電気自動車時代の到来と住宅各社のビジネスチャンス
トヨタのプリウス、ホンダのインサイトなどハイブリット車の売れ行きが目覚ましい。というか今売れている車はハイブリット車だけと言ってもいい。世界的に問題となっている地球温暖化ガスのCO2低減や大気汚染、ガソリン価格の高騰など、地球環境の保全やエネルギー対策の点からも日本のエコカーの先進技術は期待が高い。
低炭素化社会の旗手として注目を集めているエコカーだが、ハイブリット車の次にくる次世代自動車としてプラグインハイブリット車(PHV)や電気自動車(EV)の開発・実用化が急速に進んでいる。
プラグインハイブリット車は電池とガソリンエンジンの両方を搭載。家庭用コンセントから夜間電力などでバッテリーに充電し、モーターのみで電気自動車として近距離走行を行い長距離走行にはガソリンエンジンなどで走行するなど電気自動車への移行形態といえる。電気自動車(EV)は言うまでもなく「100%電気で走る車」で夜間電力を使った場合、燃費でガソリン車に比べて10倍、CO2の排出量で4分の1と低炭素化社会の本命となり得るため、ハイブリッド化に乗り遅れた自動車メーカーを中心に開発と実用化が急ピッチで進んでいる(本コラムではEVにPHVも含めて電気自動車と呼ぶ)。
まず電気自動車の先陣を切って三菱自動車がEVの「アイ・ミーブ」を法人向けに販売開始した。個人向けは7月から予約を開始して10年7月の納車になる予定。富士重工業も軽自動車「ステラ」ベースの「プラグイン ステラ」を法人や自治体向けに発売すると発表しており、10年には日産も約5万台を生産する見込みだ。
電気自動車のメリットの主なものとしては、
- 排出CO2の大幅な低減
- 大気汚染の削減
- 化石燃料といわれる石油依存度を低下
が挙げられる。まさに地球規模の環境対策と資源枯渇化という時代の要請から今後の発展が大いに期待できる分野である。しかし、その普及には現時点でいくつかのネックがある。例えば100%電気で走るEVは販売価格が極めて高価。三菱自動車の「アイ・ミーブ」は車両本体価格が400万円台半ばで政府の補助金(神奈川県などは自冶体の補助金もある)や重量税、取得税などの減税分を差し引いても300万円余の購入価額となる。
EVの価額が高価なのはモーターを動かすリチウムイオン電池のコストダウンが思うように進んでいないからだ。電池としてのパフォーマンスが高いのだが、高コストが難点で各メーカーはコストダウンに熾烈な開発競争を展開しているが今後の量産化が鍵だ(燃料電池という選択は現状で課題が多い)。
また、航続可能距離160kmという制約もある。満充電して走らせても160kmが限度だ。エアコンやヒーターを入れて走行すると航続可能距離はもっと短くなる。そして充電に要する時間も長い。一般家庭の100Vの電源で充電すると14時間かかる。ガソリン車の給油に要する時間と比べるとあまりに長い。
航続可能距離を超えてEVを運転するときは外出先で充電しなければいけないが、充電できる急速充電器を設置した施設や場所が殆ど国内に整備されていない。イオンのような郊外SCやコンビニ、電力会社の営業所、EVを販売したディーラーの店舗等で急速充電器を設置を進めていく動きはあるが、現時点では殆どインフラ整備がなされていない。
以上のようなEVの現状での課題からエコカーの本命は100%電気で走るEVよりもしばらくはハイブリット車→プラグインハイブリット車(PHV)だろうと予想されている。PHVは電池とガソリンエンジンを併用することでEVの航続可能距離の制約や充電切れ、電池の高価さがもたらす販売価格の高価格化を解消できるからだ。
しかし今後、EVの量産が進むとリチウムイオン電池のコストダウンが可能になるし、外出先での充電ステーションの整備も進む。EVの普及を巡るネック解消と量産化については「鶏が先か卵が先か」という関係になるものの日本のこの分野の技術水準は世界的に見てもトップレベルで携帯電話が急速に普及したような変化が起きることを期待する向きもある。
そろそろコラムの本題に入ろう。電気自動車(PHVを含む)時代が近未来に到来するのは確実で携帯電話が仕事や生活スタイルから若者のカルチャーまで一変させたように、電気自動車時代の到来は各業界に無限のビジネスチャンスをもたらすだろう。
逆説的に言うと現状でのインフラの未整備も各業界のビジネスチャンスになってくる。例えば住宅各社やデベロッパーは家庭での電気自動車の充電を想定した住宅の開発を始めており、スーパー、コンビニ、ガソリンスタンド等は、電気自動車利用者の外出先での充電ステーション提供が来店や店内での買い物等の拡大をもたらすと期待を寄せ設置に向けた動きを開始している。
■電気自動車対応住宅へ動き出した住宅各社、デベロッパー
電気自動車の登場で、住宅は変化する。PHVやEVには車の収容スペースとともに充電装備が必要スペックになるからだ。例えば伊藤忠都市開発が開発し、09年2月から販売開始した横浜市都筑区の「クレヴィアコート北山田」(全16戸)の駐車スペースには一般家庭で使われている電源用電圧の2倍に当たる200Vのコンセントが装備され、ダイニングルームに取り付けられたスイッチで、充電開始時間を予約できる。
三菱自動車のi-MiEVを通常の100Vで充電すると14時間かかるが200Vなら約7時間で済む。後付けでこれらの設備を設置すると外構部分をいじったり、工事コストが割高になったリするので新築時に予め設置してユーザーに提供するとユーザーのメリットは大きい。
「クレヴィアコート北山田」がある神奈川県は14年までに県内3,000台の電気自動車普及を目標にしており、充電インフラの整備が進んでいる。またEV購入時の補助金も政府以外に県の補助金も支給されるなどから電気自動車対応住宅への住民の関心も高いと期待されている。
さらにクリーンエネルギー時代の差別化戦略として太陽光発電と電気自動車対応を組み合わせた進化形のエコハウスがトステム住宅研究所アイフルホームカンパニーの「セシボ・アニバーサリー」だ。同社は4月1日から期間限定販売を開始している。
「セシボ・アニバーサリー」ではCO2の発生がない太陽光発電を採用。住宅と電気自動車を組み合わせ、太陽光発電と深夜電力を利用してEVなどへ充電できる仕組みとした。
太陽光発電搭載住宅は住宅各社がすでに開発し商品化しているが、電気自動車使用を想定してビルトインした形態を取る住宅は現時点で殆どない。同社は東京工業大学や三菱商事と共同して電気自動車に再生可能エネルギーを利用して作った電気を充電する研究を行い商品化を実現した。
駐車スペースには200Vのコンセントを標準装備し、タイマー付き深夜電力で電気自動車を充電できるので燃費効率は飛躍的に向上する。さらに読売新聞によると電気自動車を家庭用の蓄電池にする同社の計画もある。
「太陽光発電は天気が悪い日と夜は電気を作れない。蓄電池があれば、ためた電気を後で使えるが、容量の大きいものは100万円以上するため一般家庭への普及には壁がある。ならば、自家用車を蓄電池代わりに利用してはどうだろう。同社初の太陽光発電付き省エネ住宅の開発計画に、急きょ、電気自動車を組み入れた。住宅の太陽光パネルで作った電気を車の動力に回すため、車庫に充電用の200Vコンセントを追加した。車を使わない時は車にためた電気を家庭に「還流」させるが、そのために「変換器」が必要で、年明けから新たな実験を行う。住宅の見栄えより発電効率を優先させようと、パネルを置く屋根の傾斜も変えた」(読売新聞)。
駐車スペースに充電装置を設置し、室内のスイッチで充電開始時間を予約できるシステムは特別の技術は不要で設置コストも比較的低いので住宅価格への影響も少なく、電気自動車の量産化と普及が進めば住宅各社やデベロッパーによる採用が急速に進むと思われる。
太陽光発電をPHVやEVの充電に利用したり、電気自動車を蓄電池として利用する形態を実用化するのは今後の方向性だが、移動手段である車と居住空間としての家が電気という同一プラットフォームで結ばれることで家庭内のPCとカーナビの連携やホームオートメーション化と連動した電気自動車の商品化も進むと期待される。
■充電ステーション整備を巡るビジネスチャンス
EVの普及には航続可能距離の制約から充電ステーションの整備が不可欠であることはすでに書いたが現状では殆どその整備がなされていない。今後起きるであろうEVやPHV普及を睨んでの充電ステーション整備の動きはスーパーやコンビニ、コインパーキング、給油所などですでに始まっている。充電時の電気代の課金収入を期待するというよりエコに積極的な企業というイメージアップや来店客数の増加など本業との相乗効果が狙いだ。
例えば、08年10月2日、埼玉県越谷市に開業したショッピングモール「イオンレイクタウン」では国内商業施設として初めて、電気自動車用の急速充電ステーションを設置した。買物の合間30分程度で、満充電時の約80%(120km)走行可能な充電ができる。イオンはかねてより店舗のエコ化を標榜しており、エコに積極的な企業というイメージとその話題性が集客動員にプラス効果を及ぼしている。
またコインパーキング大手のパーク24は電気自動車時代の到来をビジネスチャンスと捉え東京電力と共同で電気自動車用充電設備の実証試験を開始した。パーク24が運営する時間貸駐車場「タイムズ」においてEVやPHVの充電を行うことを目標としている。外出先での駐車時間に買い物やビジネスを済ませその間に充電できるという「パーク&チャージ」構想を進めている。
EVはガソリン車の給油に比べ充電に時間がかかるというのがデメリットだが、逆にビジネスチャンスに生かしやすい。駐車場に駐車している合間の時間に充電を済ますとか、充電時間中に買い物や飲食などをと顧客が考え行動しやすいので充電時間が長い分、本業にEV利用者を誘引し易いともいえる。
東電など電力各社は小規模商業施設向けに急速充電器の小型化や低価格化を進めており、電気自動車の普及と相俟ってコンビニや飲食・物販店舗をはじめマンション、アパートの駐車場など身近な場所への設置が進むと思われる。インフラ整備がEVの量産化や普及を加速させるとEVの持つ燃費効率の圧倒的なパフォーマンスが既存の交通手段や交通体系に変革をもたらすだろう。
さらにEVが本格的に普及するとトヨタなど既存の自動車メーカーを頂点とするメーカー、部品業者などの巨大な産業ピラミッド構造を変えてしまう可能性がある。ガソリンなどの化石燃料を燃焼させる自動車は、多くの部品構成とその精緻な組み合わせや複雑なアーキテクチュアから他業の参入をこれまで排除してきた。しかしEVの構造はガソリン車に比べるとシンプルでベンチャー企業でもEVを完成させることは可能である。周辺業界や他業からEV開発への参入が相次ぐと自動車が持っていたイメージを根底から変革するような新たな移動手段に進化するかもしれない。
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