い資産に投資するドルキャリー取引を膨らませおり、ドルキャリーの進捗と相俟って円高ドル安が進行していた渦中で起きた。
いずれにせよ閣僚によるこれらの不用意な発言が市場低迷の全ての原因ではないものの、新政権のこれから打ち出されてくる具体的な政策に対し、市場に拒絶感や不透明感が広がり株価下落の一端となったのは間違いないようだ。
そこで民主党政権も「反市場的なのでは」といった市場関係者の批判をかわすため、民間エコノミストら市場関係者と菅直人副総理らが定期的に意見交換をすると明らかにした。古川副大臣は、「経済統計の裏にあるマーケットの声に真摯に耳を傾け、マクロ経済政策を実施したい」と述べた。会合は「マーケット・アイ・ミーティング」と題し、初回はBNPパリバ証券の河野龍太郎氏のほか、JPモルガン証券の北野一氏、リクルートワークス研究所長の大久保幸夫氏ら債券や株などのストラテジストを中心に参加する。今後も週に1回程度開く予定だ。
■民主党の政策スタンス
民主党は前政権と分配システムを異にする。前政権の分配システムは、規制緩和で市場効率性を高め、経済成長のプロセスで企業に富が分配され、企業から家計に相応の分配が届けられるというものだった。一方、民主党は、従来システムでは、非正規労働の増加や労働分配率の低下などで家計への分配に目詰まりを起こしていたとして、「国民生活目線」という立ち位置から政策を打ち出す。「子育て支援」、「農業の戸別所得補償」、「高速道路無料化」などの諸政策は、直接に家計へ分配するものである。
いわば「センターレフト(中道左派)」、「大きな政府」が色濃く出た政権である。そして政策の財源を「税金の無駄遣い」を排することで確保するというものだ。この結果、本予算の歳出で「八ツ場ダム」、「川辺川ダム」のような大型公共工事は中止され、マニフェストでは4年間で1兆3千億円公共工事を削減することになっている。他には「アニメの殿堂」などに象徴される今年度の補正予算見直しとか「霞が関埋蔵金」と呼ばれる特別会計の剰余金や積立金などが活用される。
このような民主党の諸政策は長期的には、少子化対策となり、中期的には内需拡大に資する可能性もある。さらに2020年までに1990年比でCO2を25%削減する政策は、産業界の負担を上手く乗り越えれば、エコカーや太陽光発電など日本の環境技術を中核として国際競争力を高める期待もできる。
週刊東洋経済によると民間調査機関は9月中旬、2009.10年度経済見通しを相次いで改定、期間予測平均でそれぞれマイナス3.2%、プラス1.2%となった。前回8月予測より09年度は下方修正、10年度は上方修正となった。改定の背景は鳩山政権による経済政策が与える影響を加味し、09年度は「補正予算の一部執行停止やエコポイントの来年度継続を受けた年度末の駆け込み需要減少」(みずほ総合研究所)などを織り込み、公共投資や消費などが下方修正。実質GDPは機関予測平均で0.4ポイント減少幅が拡大した。一方、10年度は「子供手当、暫定税率廃止などによる個人消費の押し上げ」(ニッセイ基礎研究所)により、同じく実質GDPで0.2ポイントの上方修正となった。単年度だけでなく、2~3ヵ年度の期間で見た場合の影響では、「公共事業、行政コストの削減など政府部門のマイナス効果よりも、可処分所得の増加による個人消費の押し上げ効果が強く表れる」(三菱UFJ R&C)との見方が大勢だ。
要するに短期的には新政権による政策移行期のマイナス面が出るものの中長期的にはプラス寄与と見ているわけだ。以下で民主党の政策で建設、不動産、住宅業界がどのような影響を受けるのか個別・具体的に見ていこう。
■建設業界への影響
国土交通省の全職員に向けて、前原国土交通大臣のメッセージが国土交通省のイントラネットに掲載され、政権交代ならではの光景と話題を呼んでいる。前原大臣は、「将来の日本に対する漠然とした不安というものを感じている。その漠然とした不安は国土交通省に勤務されている皆さん方も同様に感じていると思います」とし、主な要因として、
- 人口の減少
- 急速な少子高齢化(15歳から64歳までの生産年齢人口は現在の約66%から2050年には51%になる)
- 日本のGDPの約1.8倍といわれる長期債務の問題(国としての借金問題)
と指摘し、いずれも深刻な課題であり、解決に向け臨んでいかなければならない重要課題であることを指摘している。
上記のような危機意識と現状認識を踏まえ、時代に合わない国の大型直轄事業の全面的見直し、道路整備も費用対効果から厳密な選別・削減が粛々と進んでいくだろう。
新政権によるドラスティックな公共工事削減で、大手ゼネコンをはじめ特に官公需への依存度が高い準大手ゼネコンや地元中小建設会社の受注は激減し、マンション不況で民需低迷となった需要減をさらに直撃する。さらに大手ゼネコンには海外工事の追加損失懸念もくすぶる。
しかし、鳩山首相が国際公約に掲げた温暖化ガスの削減目標で企業の省エネルギー対策が進むので新たなビジネスチャンスが拡大する可能性もある。ゼネコン各社はオフィスビルや商業ビルなど民生部門が排出するCO2は全体の2割を占めており、ビル所有の不動産会社などで今後、省エネ化が本格化すると判断している。
「大成建設は環境関連の担当部署を「環境本部」として一元化し、省エネ型ビルの建設受注を3年で20件にする予定で、新組織は省エネ型ビルの建築、工場跡地などの土壌浄化、生物多様性を保全できる都市計画など幅広く環境ビジネスを手掛ける。清水建設は9月に省エネ型オフィスのショールーム「超環境型オフィス・ラボ」を都内に開設。鹿島建設は電流を細かく制御して消費電力を抑える新型空調に更新する改修工事をビル所有会社に売り込む。大林組はコンクリートの床裏面に凹凸をつけて蓄熱性を高める空調技術を実用化。竹中工務店はオフィス内の座席ごとに気流を微調整できる空調システムを提案する。」(日経9月30日)などだ。
■不動産・住宅業界への影響
不動産業界でも民主党が打ち出す「生活者目線」の政策が影響を与えそうだ。まず不動産取引における仲介業者の「両手禁止」が業界に波紋を呼んだ。またこれまでの新築住宅供給重視から大きく転換し、省エネ化、バリアフリー化、耐震化を目的とした既存住宅の活用・改修(そのための記録管理・審査・診断などのシステム整備の推進)、中古住宅流通市場の拡充、さらには賃貸市場の活性化などを打ち出しており、不動産業・住宅業界も新たな対応を迫られそうだ。
【両手禁止の行方】
「両手」とは不動産仲介業者が売り手と買い手の両者から手数料を取ることだが、民主党が7月27日に発表した民主党政策集「INDEX2009」の41ページ、「安心取引で中古・リフォーム・賃貸市場を活性化」に記載された「一つの業者が売り手と買い手の両方から手数料を取る両手取引を原則禁止とします。」の「両手禁止」が不動産仲介業界で波紋を呼んだ。
不動産仲介大手、地元密着で営業展開をする業者は売主と直接媒介契約を結ぶ元付業者になる機会が多く、INDEXが実行されると収益機会は減るが売主からの手数料である「片手」は少なくとも確保できる。しかし、買主を探すことを主体として営業展開している買付業者は、買主とバイヤーズエージェント契約でもしなければ手数料収入機会を遮断されてしまうケースが増えることになる。不動産業界が反対するのは当然の成り行きだ。
両手は双方代理、利益相反から問題があるという見解もある。また両手取引だと顧客の囲い込みに走り、物件情報が市場で十分に流通しないという弊害が業界内で指摘されていた。民主党はこの辺の背景から「両手禁止」へ踏み込んだと思われるが、業界の反対も強く、党内でさらに再検討がされるようだ。
【住宅政策の大転換】
新政権誕生でこれまでスクラップ&ビルドが繰り返された新築・持家重視の住宅政策が循環型社会へ移行という時代背景のもと大きく転換しようとしている。前政権下でも「長期優良住宅の推進」でスクラップ&ビルドからサスティナブル社会への転換という似たような方向性が打ち出されていたが、新政権はさらに鮮明に方向転換を打ち出した。
世界の先進国で日本ほど新築に偏重しすぎた住宅供給を行ってきた国はない。1945年8月当時の政府推計によれば住宅の不足数が420万戸、住宅の絶対数の不足からスタートした戦後は、ひたすら人口増加と核家族化をプレッシャーとして新築主体の住宅供給を行ってきた。その結果、昭和43年からすでに住戸数が世帯数を上回り、2008年の総務省住宅・土地統計では住戸数が5,760万戸で世帯数は4,990万世帯になっている。
住宅のストックは過剰になり、空き家は756万戸で、総住宅数に占める割合(空き家率)は、13.1%に上昇し、過去最高となった。このような現状を踏まえてマニフェストのベースとなった「民主党住宅ビジョン」には「戦後の日本の住宅は、質より量を優先してきたため、ローンを払い終えたときには資産価値、快適性も十分とは言えないものとなっています。大量生産・大量消費、作っては壊す今までの住宅政策から、地球温暖化防止の観点も加味した持続可能な産業へと、変わらなくてはなりません。」と書かれている。
上記の基本認識に立った民主党の不動産・住宅政策を抜粋すると、
- 省エネ化、バリアフリー化、耐震化を目的とした既存住宅の活用・改修と、そのための記録管理・審査・診断などのシステム整備を推進
- あんしん取引で中古・リフォーム・賃貸市場を活性化(中古住宅についての目利きとして、中古住宅やリフォーム後の価値を正しく鑑定できる人(ハウスインスペクター)を育成し、施工現場の記録を取引時に添付することを推進)
- 高齢者、障がい者、子育て世帯も住みやすい、優良で多様な賃貸住宅を整備。家賃補助や所得控除などで賃貸居住者に対する税制支援も創設
- 定期借家制度の普及推進
- 住宅ローンをノンリコース(不遡及)型にする環境を整備。現在は土地の価値のみでなされている「リバースモーゲージ」(住宅担保貸付)は利用しやすくする
がある。
住宅政策が新築偏重から既存ストックである中古住宅の活用・改修へと政策の軸足が本格的に移されると、欧米に比べ中古住宅流通市場のボリュームが小さく、市場環境整備も不十分なまま推移してきた当該市場に不動産業界、住宅業界が様々なビジネスモデルで参入してくると思われる。市場の透明化・情報公開という視点からハウスインスペクターの育成や、中古住宅の修繕履歴をはじめとする属性データのデータベース構築は市場を活性化し、発展させるものと予測され、業界としても5,760万戸に及ぶ既存住宅ストックをビジネスの対象とせず放置しておく手はないだろう。
また賃貸住宅の多様化・優良化だが、「これまでの住宅政策は中間所得層の持ち家供給に偏り、住宅困窮世帯へは公営住宅で限定的に供給されてきたが、民間賃貸セクターに対する支援は皆無に近かった」という指摘がある(平山洋介著「住宅政策のどこが問題か」)。平山氏は同書で住宅需給関係の基調が「住宅不足」から「住宅余剰」へ移行したとはいえ、低所得者が入居可能な低家賃住宅は依然として欠乏しているとして家賃補助の有効性を説くが、これは民主党の政策の方向性と一致するようだ。
この国の低成長の元凶といわれる少子化、人口減少を解決するには、「子育て支援」という金銭面でのサポートに加え、保育所の量的確保や諸外国に比べ長い労働時間の改善が伴わなければ出生率は向上しないという指摘が多いが、これらに加え低所得の子育て家族へ家賃補助を行い、一定レベル以上の住居を提供する政策は、少子化対策に高い有効性を発揮できるのではないだろうか。
【過熱する太陽光発電住宅市場】
少子高齢化の進行に加え、折からの経済減速、雇用不安と相俟った住宅不況の長期化で09年7月の住宅着工戸数は前年同期比32%減と不振を極めている。このような住宅業界にあって民主党政権の環境対策が「太陽光発電住宅」という新たなビジネスチャンスを醸成しつつある。
民主党は2020年までに温室効果ガスの排出量を1990年比25%削減する中期目標を掲げている。その実現には太陽光発電の導入量を現状の55倍に拡大し、高効率のヒートポンプ式給湯器などを全世帯の9割に設置する必要があるといわれている。
太陽電池設置費用は現状の1キロワット時70万円から量産化によるコストダウンが進めば20年には26万円に下がると推計されており、太陽電池の高効率化と薄型化も進むと期待されている。
民主党は、太陽光や風力発電など再生可能エネルギーによる発電全量を電力会社に買い取らせる制度を導入する方針で、再生可能エネルギーの買い取り制度拡充によって電気代の負担が増える一般家庭のうち、低所得者層に対しては、電気代などを補助する検討を始めた。
09年1月の政府のPV購入補助金を復活、各自冶体も独自の補助金を創設しており、電力会社の発電全量の買い取り制度の導入などの動きで「太陽光発電住宅」に対する住宅購入者の注目度が一気に高まった。すでに住宅メーカーによる太陽光発電住宅商戦が過熱し、太陽光発電システム(PV)の搭載率が急上昇している。
太陽光発電と並んで注目されるエコ技術が、セルロースファイバーを使った高性能断熱材だ。古紙を繊維状にした天然木質繊維の断熱材で、製造エネルギー比較ではCO2の排出量が極めて少なく、冷暖房費は約30%節約できる。吸湿性に優れ結露を防ぎ、グラスファイバーやロックウールのような鉱物繊維を含まないので 有害物質や刺激成分はなく、また火災に遭っても 発泡樹脂断熱材のように有毒ガスや黒煙を出すことがない。
これらの提供は住宅購入者にとって電力使用料が低減され、冷暖房費も節約できるので、購入時のインセンティブ となる。住宅メーカーは自社住宅の競争力強化目指し、さらなるエコ住宅の開発販売へシフトしていくと思われる。
太陽光発電住宅は戸建て住宅だけでなく賃貸住宅でも普及しようとしている。日経9月19日記事の積水ハウスの太陽光発電システムを設置したアパートへの参入は、その結果生じた余剰電力を電力会社と入居者が直接買取契約して入居者の世帯光熱費が買い取り価格で減らせるというものだが、賃貸住宅の過剰供給で入居者に悩む不動産投資で活用される可能性がある。
■関連記事
民主党政権で不動産投資はどうなるの