底堅くはなったが上値は重いJ-REIT

3月10日にバブル以後の最安値を付けて以来、快調に値を上げてきた日経平均もここにきて9,000円を目前に失速、上値の重い展開が続いている。ここまでの一本調子の上げ相場に対する警戒感が投資家に強く、来週から企業の決算発表が本格化、米自動車大手救済が大詰めを迎え、破産法の適用申請の可能性もある。5月4日には米大手銀行の資産査定(ストレステスト)の公表など目の離せないイベントが控えているので、様子見模様となっている。

3、4月の好調な国内株価を支えてきたのは、米国経済の底打ちの兆しや、中国の経済回復である。まず米国であるが米政府が打ち出した官民ファンド構想の追加策が具体的に踏み込んでいたため市場が好感。さらには米大手銀行のCEOが相次いで伝えたとされる自行の業績が予想外に良かったこと、米国内の新築・中古住宅販売や米製造業の景況感指数(ISM)が、市場予測を上回ったなどで市場に明るさが射してきた。

一方、中国も、国内融資の伸びや3月の電力生産量の伸びなどから世界に先駆けての底打ちが見え始めており、09年の中国GDP予測値を米モルガンスタンレーは5.5%から7%に、ゴールドマンサックスは6%から8%にそれぞれ上方修正している。米中の外需に大いに依存する日本経済に薄明かりが灯り、今まで総悲観で売り一色だった市場の空気が一転したわけだ。なかには実体経済の悪化を飛び越して株価のV字回復を性急に期待する声も出てきた。

当面の株価の上値目途であるが、200日移動平均線の9,800円台や、03年安値当時のPBR1.18倍に相当する現時の日経平均計算値10,300円が市場関係者の目線だ。しかし、4月に入ってからの株価は、チャート上の騰落レシオや移動平均線からの乖離率などテクニカル面の過熱感を警戒して上値が重くもみ合っており、今後の株価についてもポジティブな見方がある反面、慎重論もそれに劣らず多い。

慎重論は、米国内の金融システムの毀損とその直撃による実体経済の悪化の傷は想像以上に深く、早く見積もっても米経済の回復は2010年以降にずれ込み、その間は株価の紆余曲折があり、反落の可能性も高いと見る。これまでは米国民の過剰消費が世界経済という車体の強力な推進エンジンとなっていたが、過剰消費を支えてきた米住宅バブルが弾けたいま、米国内では単なる景気循環を超えた構造調整が起きており、エンジンのオーバーホールには相当の時間がかかり、米国依存度が高い日本経済の回復は当面は望めないとするのである。

国内J-REITの投資口価格も政府の相次ぐ支援策発表で底堅くなってきたものの上位リートでは株価に見られるような上値の重い展開が続いている。昨年9月、ニューシティ・レジデンス投資法人が民事再生適用を申請という突然死で市場の信頼が失墜し、大荒れの相場展開を招いた。しかし、その後、危機感を持った政府による矢継ぎ早の施策で、「放置されたまま市場が自然死、崩壊するのでは」といった一時の危機感は薄れ、市場に落ち着きが戻ってきた。

国土交通省は、昨年12月15日「住宅・不動産市場活性化のための緊急対策」を発表し、J-REITを含む住宅・不動産事業者に対して、日本政策金融公庫の危機対応円滑化業務を活用した資金繰り支援を打ち出した。09年1月22日には日銀の投資法人債等の適格担保化決定などが出された。これらの支援策発表に対して当初は「アナウンスメント効果を狙った市場対策にとどまる」といった見方も多かった。

しかし、政府の支援策も市場の強い要望もあってかなり踏み込んできた。例えば、J-REIT再編に向けての税制改正で、J-REIT同士が合併するときの「負の暖簾代」を配当として含めずに計算できるようにしたので、投資家に配当として支払わなくても合併時の法人税課税の回避を可能とする仕組みができた。また投資法人を含む特定目的会社等についての配当損金算入要件を変更し、導管性要件で課題となっていた税務と会計の不一致という問題も相当程度まで解消した。合併時に投資口の交換で発生する一口に満たない端数を現金決済で合併交付金という形で処理する一般会社の処理は投資法人には認められないという見方もあったが、09年税制改正で同交付金を配当として認めた。

さらに市場関係者に「満額回答」と言わしめた今秋創設を目指すJ-REIT救済の官民ファンド構想が出てくるに至って、政府の本気モードが見え出し、市場も投資価格の上昇とその後の底堅さで反応している。

市場再編期待の高まりでスポンサーリスクが高い下位銘柄が買われているが市場を盛り上げたのが、4月7日、米投資ファンドローンスターおよびグループ会社のKFキャピタルをスポンサーに選定したニューシティ・レジデンス投資法人の再生計画案だ。

買収価格1,200億円ということだが、仮にこの価額とすればレンダーや投資法人債を保有している債権者をカバーできる。またローンスターが既存投資家に対して実施する公開買い付け(TOB)の価格は一口当たり35,000円といわれており上場廃止時の価格14,200円の2.5倍に相当する。

破綻後にニューシティの投資口を買い集めた香港の投資家ブラウン氏の平均買いコストは1万円といわれているが、民事再生法適用申請した08年10月9日の終値は71,000円で破綻前の高値で買った投資家はカバーされないことになる。

このところのリート市場での再編目当ての下位銘柄投資だが思うような成果が上げられない可能性がある。「再編では救済する側による有利な内容になる可能性があり、今後の不動産価格の下落を考えると一流物件を除くと再編時の投資口価格の評価は簿価ベースのPBRなら0.2~0.3が精いっぱいとの指摘もあり、再編効果が見えにくく値が荒い動きになっている」(日経ヴェリタス)。

J-REIT相互の合併に対する市場関係者の反応にしても日経CNBCでのゴールドマンサックス証券のアナリスト岡田氏の指摘「物件のクオリティや企業文化の違いから合併に積極的でないJ-REITが多い」のような冷めた見方もある。

政府によるJ-REIT支援の施策が相次いだとはいえ、J-REIT投資のリスクは全て解消されるわけではない。J-REIT全体で2010年3月までに1.3兆円のリファイナンスがあり、そのうち1,130億円が投資法人債の償還といわれている。

リファイナンスリスクが下位銘柄で特にクローズアップされ、投資口価格の下落と銘柄に下位上位間の二極化を招いたが、リートの資金の借り換えにいまのところは銀行も応じている。日経ヴェリタスによると金融庁が4~6月に銀行の融資動向を集中的に検査するが、「自己資本比率の維持といった銀行側の理由で貸し渋りを許さない」という姿勢で臨んでおり、貸し渋りや貸し剥がしをしづらいという事情があるからだ。

しかし、J-REITへの融資時の金利スプレッドはワイド化しており、分配金の低下リスクにもなっている。また1,130億円に及ぶ投資法人債の償還のための資金調達は新規融資になるため、官民ファンドの創設と関連してこの成否の行方が注目される。

またリート投資のリスクとして不動産のファンダメンタルズの悪化が挙げられる。オフィス、レジデンシャルにおいては稼働率・賃料の低下が進んでおり、特にオフィスは東京主要5区で空室率7~8%上昇の可能性もある。収益不動産のファンダメンタルズは実体経済に遅行する。日本経済が日本海溝の海底近くまで沈んでも海面から陽光の一条でも届けば動き出す株価と違って不動産のテナント・入居者は、経済が海面まで浮上し、周りの様子を眺めて動意するからだ。

今期にとどまらず2010年3月期の企業業績予測も悲観的な数字が並ぶ。日本経済新聞によると野村證券が金融を除いた主要348社を対象に3月10日時点のアナリスト予測を集計すると10年3月期は売上高が前期推定比10%減、経常利益も20.3%減の予想となった。厳しい企業業績と相俟って企業による雇用や所得の削減はこれからが本番を迎える。収益用不動産のファンダメンタルズのコアであるテナント・入居者の賃料負担力の更なる低下が予測され、上値の重い展開がしばらく続きそうだ。

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